卵いりませんか?
へ?
仕事帰りの並木道。
出会ったあの娘は鳥でした。
すくらんぶる☆
それは、10分ほど前のこと。
いやー、仮病で会社を早退した
外の空気は美味しいねぇ
ん?
ぴーぴー……。
人通りの少ない並木道。
僕は、地面に落ちて
身動きが取れない小鳥に出会った。
見慣れない襟巻き模様。
珍しい鳥であるのは間違いない。
なんだー、変わったやつだな。
オマエ、どうしたんだ?
ぴーぴーぴー
もしかして……。
怪我でもしてるのか?
その鳥は道の真ん中で
何度か弱々しく翼をばたつかせるも
飛び立つことは出来なかいようだ。
周りを見回してみたが
あたりには人はおろか
仲間の鳥の姿もない。
いたたまれなくなった僕は、
人間の匂いが着かないよう
幾重にも重ねたティッシュでその鳥をくるむと
そっと抱き上げ道の脇に移した。
とりあえずこれで
人間に蹴飛ばされたりはしないだろ。
ぴぴー
近くに野鳥病院があるわけじゃないから
これ以上道にも出来ないけど……。
飛べるといいなァ……。
ぴーぴぴぴぴ!
……じゃあな。
ぴぃー……。
やれることはやった。
下手に関われば人の匂いがつく。
人の匂いがついた鳥は
群れから除け者にされると聞く。
ならばあとはあの鳥次第だ。
そう思った僕は
その場を後にしようと
踵を返す。
……その時だった。
待ってください!
ん?
振り返るとそこには
奇妙な出で立ちの女の子が立っていた。
………。
……じゃ。
ぴょ!!
まってくださーい!
なんだよー!
なんか用かよー!
俺、女の子苦手なんだよー。
え?あ?
そうなんですか?
ごめんなさい。
……。
……。
……じゃ。
だから、
ぴょっと
まってくださーい!
もう、なんなんだよ。
用があるならさっさと言ってくれよ。
あのさっきはお心遣い
ありがとうございまピた。
さっき?
だらピ無くも
行き倒れているわたピを
手厚く包んで保護ピてくれて……。
包む?
保護?
ふと僕は、
そのこの首に巻かれる
マフラーに気がついた。
忘れもしない、そのマフラー。
と言っても先程見たばかりなだけだが。
まさか、とり!?
ぴぃー!そうです!
出会ったばかりの貴方の逞ピい腕に優ピく抱擁された鳥です!
誰かに聞かれたら
誤解されそうなセリフだな。
そこでわたピ、思いまピた。
貴方のような優ピい人なら、
きっとわたピの思いを叶えてくれるって。
え?
なんか頼む気?
率直に言います。
……卵?
この……
卵いりませんか?
へぇ?
まだまだ日差しの強い
9月初旬のある日。
僕は卵を託された。
えー。
ぴょ!?
頂けませんって。
そんな……。
だって重たいじゃん。
ぴょ?
大丈夫です、わたピが持てるくらいですピ。
そのあとも大変でしょ?
俺、自分ひとりの食事でも
ひーひー言ってるような人間なの。
まぁ、サボり魔だからなんだけどね。
大丈夫です。
むピろ、お腹が減っているならちょうどいいと思います!
それに殻は燃えるゴミで捨てられます!
何がちょうどいいかわかんないけど、やけに人間生活に詳しい鳥だなぁ。
あと、ケチャップがオススメです。
ケチャップ?
はい。
美味ピいですよー!
美味ピい?
是非一緒に。
……。
……。
その卵を食う話かぁぁぁ!!!
さっきからそう言ってるじゃないですかぁ!!!
卵炒りませんかって!!!
すくらんぶる、すくらんぶるです!
だいたいあんた、
自分の卵食おうってどういう神経じゃい!
ピつれいな!
ぴちぴちの若鳥に向かって!
これはわたピが持ってるけど
わたピの卵じゃありません。
うちの弟たちの所に托卵されてたカッコウの卵です!
あ、それはなんかごめん。
というわけで……。
お腹が減って
行き倒れていたわたピに
愛のスクランブルエッグを!
怪我じゃなかったのか。
自由に鳥に戻れるのか。
便利だな。
ぴ。
運んでもらうのに、この姿だと重いですピ。
しっかし、カッコウの卵って食べていいのかね。
あー……。
カッコウの鳥権の為に補足ピておきますと
カッコウじゃないかも。
オイ!
まあ、混ぜた感じは鶏の卵と変わらんかな。
カッコウじゃないにしろ、
野鳥の卵って保護すべき気もするけどな。
人からするとそうかもピれませんが、
わたピ達からすると緊急避難というやつです。
現にウチの弟たちの命を脅かピていたのですから。
本当、人間社会に詳しいのな。
かと言って、巣から追い出された托卵は温める親もいませんですピ、腐らせるくらいならその命を頂くべきかと。
あ、砂糖は入れないでください。
注文の多いっこった。
:
:
:
はいよ、おまっとうさん。
スクランブルエッグっぽい物
わぁーい
では。
実食!
うッ!
あっ!
こ……これは……
程よいコクと、なめらかな舌触り。
砂糖を入れたらわからなくなる程の
ほんのりと帯びた甘みは絶品だ。
これは確かに砂糖を入れるべきじゃない。
美味ピいです!
今までいろんな人に托卵を預けては食べてきまぴたが、こんなに美味ピく調理された托卵は初めてです!
初犯じゃないのかよ!
決めまピた。
ん?
卵、いりませんか?
まだ食べたりないのか?
しゃーない、鶏の卵でもいい?
はい!
……じゃ、なくて……。
あの、その……。
んー?
うずらの卵は常備してないぞ。
もー!
ふくれっ面の鳥は
僕の耳元に口を寄せて
こう言った。
わたピと貴方の
た・ま・ご
(はぁと)
え……
ええええええええええええ!!!!
僕は鳥の婚活というものを初めて知った。
すくらんぶる☆
完
>銀城蘇芳さん
コメントありがとうございます。
当初、中盤の言い合いの前までが前編で公開していました。
この話の続きを後編としていたわけではありません。
どちらかというと……。おや、誰か来たようd