眼を閉じ、男の言葉を振り返るように、彼女は口を開く。
ケッツァーさんも、言っていました
眼を閉じ、男の言葉を振り返るように、彼女は口を開く。
遠ざけられて、知らされなくて、教わることができなくて。なのに、みなさんに、触れられることもなくて。……だから他の方を、黒く見ることしか、できなかった
ふりかえる言葉には、ゆったりとした重さがある。
かつての世界で、男がすごした日常。
リンが想い返す言葉は、男からそう聞いたものではないが、その内容をよくとらえていた。
でも、暖かい女性がいたから、救われた。そう、おっしゃっていました
優しく語る表情は、男が灯した笑顔のよう。
それはまるで、吸い上げた光から、その想いをすくいあげているかのよう。
(……吸い上げた光に、そんな力はない)
かつて、グリが言っていた言葉。
光の中へ取りこまれた形は、私と語っていた時の意思や言葉は、なくなってしまう。
――どんな形も、それは、逃れることはできない。
だから、男のような、なんて受けとり方は間違いだ。
リンはその想いを、一緒に灯したいと願うのです。……この闇を一緒に歩いていく、そのために
そして、その言葉もまた、そう彼女が感じているだけの自己満足。
……あなたが、その彼女になるって言うの? この、闇の世界の
想わず私は、払いのけるように言ってしまった。
誰かの救いにより、変わることができたという、男の話。
それを、代弁する彼女に。
そ、そんなことはできません。ケッツァーさんにとっての大切な方は、リンじゃなく、女性の方なのですから
……
男は、だが、その存在を忘れようとしていた。いや……その心の責めに耐えられず、かつての光を埋め、闇に同化しようとしていた。
リンには、光を灯して差し上げることは、できませんから
すまなさそう顔をするリンに、内心、二つの感情が混じる。
(吸いとることしかできない、私達。……でも)
男のなかへ眠り、闇の奥へと沈んでいた、強い光。
かつての世界でそれを灯し、世界から見捨てられた男を救ったのは、男の言う女性なのだろう。
だが、ここは、闇の世界。
ここで、それを想い出させたのは……かつての世界の、女性ではない。
(それが、男の持っていた光を、灯させたのだとしても)
――消えかけていた光を、また灯したのは、今眼の前にいる彼女なのだ。
でも……もし、ケッツァーさんがその彼女のことを想いだしてくれたら。もし、ケッツァーさんが、それで大切な時間を取り戻してくださるなら
リンは、見も知らぬ女性の存在を、優しい声で語る。
グリやスーの影響か。
ぼんやりとだけれど、女性の雰囲気やふるまいは、男の言葉から想像することができた。
(だからといって……それ以上では、ないはずなのに)
ケッツァーという男を救った女性すら、リンは、大切に想おうとする。
おそらく彼女にとって、この世界で出会った光と、その光を灯した誰かは、等しく想う相手なのかもしれない。
(私には、そんなふうに想うことは、できない)
――だからこそ男は、また、この闇で光を灯すことができたのかも知れない。
確かに男にとって、女性は代え難い存在なのだろう。
そのために、男がかつての世界で再び闇にとりこまれてしまうほど、強い光を灯していた。
(でも、この闇で男が見つけた光は……それだけじゃ、ない)
男の光は、灯ることを拒否していた。
自分が、この闇と同等であると。
そう想いこみたいかのように、男はその光を見ないようにしていた。
――見ないように、していたのだ。だって、暗さを知った眼に、暖かさはつらいものだから。
輝きを弱めたのは、この世界に広がる、闇ではない。
忘れ去られるために、男は、その胸の奥へと沈ませた。
その、暗い記憶と共に。
……女性との暖かさを、想いださないよう、眠らせたのだ。
リンは、ちゃんと聞きたいと想うのです。輝いてくださる皆さんの、光を灯される、そのお話を
……
だから、光を取り戻したのは、女性の記憶だけではない。
きっかけがある。
この闇の世界での、新たな灯火。
……そして私は、その関わりを、この眼で見た。
セリン?
