ハルの木剣を捌ききった後、フィンクスは一呼吸ついた。正伝剣術の防御の型。その残身をじわりと解きながらだった。
思ったよりやるな。
軽い性格だから
甘く見てた。
ハルの木剣を捌ききった後、フィンクスは一呼吸ついた。正伝剣術の防御の型。その残身をじわりと解きながらだった。
全然攻め手が
見付からないっす。
片刃剣術が主軸にあるようで
少し違う……。
雑なようでいて、
油断出来ないような……。
フィンクスはハルの剣筋を分析しながらも、構えを移す。足のポジションが流れるように変化すると、上半身は一体となり攻防の構えをとっていた。
やっぱり綺麗なもんだな。
剣術ってこんなに
綺麗なもんだったか?
ああ、それに
それだけじゃない。
なんだ?
分からない!
分からないけど、
何かある!
フィンクスが構えたのは基本中の基本である陽光の構え。真剣そのもののジュピターは、誰でも最初に習うその構えに、言い知れぬ何かを感じた。
ジュピターは有名剣士を祖父に持つ、言わば剣術のエリート。そのジュピターが、フィンクスから何かを感じ取らずにはいられないのだ。
そーいやロココが
ハルの話をしていたぞ。
ん!?
構えをそのままに、フィンクスが言葉を続ける。
ハルさんが凄いんです!
ってな。
勇気を示してくれた
って言ってたぞ。
えらく
慕われてるじゃないか。
…………
それとコフィンってベテランに
「迷ったら目的を思い出せ」
と言われたのも
印象的だったみたいだ。
キャロウェイなら
迷ってたら
武器振り下ろしてきそうだな。
確かに。
リュウには特に
きつかったもんな。
で、
ハルの目的ってな、
何なんだ?
ディープスに来た
両親を探す事っす。
ハルの目的は様々あるが、一番の目的は両親を探す事だ。剣術の腕試しやシーベルト以外の広い世界を見るのは二の次で、迷宮でしか採れない鉱石を採掘に来た鍛冶師の父親、そして冒険者だった母親を探しにここにいるのだ。
客観的に考えれば、両親は亡くなっている可能性が高い。それは常時危険の付きまとう地下迷宮に挑む限り、仕方ない考え方だ。
ハルの頭にも勿論そういった事は過ったが、何とか振り払い、出会える望みに賭けているのだ。
そりゃあ
幸せな目的だな。
へ!?
俺の両親は
既に亡くなっているからな。
望みがあるだけいい。
幸せと言われたハルは一瞬困惑した。だがフィンクスの境遇を僅かとはいえ知れば、その困惑はゆっくりと晴れていった。
フィンクスの両親も
冒険者だったんすか?
俺、の…………
……
……
ハルの問いに言葉を詰まらせるフィンクス。ジュピターとリュウは、フィンクスにも何か事情があるのだろうと察し言葉を探していた。
いーや、
俺の両親は違う。
事故みたいなもんさ。
そーなんすねぇ。
ハルは自主練の最中だが構えを解いていた。そしてフィンクスがここにいる理由を知りたくなって、自然に問い続けた。
それでフィンクスの
目的って何なんすか?
ジュピターはもちろん、同じパーティのリュウも知らないようで、三人の耳は興味深くフィンクスの返答を待っている。
自主練の一旦の停止を察したフィンクスは、木剣を肩に担いで空を見上げる。何かを思い出しているのか、宙に瞬く星に瞳を遊ばせたまま答えた。
「問い正すこと…………」
「たったそれだけなんだ」