見えた目的の場所の正門をくぐり ――、

遊具の点在している園庭を駆け抜けて。

竜二は走る!

花やら、動物やらが可愛らしくくり抜かれた
色画用紙や色とりどりのセロファンが
ペタペタと貼られた出入り口となっている
大きな扉を開いた。

ガラリ ――――

手嶌竜二

す、すみませんっ。はぁ はぁ……お、遅くなりました……

息を切らせてそれだけ言い、
見渡した室内には延長保育枠の
お揃いのスモックを着た園児及び学童保育の児童が数人。

その傍らにエプロン姿の若い女性が1人。

大地

あっ、ほんとにお父さんだぁ!

その中から飛び出して来る、
七三分けのヘアースタイルが凛々しい男の子。

この、青空学童保育所に通う、
次男・大地だ。

 

わぁ。良かったね~大地くん。お父さんがいらして
くれて

と、大地に勝るとも劣らないキラキラ笑顔を
向けたのは、
このクラスの担任保育士、仁科洋子先生。

大地

もーっ、お父さんってば遅いよ~っ。僕ずっと待ってたんだからね

手嶌竜二

ん、かんにんな……


  

まだゼェゼェと、肩で息をしている
俺の足にまとわりつき、
頬をぷく~っと膨らませる可愛い大地の
頭を撫でて謝る。

――謝るから、ちょっと休ませて……。

ううっ……やっぱ、アラフォー間近の老体に
全力疾走はもうしんどいわ。

足はガクガク、脈拍も異様に速くなって
呼吸が整わない。
額から流れる汗を袖で拭いながら
深呼吸を繰り返していると ――、

お迎えお疲れ様です、手嶌さん

ニコリ。

”わぉ ―― っ、彼と大地の笑顔いっぱいで
疲れなんて一気に吹っ飛ぶわ”

大地くんってば、今日はお父さんがお迎えなんだぁ
って、朝から凄く楽しみにしてたんですよ

大地

―― お父さんー、靴はけたよー

手嶌竜二

偉い偉い、ほな帰ろっか。大地、洋子先生にご挨拶は?

大地

ようこせんせー、さようなら

ハイ、さようなら。手嶌さんもお気をつけて

手嶌竜二

あ、はい、じゃ、失礼します

元気よく挨拶をした大地に手を振ってから、
俺へ向けても手を振られ、
ペコリと会釈を返して背を向けた。

園庭を横切る間も、何度か振り向き手を振る大地に
洋子先生もずっと手を振って見送ってくれていた。

東京から鬼啼島へ異動になって早や1ヶ月少々――
  
人事異動したばかりの市立病院から再び医局人事の
打診を受けた時は、よもや生まれ故郷に戻る事に
なるとは思ってもいなかったが、ちょうど、大地の
小児喘息の治療にも限界を感じていたので、
思い切って異動の話しを承諾した。

ま、只今青(性)春真っ盛りの長男・綱吉は
”鬼啼島? なにソレ?”って感じで、親子3人
揃っての転居にあまり乗り気ではなかった。   
が! 入学式を終え新しいクラスメイトとの
顔合わせも終えたあと、その表情はコロッと
180度変わっていた。

なんでも、同じクラスに超可愛い女の子がいて、
しかもその子と席が隣同士になったんだそうな。

自宅は勤務先の前浜診療所から歩いて
10分程度の県営住宅・3LDK。
1階なので小さいながらも庭付きだ。

大地も静岡市内にいた頃は週に2度は酷い
発作を起こしていたのに、市内よりは空気の澄んだ
島へ引っ越したとたん、あれほど酷かった発作も
ピタリと止まった。

徒歩圏内に小児緊急外来を備えた病院・
各種就学施設・金融機関・商店街などもあり、
子連れヤモメには絶好の住環境だ。

大地と一緒の時は、15分ちょっとの道のりを
手を繋いで並んで歩く。

 

手嶌竜二

―― ふ~ん、そっかぁ、で、今日は何して遊んだん?

大地

んっとねー、きょうは、美保ちゃんとブランコして、
恭子ちゃんとえほんみて、愛ちゃんともおすなばであそんだー

ってか、美保ちゃんに、恭子ちゃんに愛ちゃん、
だぁっ??

揃いもそろって女の子だけじゃないか……。

大地

ね、どうしたん? お父さん

手嶌竜二

あ、ううん、何でもない。今日もぎょうさん遊んだん
やなぁ……楽しかったか?

大地

うん! すっごくたのしかった。あ、でねー、おすなばでようすけせんせーがちょーかっこいいおしろつくってくれたの、それからねー……

指を折りながら今日あった楽しい事を
嬉しそうに話す大地に、
時折相槌を打ちながらゆっくりと歩いた。

イクメン竜二とその息子たち

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