――見たから、こそ。
見た視界を、少しだけ、にじませながら。
また、情けなく、絶叫するしかなかった。
ふざけないで!
ほ、ほわわっ!?
そんなの、無理に決まってるじゃない!
セ、セリンっ!? はわわっ、どうされ……
そんな、強すぎる光
情けなく、私は、胸の奥へ封じていた想いを。
……耐えられない
うっかりと、こぼして、しまっていた。
耐えられない……ですか?
ええ、そうよ。私達は、こんな世界に形を持って、光を吸って、生き延びている。でもね、でもね!
私の心は、止まらなかった。
今まで閉じられていた、反動なのか。
語れなかった、形にできなかった、ぶつけられなかった想いが。
(……なんでっ、とまらないのよっ……っ!)
心の中とは真逆に、爆発した光のように。
吹き出して、リンへと照らすことを、止められなかった。
この身体にある、私をセリンって名付けた、厄介な……心
――グリ以外にも、そう優しく呼んでくれたから、忘れたくなかったのに。
セリンは……私は……そんなに強く、できないのよ
……この身体が、静かで冷たいこの世界の闇に、負けなくても。
……この足が、どれだけ先のない闇を、進んでも。
……この手が、たくさんの暖かい光を、つかんでも。
……この耳が、数え切れないほどの残酷で美しい物語を、とらえても。
かつて輝いていた、光の話。でもその明るさは、私の心を焼きもするの。闇から生まれた私達は、その光に、耐えられるはずがないのよ……
……あなたとは、リンとは、私は違うの。
そう泣き出したくなるほど、彼女の光は、私にとって強すぎた。
――私は、グリに、願ったのだ。
――そんなに美しいものは、もう、見たくはない。
――どんなにつらいものも、同じように、そう感じてほしくない。
セリン……
……いらないの。あなたの、その、受け入れようとする心
胸の中に生まれる、今まで味わってきた、たくさんの感情。
喜び、驚き、願い、解り、怒り、哀しみ、絶望。
それらは、とても、忘れられるものじゃない。
……忘れたくても、すぐに、いくらでも想い出せてしまう。
――だから、ようやく私は、彼女に言える。
リンに、セリンという存在を、告げられる。
私にその進み方は、できないから
否定するでも、怒るでも、優しくするでもなく。
そう進んできたのが、セリンという、私なのだと。
まっすぐな眼で、ゆっくりと、彼女へと告げることができた。
私は、私の進み方で、進んでいく。……これからも、グリと
……ありがとうございます、セリン
リンもまた、私の言葉を、まっすぐに受け止めてくれた。
でも、リンはそれでも、受け入れたいのです。それが……セリンの言うように、リンの勝手な考えだとしても
――何度も私は、リンのことを想った。
愚かで、なにも知らないのか。
この闇の中で、どれだけ、暖かい光だけに出会えたのか。
この闇の深さと恐ろしさを、なにも感じていないのか。
……そうではないと、途中で気づいていたことを、ようやく認められた。
だって、リンはそれしか、この世界で皆さんに出来ることを知らないから
リンに浮かぶ、微笑みの意味。
一緒に、『永遠の光』へ、行ってほしいから
それは、喜びだけが含まれているわけでも、悲しみに浸るわけでも、ない。
混じり合い、ぶつかりあい、なんども同じことを繰り返して。
……それでもリンが選択した、だからこその、表情。
(私と、違う)
手元のグリの光に身体を寄せ、暖かさにすがる。
『……目的地は一緒だが、生き方は、たくさんあっていいもんだよなぁ』
突然かけられたグリの言葉で、同じ、という部分が響く。
(でも、同じ光に照らされる、私と同じ……)
そう感じる同じ少女に、私は、気がかりを聞く。
さっき、男は怒りのあまり、あなたを殺そうとした
リンが、きちんとお話しできていなかったから、ですかね
そういうことじゃないわ
彼女の、リンの決意は、受け入れられない。
だけど……わかったこともある。
聞きたいのは、殺されそうになった、そのこと
優しいなんて言われ方は、すごくイヤなのだけれど。
……選ばなかった進み方だからこそ、自分がその道を外れた理由を、聞かずにはいられなかった。
男は、たまたま拳を止めた。ケッツァーという光だからこそ、あなたを信じ、スーのなかへと吸いこまれた
はい
短く受け答えるリンは、私が言いたいことを、わかっているのか。
おそらく、そうなのだと想う。
だからこそ……私は、問いかけずには、いられない。
でも、そうでない場合も、もちろんある。いえ、そうでない時の方が……ずっと、多かった。その意味、わかるわよね?
