ーー物語は、ある男の悲劇から始まる…
ーー物語は、ある男の悲劇から始まる…
『劇団ウィンディ・ミラージュ』に所属する
ロミオ=エドワードは、優れた舞台俳優だった。
優れた容姿と、誰もが聞き惚れる歌声は、
当時あらゆる演劇評論家から支持を受け、
まさに花形と言って差し支えない
人気を誇っていた。
劇団の中での人望も厚く、
誰もが彼を愛し、また彼も、
演劇を愛するもの全てを愛していた…
しかし、ある日のこと…
何者かがロミオの楽屋に侵入し、
その顔に硫酸をかけるという事件が発生した。
ロミオは、顔の右半分と右目の視力を失い、
ステージに立つことができなくなってしまった。
硫酸をかけた犯人は未だ見つからず、
ロミオは自分の役者人生を絶った犯人を憎み、
他人のことも信用出来なくなって
しまったのだった…
『仮面の脚本家』として、新たな生を
見出しつつも、ロミオの心は固く閉ざされ、
かつての輝きを失ったその瞳は、
今も犯人への怨嗟の炎で満たされているーー。
第6幕
お探しの怪盗キャラメリゼは
こちらでお間違いありません
……っていうあらすじね
なにそれ…ロミオとジュリエットというより、オペラ座の怪人じゃないか…
本編には吸血鬼カーミラの要素も取り入れてるわ
脚本家の最近のブームはオペラかな?
採寸を済ませた俺は、台本を受け取るためにアマンドの元へ戻ってきていた。ロミオとジュリエットといえば、結末のために重たくなりがちだが…もっと重たくなりそうだ…。
まあ、入りはアレだけど、結末はハッピーエンドよ。安心して♪
そうなの?
ええ。
ロミオはこの事件のあと、導入に書かれている通り脚本家に転身するんだけど…その指導をするために立ち寄ったオペラ座で、連続殺人事件に巻き込まれるの。
殺人が起こる前、被害者とロミオの間でちょっとした言い争いがあって…それが原因で、ロミオが犯人と疑われてしまうわ
……ん?これ、恋愛テーマのものじゃないのかい?
ええ、そうよ。
ものすごいサスペンスなんだけど…
そこで出てくるのが、ヒロインのジュリエット=クリストよ。彼女は、ロミオの脚本に魅せられた舞台女優で、天使の歌声を持つと言われている美女よ!
ロミオの潔白を証明するため、彼に付き添い事件の真相を究明するの。それを通して、最初は彼女のことを信用出来なかったロミオは、だんだんと心を開いていくのよ…!
なるほど。ウォーミングミステリーって感じだね
……あ。そうだ…ジュリエット役は誰なんだい?
配役のページを読み飛ばしていたことを思い出し、パラパラとページを戻しながら尋ねると、アマンドはいたずら気な笑みを浮かべて答えた。
それはねぇーー
サヴァランくん!やっと見つけたぁ…
『生徒会』の腕章を付けた女子生徒が、俺の所まで歩いてきた…ヒロインは気になるけど…それはまたになるかな。何だろう…?
どうかしたのですか?
ええ…ミスコンの書類提出、一応今日までなんだけど…用意出来てるかしら?
え?ミスコン?
何のこと?
……あ、忘れてた
アマンド?
すみません!!すぐ用意しますね!!
最悪写真はカットでもいいわ。サヴァランくんが審査落ちするわけがないからね…
本人はずっと病欠してたわけだし、ゆっくりで大丈夫よ
あ、ホントですか?ありがとうございます♪
……アマンド?これはどういうことかな?
えーっとぉ…それがねぇ…
ごめんなさいね、サヴァランくん…実は…
貴方には『ミスターミセスコンテスト』…つまるところ、女装コンテストに出てもらうことになってるのよ
………ん?
んんんん~????待って待って待って聞いてない!!聞いてないよ!!
ご、ごめんねサヴァラン…また去年みたいにサボられたらたまらないから…ギリギリまで黙ってたのよ…!
バレてる!!
……じゃなくて!!どうして俺が!!
それがねぇ…去年、学校一のイケメンを決めるミスターコンテストを開催したのよ…本当は是非ともサヴァランくんに出てもらいたいところだったんだけど…
入学早々、全校女子生徒のハートをスピーチで鷲掴みにした貴方が出ると、結果が目に見えちゃうと思って、結局声をかけずに終わったのよ
そんなことが…
まあ…会長の言う通り、イケメン度で負ける気はしませんけどね
サヴァラン、貴方そういうところよ…リーナに好かれないの…
でもねぇ…それはそれで、学内の色んなところから反感を買っちゃったのよ
あー…言っちゃ悪いですけど…あまり盛り上がってませんでしたね…
そうなのよ…何故正真正銘の学校一のイケメンを出さないのかって…
面と向かって言われると照れるなぁ…
で、今年企画されたのが女装コンテストってわけよ
うん、そこが分からないんですけど
女子ウケがいいイケメンでも、女装技術じゃ他とどっこいどっこいってことよ。
そう!その通りよアマンドちゃん!!
これで、八百長疑惑が出ずに、安全にサヴァランを出場させることが出来るわ!
