第6幕
揺れる気持ち

……よし。深呼吸だ。なぜこうなったのか、どうして俺は人様の前でこの格好をしているのか…依頼も来ていない、そんな気分でもない…なのに…だと言うのに、なぜ……!

サヴァラン

衣装がそのまんまキャラメリゼってどういうことだよ!!!!!

アマンド

あらあらぁ、似合ってるじゃない、サヴァラン!

サヴァラン

ねえ…ひとつ聞いていい?

アマンド

なあに?

サヴァラン

ロミオって、ファントムマスクをしているんじゃなかったのかい?どうして目元全体を覆う設計になってるのかな…?

ルオネルト

それは僕から説明するよっ!

アマンドの後からルオがぴょこんと顔を出し、少し申し訳なさそうに話し始めた。

ルオネルト

本当はファントムマスクの予定だったんだけど…この劇、けっこう激しく動くシーンが多いんだよ。

ルオネルト

それだと、ピンで固定して、その上でゴムで固定する…って付け方が1番安心できるんだけど、それだと少し髪型が崩れちゃうんだよね…

ルオネルト

そこで…その型だよ

サヴァラン

そんな…だからって…これは…

ルオネルト

大丈夫だよサヴァランくん!すっごく似合ってるから!!

アマンド

ええ、本当に似合ってるわ!すごくしっくりくる!!

サヴァラン

だろうね!!!

仕事着だからね!!!

ルオネルト

でも…どうしても嫌なら、ファントムマスクにするよ。方法はまだあると思うし…

サヴァラン

いや…いいよ。これでいいよ…衣装一晩で仕上げてくれたのに、文句なんて言えない…

ルオネルト

本当?遠慮しなくてもいいのに…

女子生徒B

サヴァラーン!衣装合わせ終わったー?

女子生徒A

そろそろ練習したいんだけど…行けるー?

合わせ練習…?ああ、そういえば、体育館を借りることが出来たから、1度通すって言ってたっけ…みんなもうそこまで完成してるんだ…主役が台本持ちで舞台上がるってどうよ?まずいだろう?本当にこの最終決定に持っていったやつを一度尋問してやりたい…

サヴァラン

D'ac、今いくよ。

ルオネルト

ふふ、仮面をとる仕草も、なんか様になってるね

サヴァラン

き、気のせいだよ。気のせい…

女子生徒B

よかった♪他の子ももう揃ってるから、お早めにお願いね!

心臓に悪いことを言うルオから逃げるように、俺は台本を持って教室を出た…そうだ、結局配役確かめてないや…まあ、現地まで行けば分かるか…

サヴァラン

この格好で堂々と公に出るのはちょっと気が引けるけど…まあ、文化祭だし…

サヴァラン

せっかく合法的にこの格好ができるなら、楽しんでいかなきゃソンだよね!

サヴァラン

みんな、お待たせーー

ベルリーナ

きゃっ…キャラメリゼ!?

サヴァラン

ふえあっ!?

一瞬背筋が凍った。
反射的にドアの後に飛び退き、それから冷静に先程の言葉と声を反芻する…今の声は…

女子生徒A

キャラメリゼ!?どこどこ!?

男子生徒A

ははっ、違うよアラモードさん。あれはサヴァランだ。

ベルリーナ

あっ…そ、そう、ですよね…ですよね…

サヴァラン

ベルリーナ…

一度深く息をつき、再度体育館に入室する…うわ…すごいかわいい格好してる…ベルリーナも役者側だったんだ…

男子生徒B

あー、でも、言われてみれば似てるかもな…この前新聞記事で見たのと

女子生徒B

知らず知らずのうちに触発されちゃったのかもね!

女子生徒A

サヴァランが怪盗かぁ…絶対ないけど、カッコいいかもしれないね!!

……『絶対ない』は率直に傷つくけど…まあいいや。そのままみんなの輪の中に入るため、前へ進もうとすると、複雑な表情をしたベルリーナがこちらへ足早に歩み寄ってきた…待って!!心の準備がまだ出来てない!!!!!

サヴァラン

や、やあリー…

ベルリーナ

裾がほつれてます。こちらへ

サヴァラン

は、はい……

…やっぱり…怒ってるよね…クラスメートに目配せをし、俺はもう一度体育館の外へ出た。ほかの教室とは違う重い鉄扉を閉じ、背にはそれを、前にはベルリーナという板挟みの構図…この前は逆だったのになぁ…

サヴァラン

あの…

ベルリーナ

私も、あなたのことは大嫌いです

サヴァラン

う……

心が折れそう…当然だけど、相当根に持たれてる…

サヴァラン

あれは…その…!えっと……俺にも、聞かれたくないことがあったというか、地雷だったというか…その…だから……

サヴァラン

……ごめん…

ベルリーナ

…………

ベルリーナ

正体、バレちゃいけないのでしょう?もっと自覚を持って行動してください。心臓に悪いです

それだけ言うと、ベルリーナは鉄扉に手をかけ、それを押し開いた。先に言ってしまう前に、何か言っておきたくて口を開きかけるが、そこから言葉が紡がれることは無かった。紡がれたのは、ただこの一音

ベルリーナ

………ジュリエットは、私です。劇にまで私情を持ち込むつもりはありませんので、よろしくお願いします。ロミオさん

サヴァラン

………………へ……?

ベルリーナを通した鉄扉は、重い音を立てて俺を閉め出した。

サヴァラン

だめだああああ!!!全然集中できなかったあああああ!!!!

初めての練習の成果は最悪。ベルリーナの顔をまともに見れないというところとから始まり、最後には、台本を持って参加しているにもかかわらず、自分の台詞が飛んでしまったのだ。何やってるんだ俺は…!

サヴァラン

……こんなんで大丈夫なのかなぁ…上手くできる気がしない…

サヴァラン

応えなきゃ…いけないのになぁ…

なんだか泣きたい気分だ。幸い屋上には誰もいないし…少しセンチになっていても、誰にも文句は言われないだろう…

サヴァラン

……「ジュリエット…私は、君を信じたい」

この言葉を君に言えたら…どんなに楽になれただろう。プライドなんて捨てて、まっすぐに声を掛けられたら…

サヴァラン

……君を、信じたいよ…

ベルリーナ

……ここに来るのも、ずいぶん久しぶりな気がしますね…

ベルリーナ

ブリュレさん…

ベルリーナ

寝息…?

ベルリーナ

ブ、ブリュレさん!?なんでここに…

ベルリーナ

……寝てる…?です…?

ベルリーナ

……

ベルリーナ

……「私を信じて、ロミオ様。私の気持ちは、本物です。」

ベルリーナ

……

ベルリーナ

隣、失礼しますよ。

ベルリーナ

…お休みなさい

第6幕 2ホール目 揺れる気持ち

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