……はい
リンの選択。
全てを受け入れ、闇を歩んでいく、その心。
それは、私とグリの進み方より、心の闇を深くする。
……そう感じたから。
これから、たとえ希望の光に、殺されることになったとしても。……あなたは、受け入れようというの。この闇に眠る、哀れな、光という存在を
死。
それが、私達に、本当に訪れるものなのか。
ちゃんと、形の死を見たことがない私には、わからない。
ただ、目覚めた光の形に、危険へさらされること。
何度も繰り返したそれが、いつか、死へとつながることがあるかもしれない。
(死……)
たった一語の響きに、私の胸が冷たくなる。
……やっぱり、私は、心に闇がある。
(あんなに光の形を、とりこんでいるのに。自分だけは、そうなりたくない、だなんて)
――リンは、どう想っているのだろう。
殺され、死へとなることを、あなたはどう受けとめているの?
眼を閉じ、リンは、なにかを振り返るようにしながら口を開く。
リンは……皆さんのおかげで、今の形があるんです。生きているって、想えるのです。だから……
だから?
問い返す私に、リンは、片手を胸の前で包みながら答える。
リンは……皆さんの光を、想いを、受け止めたいのです。ちゃんとできないかもですけれど、出来るだけでも、少しでも……受け入れて、いきたいのです
言葉もまた、この場にいない誰かを包み込むような、穏やかさ。
……そう
冷静なままの言葉を、小さく呟く。
ゆっくりとグリを持ち上げて、彼女の姿を改めて照らす。
くっきりと映し出される彼女の瞳は、戸惑いも恐れもなくて、ただ私をじっと見つめている。
私でない、私の中の光を見るような、まっすぐさで。
……私は、生かされていない
だからはっきりと、告げる。
リンの進み方と、決別するために。
生きている、わ
――自分でもそう想っていない、決別するための言葉を。
出会った光を受け入れ、生かされていると語るリン。
見かけた光を奪い、ただ前へと進み続け、生きていると語る私。
(本当に生きて、進んでいるのは、どちらなのかしら)
私の想いを、言葉を、リンはもう問い返さない。
ただ、私と自分との違いを受け入れ、それでもなにかを伝えようとしてくる。
……まるで、私の想いを、受け入れようとするかのように。
リンは、でも、スーさんや皆さんのおかげなのです。だから、リンは……
……あなたも、生きている
はえっ?
――知らず、その嘘の想いが、口からもれた。
それは、嘘が嘘でない彼女に、ぶつけられてしまえば。
その優しさが、私の胸を迷わせるのを、ごまかせると想えたから。
そう、考えなさい。生かされているというのは……形がある、ということではないから
形があるは、生きている、じゃない……?
――あなたは、光の想いを抱いて、歩み続けている
これは、余計なお世話だけれど
今の私には、でも、一つだけ言えることがあった。
リンが、周囲の光のおかげで、形を保っているというのなら。
大切にしなければ、一緒に行きたいという想いは、形だけのものになる。……リンもまた、生きていると、想わなければ。だって、光を与えた者達が、死んだことになってしまうから
そう、気遣う言葉を、かけてしまう。
――私も、そうだ。
闇を持つ、私の心であっても。
……グリに吸われた光を、ただ形を保つために、灯しているわけじゃない。
(生きて、たどりつくために、私達は闇を進むのだから)
それは、リンがその光を望むのであれば、守らなければならないものだ。
……重ならない私達、だけれど。
リンがその歩みを望むのなら、せめてそれは、忘れてはいけないと感じたのだ。
セリン!
