――冒険者区、カジノ『パーリーポール』
――冒険者区、カジノ『パーリーポール』
冒険者区メインストリート。酒場の先にある娯楽施設。国営カジノ『パーリーポール』の賑わいは、冒険者区の中でも一番だ。
煌びやかな装飾と派手な看板、陰鬱さの欠片も見当たらない建物の雰囲気は、自然に心を高揚させる。
酒場でアリスと遭遇してから、一緒に居たコフィンが熱く語っていた。
ユフィさんの仰る通り!
ギャンブルでの資金調達は
愚の骨頂!!
資金を効率的に増やそうと
確率の低く胴元(カジノ側)に
有利なゲームに大切な資金を
投入するなど論理的では
ありません!!
これまでに見たことがないほど熱く語るコフィンに、アデルもロココも非常に驚いた。きっと相方のアリスに振り回されてきたのだろう。
コフィンが言い終わるのを待って、アリスが口を開く。
はっきり言って
ひょっこの坊主共には
カジノは早い……
まだギャンブルで勝負すると一言も漏らしていないし何もお願いしていないが、威圧的なその言葉に耳を奪われる。
だがその心意気を
無視するわけにはいかんな。
やはり心意気を見せた覚えもないが、アリスの表情が意気揚々と変化していく。
そしてシャセツを除く(「くだらん事に付き合ってる暇はない」そうです)全員で、カジノに行く羽目になったのだ。
入口を通って直ぐ両脇には、稀少鉱石である導碧石で出来たドラゴンの彫像がある。まるで カジノ全体の威光を象徴しているようだ。通路にある絨毯は、けばけばしく、直視すると微量のストレスさえ感じる程ド派手だ。
おおぉぉ~
凄い場所っすね。
凄い場所っす。
まるで凄い場所っす。
表現力なさすぎだろ。
今まで素通りでしたけど
中に入ると凄いですね。
アデルもハルと
同じ事言ってる。
たまにはこーゆーのも良いな。
ワクワクしてきた。
あまり羽目を外さないように。
皆さんやっぱり
今からでも止めておいた方が……
なぁに言ってんのよロココン。
折角だから楽しむのよ。
通路の先にある扉を抜けると、実際のギャンブルを行う広間に出る。様々なゲームを行うテーブルは勿論、ゲームの進行を行うディーラー、そして飲み物等を運んでくれるバニーガールが視界に飛び込んでくる。
天井は4階程の吹き抜け。煌びやかで豪華な内装。天井の真ん中から下ろされた特別製の特大シャンデリアが、広間全体に光をもたらしていた。
思ったより明るいわね。
もっと陰鬱としてる
場所かと思ったわ。
っすよね、そうっすよねぇ。
ワクワクするっす。
たまにはこうゆうのも良いね。
自分が知らない世界に
飛び込むのって素敵。
全員が中の様子に圧倒されて声を漏らす。
ゲームは多種多様で、カードとサイコロを使用するものが多い。他にはコインを使った単純なゲームもあるようだ。
一番人気のゲームは、カード・サイコロ・コインを全て使用する《プロチータ》。プレイヤー同士で金銭が動く、多人数が参加出来る対人戦だ。このようなポーカー等の胴元がいない対人戦は、人数さえ集まればどこでも出来る。故に、酒場でも常に誰かがやっている程だ。
酒場とは異質の賑わいが次々と目に飛び込んでくる。おそらく絨毯のけばけばしさは、多種多様なゲームに目を向けさせる為の柄なのだろう。
ギャンブルには
控除率ってのがあって
それがカジノ側の取り分。
つまり控除率が……
タコ坊主。
そんな御託はここで
並べなくていい。
意外にも理論じみた事を語り出すダナン。それを制止したのはアリスだ。今回、案内役として同伴しているアリスだが、うずうずした表情をそこかしこに漏らしつつ、自信満々のトーンで号令をかけた。
確率論や論理的戦略など
クソ喰らえだ!
坊主共、好きに賭けろ。
異常なまでに勇気の出るその言葉は、メンバーの背中を四方八方に押すには充分すぎた。
アリスの雰囲気に押されこの状況になった今、パーティメンバーの所持金を考え、効率的に動こうと思案していたユフィの思惑は儚く崩壊した。