繋がれる日。















 これはきっと夢だ。

 なぜなら去年の追突事故で駄目にした単車(オートバイ)に乗って、俺はこの何処かも分からない下り道を走っている。

 大胆な緑色が特徴的で、とにかく加速しやすいところが気に入っていた。

 でも夢にしては随分と現実感がある。

 車両から奏でられる機械音、心が落ち着く景色、特にこの突き抜ける風の爽快感がたまらない。

 まあいいや、とりあえず目が覚めるまでこの至福の時間を大いに楽しもうじゃないか。





 今すごく『生きてる』って感じがするわ、ほんと。











 








 しばらく走っていると、前方から謎の光が見えた。

「対向車か?」と一人言を漏らしながら俺はその閃光を見続ける。

 いや、違う。

 あれは……何だ?

 漫画やアニメなんかでは観たことがあるような、謎の光を放つ空間が広がっていた。

 もしかしたら自分の知らない異世界に通じている扉なのかもしれない。




 ……。




 違うな、そういうことか。

 とにかく俺は迷うことなく、その光の中へ飛び込んだ。

 








 









「はっ!」

 気がつくと俺は部屋のベッドの上だった。

 起きた。

 やはり起きてしまったか。

 もう少しあの快感を味わいたかったのだが仕方ない、正直とても惜しいことをした。

 今更後悔しても遅いので、とりあえず現役大学生の俺は部屋のカレンダーに目を移す。






15日(水)




 お、そうだそうだ。

 水曜日には授業を一つも入れてないんだった。

 時刻は午前11時を回っている、ちょっと寝過ぎたみたい。

 これじゃせっかくの休日がもったいないな、外へでも出かけるか。

















なんでグリーンなのよ! 

たーくんなんてもう嫌いだから!!!
















 家から出る時、とても苦い記憶が蘇る。

 あれは一昨年のことだったか、いつも『たーくん』と呼ばれていた俺は幼馴染みで同級生の明奈(あきな)と交際していたんだけど。

 そんな明奈は俺に誕生日プレゼントとして単車を買ってくれた。

 勿論、最高に喜んだのを覚えてる。

 色は確か黒色(?)でデザインはかなりいいセンスしてたと思う。




 そう、乗り心地以外は良かったんだ。

 実際乗って走行してみると、加速感が本当に悪くて鬱憤が溜まっていった。

 だから俺は彼女に黙ってそのバイクを売払い、今朝夢で見たあの緑色で乗り心地が絶妙な方を買ったんだ。

 ちょっと考えればすぐ発覚することは分かったことだし、ほんと馬鹿なことをしたと思ってる。

 そして、現在も絶賛喧嘩中ってわけだ。

















 そうだ。

 今更だけど今日は時間もあるし、謝りに行こう。

 いつまでもこのままの関係ってわけにもいかないし、嫌だし。





 うん、明奈の家に行こう。











 





























 来客を知らせるインターホンが向こう側で鳴り響く。

 おかしいな、留守だろうか。

 ん、まてよ?

 よく考えたら休みなのって俺だけ?

 そうだよな、授業がないから時間があるだけで世間は基本平日営業。

 みんな学校や仕事に行ってるよな。




 冷静に考えた後、でももしかしてあそこなら……という場所を思い出した。

 二人のお気に入りだった場所。

 空港から出発する飛行機が直に大迫力で見える場所。

 学校帰りによく寄ったものだ。

 ここから10分もかからないし、期待はしてないけどちょっと覗いてみるか。



















































 そこには無限に生成されていく綿飴のような、とても美味しそうな景色があった。

 これは、よく二人でヨーグルト味のアイスシャーベットを食べながら見た雲だ。

 どこか懐かしさを感じる。

 今日はあまり暑くないから分からなかったけど……。




 「そっか、今って長期連休だっけ」




 アホ馬鹿100%丸出し発言をした後、目を下ろすとそこには一人の女性の姿があった。




 あれは明奈だ。





 よく見るとなぜか泣いているように見える。

 肩が小刻みに震えているからそう見えるのだろうか、意外に笑いを堪えているだけなのかもしれないな。





 いや、もしかしたらあの時の『単車勝手に転売事件』を思い出して……




 だとしたら、俺は叫ばずにはいられない。











あきなぁぁぁぁぁ!

ごめん!

ほんとうにごめんなさい!!!!!









 怒っているのか、彼女はこちらに振り向いてはくれなかった。

 いいんだ。

 俺は愛想を尽かされるだけのことをしたのだから。




 なんかでも、思い切り叫んだらスッキリしました。









 これでもう……後悔は…………














たーくん?


































 あれ、なんか突然暗くなったぞ?

 熱中症で倒れたか?

 あと最後に明奈の声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいかな?

 でもあの女性、明奈にしてはちょっと大人過ぎるから多分人違いだろう。

 雰囲気もどこか違ったし。











































 あ、あれ?

 おいおいまた今朝の夢かよ勘弁してくれ。

 完全に熱中症で倒れたから寝てます系じゃねえかよこれ。









 わけがわからずウロウロしていると、道沿いに置いてある『それ』を見て俺は全てを理解した。










 それは『紫色の単車』だった。

 今度は緑じゃないのかよ。





 でもこれ、明奈に買ってもらったやつにそっくりだわ。

 うん、色も確か黒じゃなかった、そうだ紫だ!  パープル色だった!

 やっと思い出せた。

 今度はこれで帰れってことか?

 でもこれほんとに加速しないんだよね。










 本当に鈍いバイクだよ……まったく。

 なんか色的に『ナス』に見えてきたわ。

 俺はこの野菜っぽい鈍間なバイクに体を預け、上り道をゆっくり走り出した。




























































はぁ――――――

今日もあっついなぁ






たーくん

元気してるかな……?


























おしまい。

繋がれる日。

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