な、なに
突然に名前を呼ばれ、眼を見開く。
すると次の瞬間に、リンは輝くような笑顔に変わり、両足で小さく跳ね飛んだ。
言葉を言えない私に、彼女が言ったのは。
リンの名前、また読んでくれました! 嬉しいです♪
あっ……!
しまった……。
名前を呼びあうことで、より親しさを感じることもある。
(誰かと話すのが久しぶりで、失敗したわ)
先ほどから無意識に、心の中ではリンを名前で呼んでいた。
しかし、眼の前で笑顔を浮かべる彼女に、なにを言っても無駄そうなのはわかってしまった。
っ……だ、だから、なんだって言うの
セリン、一緒に行きましょう
――とくん、と。
さしのべられた手に、光はないのに。
四人なら、『永遠の光』だって、すぐに探せます!
私の胸に、光とも闇とも違う、不思議な鼓動が鳴り響いた。
一緒に……
はい! 一緒に、歩いていきましょう!
それに、と、リンは付け加える。
リンは、もっとセリンとお話ししたいのです。……リンとは、お話しする意味が違うのかもですけれど、でも、もっと
そ、れは
否定すべきだと、断るべきだと、私はわかっていたのに。
言葉が暗く沈む、私の口元。
だからその声は、耳と心に重く響いた。
『止めときな。そいつは、無理だぜぇ』
えっ……
はえっ……
強ばったような声に、しかし、なぜかリンの声も重なった。
ど、どうしてですかスーさん!? なんで、セリンと一緒に行ってはいけないのですか
自分の手元へ呼びかけるように、早口でリンは言葉を投げる。
リンとスーの関係は、私とグリと同じだ。
つまり、彼女もまた、自分の光からなにかを言われたということなのだろうけれど。
(でも……今のグリの声は)
まれにグリが発する、気だるげさのない、硬い響き。
私にとってその言葉は、意外に感じられた。
だってグリは、おそらく、リンと私の会話をそれほど嫌がっていないから。
何度も遠ざけようとする私に、からかいや制止の声をかけてきたのは、あなただったのに。
グリ。今のは、どういうこと
リンと一緒に行くということを、考えていたからじゃない。
グリが止める理由を、知りたかっただけなのに。
『あららぁ、そんなことを言い出すなんて。オレとの旅、飽きてきちまったのかいねぇ? よよよ』
……返ってきた声はいつものような、からかいの混じるふざけたもの。
――そうね。おふざけが過ぎれば、愛想も尽きようというものね
脅すように私は、そんなことを口にする。
いつもなら、この程度のグリの悪ふざけ、軽く流してしまうところなのに。
(……あなたの言葉で、決めるわけじゃない。迷っている、わけでもないのよ)
だからこそ、言葉の意味を知りたい。
グリも軽く息を吐いて、やれやれと言ってから、話し始めた。
『お前らよぉ、もう忘れちまったのかい。さっきのことをよぉ』
あっ……
グリの指摘に、想わず声を上げてしまう。
――グリとスーの、二つの光。
――混じり合えば、私達を消し飛ばして、包み隠してしまいそうなほどの光になる。
(……もしかして、今も、そうなの?)
出会ってすぐに、二つの光が重なった時。
確かに、グリの様子はおかしかった。
今まで見たことがないほどに、グリはこの闇を白くしたいかのように、内にある光を強く発していた。
……あんな光の灯し方、『悪いからなぁ』って、今までしたことはなかったのに。
はわわ……。スーさん、大丈夫、なのですか?
