今日、大地の通っている中央小学校は創立記念日で
お休み。

俺は半年ぶりに有給を取って、
日頃淋しい思いをさせている大地にちょっとした
サービスのつもりで、
前々から強請られていた水族館とポケモンセンター・
静岡へ行き、その帰りにデパ地下の食品売り場へ
立ち寄った。

(注略! 実際のポケモンセンターは静岡県には
 ありませんが、物語の便宜上静岡にもあるもの
 としました)

時間は午後1時を少し過ぎたところ ――。

大地

ね、ね、お父さん。ホントに今日はずーっと一緒ですか?

手嶌竜二

おぉ、ずーっと一緒だ

大地

途中で患者さんの所へ行ったりしませんか?

手嶌竜二

あぁ、今日は大丈夫。ちゃんと有に頼んできたからな

大地

わーい、じゃ、お昼ご飯はお父さんのオムライスが
食べたいです!

手嶌竜二

オッケーお安いご用だ……なぁ大地、いつもあんまり
一緒にいてあげられなくてごめんな

大地

ううん ”ごめんね” は言いっこなしです。大地は
お仕事してるお父さんも大好きだから

手嶌竜二

そっか……

今、この老舗デパートの地下食品売り場では
”全国駅弁フェア” なる催し物を開催中で、
平日でも結構な人混みだ。

手嶌竜二

うわぁぁ~、想像以上の混み具合だなぁ……大地ぃ、手、離しちゃだめだぞ

大地

はぁ~~い

って、返事は良かったが。

久しぶりのお出かけに大地は何時になく
ハイテンションで、1分1秒でも早く目的の
和スウィーツを買いに行きたくてウズウズ
している。

大地

ね、お父さんっ、見つけた! あそこだよ。芋ようかんのお店

手嶌竜二

―― では、手嶌隊員、ゲットの前に偵察だ。先に売り場を見てきて下さい

大地

はいっ。了解です。手嶌隊長

大地は喜び勇んで俺より2~3歩先に売り場へ
小走りで行った。

そして、お目当ての芋ようかんを発見し大喜び。

大地

うわぁぁ、お父さん。あったよ、あった。永禄堂の
芋ようかん!

手嶌竜二

おぉ! ホントだ、あったな

って、手を伸ばした芋ようかんにもうひとつ、
女性のしなやかな手が横から伸ばされてきて、

「あ ―― っ


手嶌竜二

すみませ ――

と、言いながら横を見れば、その女性は何と!

絢音だった。
彼女の娘さんが学校で倒れ、診療所へやって来て、
その時診察にあたったのが俺だった縁で、
あの夜以来も何かと接点はあったが、プライベートで
会うのは同窓会以来だ。

手嶌竜二

あ、あや ――

絢音

りゅ ―― 手嶌、先輩……

(聖月も言っていたけど、
 彼ってかなりのイケメン……)

絢音

あ ―― その節はどうも、です……

手嶌竜二

いやはや何とも……

大地

お父さん、どうしたですかぁ? 芋ようかん、買わないんですか? 偵察、失敗ですかぁ?

絢音

あ ―― お子さん、ですか?

手嶌竜二

は、はぁ ―― ハハハ……次男の大地


  

絢音はその芋ようかんを手に取り、
大地の前に屈んで芋ようかんを手渡した。

絢音

はい、どうぞ

大地はつい条件反射で受け取ってしまってから、
俺の様子を伺っている。

手嶌竜二

あ、どうもすみません ―― ほら大地、こうゆう時はちゃんとお礼しなきゃ

大地

あ、はい! ありがとうございました

絢音

いいえ、どう致しまして。―― 大地くんは幾つですか?

大地

8才です

大地

アハハ ―― ちゃんとご挨拶出来ていい子ね。ここだと歩いてる人がたくさんだから、パパがお会計するまで、小母さんさんとあっちで待っていようか?

大地

パパじゃあないです。お父さんです

絢音

あ、そっか ―― じゃあお父さん、一緒に待とうか。―― ね、先輩、あそこの休憩スペースにいますから、会計して下さい

手嶌竜二

あ、そうか? 助かるよ。すぐもどる

俺がレジで芋ようかんの会計を済ませ
2人の待つ休憩スペースへ向かうと、
絢音と大地はずっと前からの顔見知りの
ような雰囲気で和気あいあいと語らっていた。

絢音

アハハハ ~~ そっかぁ、偵察隊だったのかぁ

大地

はい。偵察大成功ですぅ ――あっ、お父さん!

手嶌竜二

ごめんなぁー、何か子守りさせちまって。それに譲ってくれてサンキュ

絢音

いえ いえ ―― この店の芋ようかん、美味しい
ですよね

大地

はいっ。美味しいです。――あ、でも……


    

絢音

んー? 何かな

大地

……絢音さん、芋ようかん、食べられません

手嶌竜二

だ、大地……

大地

美味しいモノは、仲良く分けて食べましょうって、先生が言ってました。独り占めはダメだって。あ ―― うちは、お父さんとツナ兄と僕の3人だから、3人占めだけど……

絢音と俺は思わず笑ってしまった。

手嶌竜二

ようするに ”絢音さんもご一緒にいかが”って事かぁ? 大地

大地

はいっ! そうです。お家で皆んな一緒に食べれば
いいです

絢音

そんな……とんでもない

手嶌竜二

ふふふ……悪いけど、こいつの言う通りにしてやってよ? 迷惑でないなら

絢音

……そうですかぁ? じゃあ、お邪魔でなければ

何か、大地のわがままをゴリ押しする形に
なってしまったが、
絢音は俺の図々しいお願いを快く聞き入れて
くれた。
 

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