互いの自宅のある**方面へ向かって走行中の
タクシーの中 。
それまで車窓に流れる景色を睨むよう見つめていた
絢音がおもむろに叫んだ。
互いの自宅のある**方面へ向かって走行中の
タクシーの中 。
それまで車窓に流れる景色を睨むよう見つめていた
絢音がおもむろに叫んだ。
停めて
はいっ??
いいからここで停めて!
ドライバーは言われるままに、
路肩へゆっくりと停車して
ハザードを点滅させた。
何を思ったのか、絢音は、ロックをガチャリと外し
ドアを開ける。
絢っ
途端、季節外れの寒風が車内へ容赦なく吹き込む。
それでも躊躇うことなく、絢音はドアの外に
足を下ろした。
竜二も慌ててその後を追った。
絢音はそのまま、路肩沿いの土手を駆け下りて行く。
土手沿いの遊歩道にある数百本の桜は、
今はまだ五分咲きといったところだったが、
そよ風にハラハラと舞う狂い咲きの枝垂れ桜は、
近隣の家々から漏れる薄す明かりに照らされ
息を呑む程の美しさだった。
ちょうど自分らの脇を通り過ぎていった、
5才位の子供の手を引く若い親子連れの後ろ姿に、
在りし日の父と自分の姿をオーバーラップさせる
絢音 ――。
家の近くにもこんなとこあってさ、小さいの頃、出勤前のお父さんとその並木道を散歩するのが一番の楽しみだった
ふ~ん……
その時、吹き抜けた一陣の風が足元に溜まっている
桜の花びらをぶわぁ~っと吹き上げ、
その景観に絢音はうっとりとした視線を向けた。
わぉ、すっごぉい……
……
キラキラして見えたり、触ってみたくなったり……
所かまわず押し倒したくなったり ――っ、
急に真顔になった竜二が自分をじっと凝視
しているので、絢音はなんだか不安になる。
……せん、ぱい?
(まいった。すっげぇ、可愛い……)
絢音の華奢な体はちょっと力をこめ引っ張った
だけで、いとも容易く自分の腕の中へすっぽり
収まった。
先輩 ―― っ
その肩を抱いた手にゆっくり力をこめていくと、
絢音の体はほんの少し強張った。
普段どんなに虚勢を張ってはいても、
根はまだまだ純情な小娘なのだ。
だから、強欲と血にまみれた自分の手では
穢したくなかった。
(やべぇ ―― めっちゃキスしたい……)
その時、たまたま女子高生のグループが
土手を上がってきたので、2人はパッと離れた。
が ――、
ちょっと、今のアレ、見た?
見た見たっ。やっぱアレってリアル**よね~
すんごくイイ雰囲気だったじゃん
やぁん、なんだか変な想像しちゃうじゃなーいっ!
ヒソヒソ話す女子達の声は、
竜二と絢音にもかろうじて届く。
(―― 女子こーせー、怖っ……)
え、えっと、そろそろ、車へ戻るか
あ、う、うん、そうね……
*** *** ***
女子高生達の思わぬ水入りで、
絢音と竜二の興奮は中途半端に削がれた形
となったが、自宅へ向かう途中の車内は
2人きりなので。
外見上は平静を装ってはみても
お互い必要以上に意識し合っているのが
明白で……。
この沈黙、何とかなんないかな……
くっそ ―― 何なんだよ……さっきから心臓バクバクいって止まんねぇし、口から飛び出ちまいそうだ……
そっか! こうゆう時はまず年下の私からなんか話しを振らなきゃ……って、なに、話せばいいんだろ……
絢音の奴、さっきはぜってぇ勘違いしたよな。実際問題、あの邪魔が入らなきゃ、マジやばかったんだから
お願いだから何か話してよ
しかし……絶好のチャンスを逃したような気もしなくはない……
そうこうしているうち、タクシーは無事
絢音のアパート前に到着した。
2人はそれぞれ違った意味で深くため息をついた。
はぁ~っ、やっと着いたよ……
はぁ~っ、やっと着いたよ……
しかし!
絢音がドアのロックに手を伸ばしたのが
合図だったように、
竜二は絢音の体をグイっと引き寄せる。
ごく自然と2人は間近で見つめ合うような
感じになり。
竜二は、いつもはほぼ前髪で隠れてしまっている、
絢音の見開く大きな瞳をじ~っと見つめた。
な、何……?
竜二は絢音の顔からメガネを外し、
自分の胸ポケットへ。
だから、何なんのよ?? メガネ返して
……んと、オレ、何やってんのやろ……
自分でもよう分からん……
……先輩?
何かを訴えかけるような絢音の真っ直ぐな瞳を見て
竜二の中でガラガラと理性の崩れ落ちる音がした。
わっ!
小さな悲鳴を上げた小さな唇は竜二に塞がれ、
それきり声どころか吐息すら吐き出すことが
出来なくなった。
”ヤベェ、止まんない……”
貪るようなキスをしながら竜二の頭の片隅には
そんなことがチラッと過った。
突然の事でさすがにパニくった絢音は、
必死に体を捩って竜二から逃れようとするが。
それを許さないとでもいうように、
竜二は素早く絢音側のシートベルトを外し
竜二の大きな体が絢音の体に覆い被る。
”あぁ、マジにヤベェよ……どーする? オレ”
*** *** ***
竜二は唇を絢音の真っ白な細い首筋に這わせながら
必死に理性の欠片をかき集めた。
強めに首筋を吸い上げたあと、
シートに手をついて絢音との距離を開けた。
……すまんかった
気まずそうな顔をした竜二に絢音は ――。
……
竜二は絢音が自分に身を任せてくれた事が、
まだ、自分が求められている証のようで嬉しかった。
竜二はため息をつくと絢音から体を離した。
”中坊じゃあるまいしこんな所でなに
サカってんだよっ”
ホント、すまんかった。ガキみたいな事した
絢音は乱れた服と髪を整えながら降り立ち、
足早にアパートの鉄階段を昇って行った。