フィンクス

思ったよりやるな。
軽い性格だから
甘く見てた。

 ハルの木剣を捌ききった後、フィンクスは一呼吸ついた。正伝剣術の防御の型。その残身をじわりと解きながらだった。

ハル

全然攻め手が
見付からないっす。

フィンクス

片刃剣術が主軸にあるようで
少し違う……。
雑なようでいて、
油断出来ないような……。

 フィンクスはハルの剣筋を分析しながらも、構えを移す。足のポジションが流れるように変化すると、上半身は一体となり攻防の構えをとっていた。

リュウ

やっぱり綺麗なもんだな。
剣術ってこんなに
綺麗なもんだったか?

ジュピター

ああ、それに
それだけじゃない。

リュウ

なんだ?

ジュピター

分からない!
分からないけど、
何かある!

 フィンクスが構えたのは基本中の基本である陽光の構え。真剣そのもののジュピターは、誰でも最初に習うその構えに、言い知れぬ何かを感じた。

 ジュピターは有名剣士を祖父に持つ、言わば剣術のエリート。そのジュピターが、フィンクスから何かを感じ取らずにはいられないのだ。

フィンクス

そーいやロココが
ハルの話をしていたぞ。

ハル

ん!?

 構えをそのままに、フィンクスが言葉を続ける。

フィンクス

ハルさんが凄いんです!
ってな。
勇気を示してくれた
って言ってたぞ。

リュウ

えらく
慕われてるじゃないか。

ジュピター

…………

フィンクス

それとコフィンってベテランに
「迷ったら目的を思い出せ」
と言われたのも
印象的だったみたいだ。

リュウ

キャロウェイなら
迷ってたら
武器振り下ろしてきそうだな。

フィンクス

確かに。
リュウには特に
きつかったもんな。

フィンクス

で、
ハルの目的ってな、
何なんだ?

ハル

ディープスに来た
両親を探す事っす。

 ハルの目的は様々あるが、一番の目的は両親を探す事だ。剣術の腕試しやシーベルト以外の広い世界を見るのは二の次で、迷宮でしか採れない鉱石を採掘に来た鍛冶師の父親、そして冒険者だった母親を探しにここにいるのだ。


 客観的に考えれば、両親は亡くなっている可能性が高い。それは常時危険の付きまとう地下迷宮に挑む限り、仕方ない考え方だ。


 ハルの頭にも勿論そういった事は過ったが、何とか振り払い、出会える望みに賭けているのだ。

フィンクス

そりゃあ
幸せな目的だな。

ハル

へ!?

フィンクス

俺の両親は
既に亡くなっているからな。
望みがあるだけいい。

 幸せと言われたハルは一瞬困惑した。だがフィンクスの境遇を僅かとはいえ知れば、その困惑はゆっくりと晴れていった。

ハル

フィンクスの両親も
冒険者だったんすか?

フィンクス

俺、の…………

ジュピター

……

リュウ

……

 ハルの問いに言葉を詰まらせるフィンクス。ジュピターとリュウは、フィンクスにも何か事情があるのだろうと察し言葉を探していた。

フィンクス

いーや、
俺の両親は違う。
事故みたいなもんさ。

ハル

そーなんすねぇ。

 ハルは自主練の最中だが構えを解いていた。そしてフィンクスがここにいる理由を知りたくなって、自然に問い続けた。

ハル

それでフィンクスの
目的って何なんすか?

 ジュピターはもちろん、同じパーティのリュウも知らないようで、三人の耳は興味深くフィンクスの返答を待っている。




 自主練の一旦の停止を察したフィンクスは、木剣を肩に担いで空を見上げる。何かを思い出しているのか、宙に瞬く星に瞳を遊ばせたまま答えた。

「問い正すこと…………」














「たったそれだけなんだ」

 ~兆章~     84、たったそれだけなんだ

facebook twitter
pagetop