ユフィ

…………

 ユフィは一度のゲームで席を立った。


 僅かな負けのようだったが、見切りをつけたようだ。カジノ側が相手ではない故に、勝率は参加者全員一緒。だが、ごくごく僅かな参加料(カジノへの場代)の存在と、何より席に付いている者達のこのゲームに対する熟練度を考えると、勝ち目がないと考えたようだ。


 アリスやリアにどれだけ煽られようが、堅実な性格のユフィは、即座に席を立てる行動力と判断力を持っていたというわけだ。

リア

もうやめんの?
つまんないわね。

 ダナンの後ろに移動したユフィ。


 ダナンのゲーム進行を見ていると、実に効率が良く、手馴れた様子という事に気付く。意外にも(知的要素も含むゲームだから)センスは高く、それなりの経験を積んでいるようだ。

ダナン

くぅ~、
にいさん達もやるね。

 二度目のゲームは少し負けたようだが、三度目にはギリギリ勝利をもぎ取った形となる。しかも通常負けてしまう流れからの逆転で、勝負強さもあり機転が利く事が判明した。

ギダ

これは大したお手並みです。

 ギダは一度も勝てずにいたが楽しくプレイしている。負けがかなりの額に達しているようだが、表情に焦りは見られない。資金には困っていないのであろう。





 そしてユフィの思考にダナンが基軸に置かれたのは言うまでもなく、戦略が頭を駆け巡った。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 リュウが座るウボヴォンガのテーブル。

 ロココとフィンクスが隣で観戦している中、リュウはミニマムベットを賭け続け、そしてどんどん負けていた。一回10ガロンしか賭けないのだが、もう100ガロンは減っている。

フィンクス

はぁ~あ、
駄目なんじゃないか?

 フィンクスがつまらなそうに欠伸(あくび)をして席を立とうとした時、リュウが所有するガロンを全て賭けた。ディーラーが数えると3200ガロンもある。

フィンクス

マジか?
なんで急に……

 フィンクスの眠気が覚めた。ロココは金額の高さにとても心配そうな顔をしている。リュウはいつも通りのんびりした表情で飄々としている。むしろ眠たそうな気さえ感じられる。


 リュウの持ち金が一瞬で消えるか、倍になるか?勝負は一瞬のゲーム。目の前に配られたカードをただ開けるだけ。カードに手を伸ばすリュウ。フィンクスの目が好奇心でいっぱいになっている。ロココの心拍音が聞こえてきそうだ。

 なんの躊躇もなく開けられるカード。



 視界に入ったのは通常のカードではなく、特別なカードだった。この局面で出るのは非常にドラマチックなカードで、そのまま勝ちを選んでもいいし、勝った金額をそのままBETしてもいいカードだ。

リュウ

プッシュ。

 リュウが勝ち金をそのままBETする意思表示をした。すぐにディーラーから、リュウの手元にもう1枚カードが配られる。

フィンクス

おおおー!
す、凄ぇー!
いくのか!?

 フィンクスの歓喜の声があがる。

 さっきの欠伸は何処へ行ったのだろうか。現在賭け金は6400ガロン。このテーブルのマックスベットの5000ガロンを超える状態。勝てば12800ガロンにもなる。大勝だ。

ロココ

えっ!!

 リュウがあっさり表向きにしたカードに、ロココのみならずディーラーも驚きの声をあげる。なんと、もう一枚先ほどの特別なカードが出たのだ。

フィンクス

うひょおぉぉぉー!
ナーーイスッ♪

 フィンクスのボルテージが最高潮に達する。

 勝ち確定! 大勝! 全額勝負の大勝負の時に二連勝! 今迄の細かい負けなど些事に過ぎぬ金額。押しも押されぬ圧勝。歓喜の狂喜乱舞。ロココと手を取り合って、フィンクスは滅茶苦茶に踊り出した。

リュウ

プッシュ。

 さっきと変わらぬトーンで、リュウが意思表示する。迷いがない。というか、本当にルール解ってるのか? とさえ疑いたくなる。

フィンクス

マジ!?

 フィンクスが血の気を引かせて、驚嘆の声を洩らす。


 配られたカードに12,800ガロンが賭かってしまった。MAXBETを嘲笑う程の金額だ。






 ちなみに現在リュウ達が命懸けで迷宮に潜った場合、必要な出費を引いて残るガロンは、両パーティ合わせて平均1,000〜1,500ガロンほど。
どう考えても、大金を賭けて4倍になったガロンを無難に拾っておくべきだ。




 ロココが卒倒しそうになっているのを、フィンクスが支える。次のカードが配られている以上、今更何を言っても戻れない。魔物との死闘とは異質の緊張感。

 そしてリュウがカードに手を伸ばすスピードに変化はなかった。

 何の躊躇いもなく開けられたカード。

 ディーラーも一瞬、仕事を忘れていたのであろう。少しの静寂を破るようにディーラーが判定を口にする。

「セブンオーバー、プレイヤーサイド」

 リュウの勝ちを決定づけるコールだった。

 フィンクスの雄叫びが、カジノに響きわたる。

 さっきの歓喜の嵐を上回る安堵と愉悦。リュウの前に、見た事もない輝きと質感の高額コインが配られる。ニコッと笑顔を見せたリュウの瞳に、緊張感に耐えきれず立ったまま気絶しているロココが写っていた。

 ~兆章~     88、ぷっしゅ

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