ということで、書類の記入宜しくね、サヴァランくん♪
あ、あのこれ棄権とかーー
はーい!お任せ下さい!サヴァランは、私たちがぜーったいに、美女にして見せますから!!
期待してるわよ!じゃあ、私他にも行くところあるから!
あ………
Mon dieu…
腹括りなさい、サヴァラン。去年仮病したバツよ
それにしたってあんまりだよ…
アマンド〜!ごめーん、サヴァランくんもう1回借りてもいい?
ルオ!丁度いいところに…!!
ちょっと手を貸してくれないかしら?サヴァランはそのあと好きにしてもいいわ
アマンド!?
うん!わかった!!僕も手伝うー!!
ふふっ…それじゃ、とりあえず後からサヴァランを押さえてもらっていいかしら?
りょーうかーい!!
それを聞いた俺はたちまち逃げようとするが、その前に後ろへ回ったルオに拘束されてしまった…!なんだこいつ!今めちゃくちゃ早かった!!
ちょいとごめんよぃっ☆
ふぎゅっ!?
しかも力強い!!!
これでいいわね…みんな、おいで!!
アマンドの拍子と指示で、今までどこにいたのかと思うほど大量の女子が、俺を囲うように集まってきた…なんだよこれ…俺が何をしたっていうんだ!!
ちょ、ちょっと待って…!なんでそんなに迫ってくるんだよ!!さっきこんなに女子いなかったじゃないか…!!ルオ!!ルオ離してくれ!!お願いだから!!
うーん…ごめんねサヴァランくん。
面白いことになりそうだから、女の子達に協力するね♪
Purée!!!!!!!
もう、サヴァランったら…そんな事言わないの!
ちゃーんと可愛くしてあげるから…安心してちょうだい♪
それが安心できないんだよ!!
それじゃ、みんな…行くわよ!!
Let's maquillage!!!!!!!
眼前には各々の化粧道具や服を持った女子…背面にはルオ…ダメだ…逃げられない…!!
やめろおぉぉぉぉぉ!!!!!
俺の叫びは、女子達の喧騒に飲み込まれ、誰の耳にも届くことはなかったーー
〜数十分後~
わぁ…
こ、これは…
っ……さ、サヴァランくん…そ、それ…!
ああ…終わった…
………最っっっっっっっ高じゃない!!
俺は今最っっっっっっっ低な気分だよ!!!!!
金髪の長いウィッグに、白いふわふわのワンピース…くしゃみに耐えながら化粧を施された俺は、傍から見たら完璧な変態だろう。ああ…これじゃもうお婿に行けない…!!
そんな…!すごく可愛いよサヴァランくん!!本物のお姫様みたいだ…!
本当ね…女子として負けた気分だわ…
はぁ…これで写真撮るんだっけ…?さっさと撮って戻そう…こんなのよそに見せられない…!
ああサヴァラン!!体育座りしないで!!男らしいところが見えちゃうから!!
うわああああ前から見んなああああ!!!
おいそこの大道具男子!!赤面すんな!!何でこんなのがいいんだよ!!みんな感性おかしいって!!
それじゃ、行くわよ~…はい、チーズ♪
うう……早く戻して…
なんかもったいないわねぇ…もっとほかの服も着せて…
そういうのは!!本番で!!いいでしょ!!!
あ、あの、アマンド…!
どうしたの、ルオ?
僕、服飾系の仕事目指してて、その…そういう関係で、エプロンドレスとか、メイド服とか……何ならその…
う、ウエディングドレスもあるから…!持ってきてもいいかな…!?
ウエ…!?
OK持ってきて!!本番色々着せましょう!!
やった!!サヴァランちゃんのウエディングドレス!!
もうやめてぇ!!
あっ、サヴァラン!!
ここはダメだ!!なるべく被害が最小限のうちに、トイレで着替える!!……あれ、制服どこやったんだ俺…いいやそんなことは後でいい!!ワンピースはいくらでもつなぎとして誤魔化せーー
きゃっ!?
わっ!?
べ……ベルリーナ…!
ごめんなさい…あまり前を見ていなく…て……
あ…あ……
さ、最悪だ…1番見て欲しくなかった人に…!!
……さ、サヴァラーー
ごっ、ごめん!!次は気をつけるから!!
あっ…
だ、ダメだ…こんな状態じゃ、謝るに謝れない…!!それに、それに…!!
君にだけは見られたくなかったよ…ベルリーナ…!!
ーーその後、謎の美女が大急ぎで男子トイレに駆け込んでいったが、その後出てこなかったという話が流れたが、それを俺が知るのはもう少し先のことである…
……あ。制服はルオが持ってきてくれたよ。彼は優しいのかそうじゃないのか、よく分からないなぁ…。
リーナ、大丈夫?結構思いっきりぶつかってたけど…
……アマンドさん、さっきのは…
…ええ、サヴァランよ。ちゃんと復帰したみたい
………よかった…
………大丈夫よ。ちゃんと仲直り出来るから…
そっ、そんな!!私は仲直りしたいだなんて一言も…!!
うふふ、強がっちゃって♪青春ね〜
あっ、アマンドさん!!