リンの呟きの意味は、問わなくてもわかる。
……グリもスーも、私達にとっては、もったいないほどの光よね。
(私達は、あなた達の苦しみにも気づかず、のんきに話しあっていたのに)
離れている今は、なんともないように感じる。
けれど、本当は違うのかもしれない。
言わないだけで、グリもスーも、お互いがなんらかの注意をしているのかもしれない。
……互いに、私達へは、そのことを言うことはないのだろうけれど。
(でも、一緒に歩み続ければ、もしかすると……)
グリが抱いた不安は、リンの光――スーにとっても、そうなのだろう。
スーさん、だめだって言うのは、はい……
見ればリンの顔に、先ほどの明るさはなくなっていた。
どちらかといえばそこには、哀しみさえ漂う表情が、浮かんでいるように見えた。
(……消えることなく、この闇を進み続け、でもそんな顔をしてくれる)
――そんな少女が、私以外にも、この闇を歩いている。
リンはまだ、手元の光に語りかけている。
なにか方法を求め、相談し、考えているのかもしれない。
気持ちはわかるけれど、って……いうのは、そうなんですけれど……
無理よ。お互いの光が、共にいけないのなら
グリがなにも語らないのは、私が言わないからか、その方法がないとわかっているからか。
――その、どちらもか。
それに、と、私はリンへ付け加える。
交わらないのは、光だけじゃない。私達の考えや、進み方は、変わらない
セリン……
……変えられない。もう、そう決めたのが、私なのだから
はっきりそう告げると、リンは口元を、ゆっくりと閉じる。
まっすぐとした眼で、私の瞳を見つめながら。
――やはりこの子は、人の話を、聞こうとしている。
厄介だ。
そんなことをされたら、また……。
また、迷ってしまいそうになる。
――とりこまれた光は、燃料にしかならない。今まで触れあった、たくさんの光。……この闇のなか、そうした形で照らされた者達は……もう、存在しない
だから、早く。
早く、決めよう。
私の考えは、変わらない。どんなに光が満足しても、私達は、ただ喰らい、吸い取るだけの存在なの
――彼女との、リンとの、別れの時を。
そこまで言って、私は。
ふりきるように身体を回し、リンへと背を向ける。
『おっとぉ……久しぶりの、一面の闇だなぁ』
グリの言葉にあわせ、私も眼の前へ瞳を直す。
――あぁ。進むべき先すら見えない、なんという暗闇。
でも、これこそ……私達にとって、進みべき闇なのよ
グリにそう答え、私は、心をまた冷たくする。
鈍っていた足を、闇へとゆっくり、踏み出すために。
セリン!
背中越しに、リンの声が聞こえる。
一歩。
(……なぜ?)
自分に問いかけたのは、その一歩で、足が止まってしまったから。
その一歩だけで、その声の続きを、待ってしまうから。
また、会えますよね!?
リンの声は、でも、近くならない。
互いに進むべき闇が違うと、答えが同じでも、知っているからだ。
『永遠の光』を見つければ、ずっと、一緒にいられますよね!?
……
無言の足は、進まなかった。
だから私は、ふりきるために、彼女へとふりかえる。
そうして、まだ語りかけてくるその眼に向けて――言ったのだ。
あなたがこの闇で、最後の光になった時。……また、会いましょう
――その時は、もしかしたら。
――あなたに、光を灯してもらって。
――願いを託せる私が、できるかもしれないから。
今度こそ私は、足を冷たく踏み出すことができた。
それでなら、また会える。
……胸の奥に、進むべき道が見えたから。
……また会いましょう、セリン! きっと、きっとです!
背中越しの声は、たぶん、ずっと早くに消えていたけれど。
その背中にはしばらくの間、彼女の視線が残っていた。
闇の冷たさが薄まってしまうような、暖かさがあるような気がした。
――『永遠の光』、なんていうわからないものじゃなく。
――『リン』という、やっかいな光を、感じることができたから……。