同窓会の会場は学生時代も良く皆んなで
屯(たむろ)した洋風居酒屋だ。

前回から4年ぶりの集まりになる。

開始時間の大体30分前位から、懐かしい顔が
集まり始めた。

全員、33才から32才。
アラフォー目前の小父さん・小母さん、
ってとこかな。

仕事に就いている者は結構責任のあるポストへ
就いていたりもする。

と、言っても、大半が店長・マネージャー・主任、
クラスの役職だが。

お酒など入らぬうちから、懐かしい話に華が咲き。

気分はすっかり高校生だ。

もうすぐ7時になろうとするギリギリの時間――。

当時、ほとんどの女子(偏屈な私を除く)が
憧れていた、
”理系クラスの王子様=手嶌 竜二”が来た。

彼が現れた途端、ソコだけ時の流れが止まり、
一面ピンク色に染まって。
おまけに薔薇の花びらまで舞い散っているように
見える。

彼はうちらの2学年先輩なので35~6才だが、
学生時代と全く変わらない凛々しい佇まいと
端正な顔立ち。

今日集まった女子の誰もがそう思ったに違いない。
みんな一瞬言葉を失ったように、ただ ただ
彼を見ていた。

最初の乾杯と共にお待ちかねの祝宴が始まる。

乾杯の後は各々の簡単な挨拶=近況報告。

前回もそうだったが、男子達は地元残留4割り、
残り6割りは都会に転勤していたり、
海外勤務だったりと色々。
女子は約8割りが結婚し子供もいる、
ごく普通の主婦だった。

 
乾杯の後はそれぞれの席に座って
隣の人間との会話をしていたが、
30分も過ぎると席なんてあってないようなものに
なっていた。

……私はまだ自分の席に座ったままで
料理にはしをつけていた。

手嶌竜二

―― そう言やぁ絢音とは最後の学園祭のあとデートしたっけね。覚えてる?

絢音

もちろん覚えてるよ。異性とデートなんて、私の人生で数えるほどしかないもん

先輩は男子バスケ部のポイントゲッター。

絢音

先輩ってば後輩の中にはもちろん、他校にだってファンがたっくさんいたのに、彼女作らなかったよねー。私の感が当たってたとしたら……好きな女子いたでしょ?

手嶌竜二

それはお互い様だろ~

絢音

え?

手嶌竜二

だって、俺と噂になった時だって全く普段と同んなじだったし、デートだってあんまり楽しかなかったろ?

絢音

そ、そんな事ないよー

手嶌竜二

今さらお世辞なんか言わなくていいから。俺ねー実は、絢音が誰を好きだったのか、大体分かってるんだぜ

絢音

いや、分からないと思うけどなー

手嶌竜二

クラスの連中じゃなく、上級生の中にいたんとちゃう? 絢音の本命くん


 

(うわ ―― なんでそんな事、知っとるん?
 それが私のマジな初恋で、初失恋だった。
 そりゃまぁ、私だって自分の程度はわきまえてる
 つもりだけど、まさか、告白と同時にあんな
 理由でごめんなさいされるとは思っても
 見なかったのである)

===============

ホントは、あのままずっと告るつもりはなかった

なのに! お節介焼きの琉奈が、私の意中の彼を
放課後・校舎裏の空き地に呼び出してしまって……

案の定、彼からは”ごめんなさい”とお詫びされ、

ほんとにごめんね。べ、別にキミが嫌いとか言うワケじゃないんだ。僕……

絢音

あ、いいよ いいよ。気にしないでぇ。ダメ元で言っただけだから

……キミ、口は固そうだから思い切って言っちゃうけど……

(え ―― 思い切って、って何を?)

やおら彼は後方の非常口へ向かって
『たっちゃん』と明るい声で呼びかけた。
と、その非常口から、学年いちのツッパリと
言われている男子が出て来て、彼に歩み寄り
当たり前って感じで彼の隣へ止まってその腰へ
手を回した。

(ちょ、ちょっと待って……コレってもしや)

僕、**達也と付き合ってるんだ

(あー、やっぱりぃ~)

お前、1年の小鳥遊だったな。鈴本に告った勇気は認めてやる。が、こいつは俺のもんだ。この先こいつに
ちょっとでも妙な真似しやがったら、この俺が許さねぇ。分かったか

そう、ドスの利いた声で宣言した**に
私はただ黙って頷くしか出来なかった。

===============

絢音

……

手嶌竜二

お前さ、根性無さ過ぎ。あの時のデートにしたって、いっそ俺が断ればよかったかなと思ってる

絢音

ちょっと待って ―― そこまで知ってるなら鈴本先輩がゲイだったって事も知ってたんじゃない?

手嶌竜二

…………

絢音

やっぱりね~

手嶌竜二

まさかお前、告ったのか?

絢音

悪い?

手嶌竜二

い、いや、別に悪かぁねぇけど

寺嶌と私が何やら真顔で話し込んでいるのを見た
連中がやんやと騒ぎ出す ――

おいおい、17年前の噂のカップルが今また恋再燃かぁ?

同窓会で不倫しちゃうの多いみたいだぞー

”不倫”って何よ……私らはまだ2人とも独身よ、
って、そうだよね?

絢音

ちょっと! 先輩と私は何もなかったし。私にも先輩にも他に好きな人いたんだからね

えっ? そうなの? 2人は付き合ってたんじゃなかったの?

絢音

残念でした。私は他に意中の人がおったし、先輩だって……ね?

そうなのか? テラは他に彼女いたのか? 初耳だぞ

手嶌竜二

彼女なんていないよ。俺、もてなかったし

絢音

だから今ね、先輩に説教してるの。って事だからもう少し2人だけにさせてね

はぃはぃ ――

絢音

―― 結婚は、しなかったの?

手嶌竜二

したよ。でも、カミさんには先立たれた

絢音

あ ―― 私ってばごめん

手嶌竜二

いいよ。もう、5年も前の事だ。今はやんちゃ坊主の子育てに右往左往してるよ

絢音

あら、お子さん男の子なの?

手嶌竜二

あぁ、上のはこの春・高校に上がる。下はまだ小学3年だ。絢は?

絢音

え?

手嶌竜二

だから、子供。あ、ってか、結婚はしたのか?

絢音

あ、う、うん……実はバツイチ

手嶌竜二

なんだぁ、俺ら似たような境遇なんじゃん。で、子供は?

絢音

う ―― うん、女の子。うちも先輩んとこと同じで
この春から高校生

手嶌竜二

うわぁ、そりゃ奇遇だな。もしかして学校は……

絢音

うちらの母校だよ

手嶌竜二

じゃあ同級生だ

絢音

へ?

手嶌竜二

あ、言いそびれてたけど、俺、この春から島の診療所勤務になったんだ

偶然に重なる偶然の事態に、
開いた口が塞がらなくなる、とはこの事だ。

手嶌竜二

ん? どうかしたか?

絢音

あ ―― 何でもない。え、えっと ―― 今日は
思いっきり飲も

手嶌竜二

お ―― おぅ、そうだな

先輩の空のグラスへビールを注ぎながら、
高鳴る鼓動を必死に抑える絢音だった。

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