Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

22.解放

  

  

  

 きっと、セアト王は心身ともに弱っていた。

 だから、今、こんなにラムダたちの言葉に動揺する。




 始まりは、いつだっただろう。

 フラウが生まれた頃か。

 否、もっとずっとずっと前だっただろうか。


 本当は、可愛らしい女の子が誕生したと、触れ回りたかった。

 見せびらかしたかった。




 だが、もちろんそうは出来なかった。

 宰相の言うことに逆らえなかった。

 それは、自分が王という立場ゆえ。






 フラウが、かわいくてかわいくて仕方がなかったというのに……





 決め手は、アスターまで進言したことだった。

 あの、無口で大人しいアスターが、初めて自分の意見を述べた。

セアト

喜ぶべきか諌めるべきか

分からなかった。


 ただ、自分が恐ろしく間違っているような気がした。














フラウ様! 朗報ですっ!!

 いつもフラウを気遣っていた一兵士が、あわただしく駆けてくる。



 やたら響く声と靴音に、しかしフラウは動じず、ただジッと目を閉じ座っていた。



 やっと暗がりにも慣れて、だが、時間間隔だけは狂っていた。




 今が、何月何日何曜日何時何分なのか、皆目見当もつかない。

フラウ様っ! 解放されます!!

 余程急いできたのか、肩で息をする兵士に、フラウは怪訝な顔をした。

フラウ

それは、ケルトという眼鏡の男が、やはりここへ入れられるということですか?

 それならば、身代わりになった意味がない。

 だから、もし本当にそうならば、自分は頑なに動くつもりはなかった。



 自分より、ケルトが自由になったほうがいいと思う。



 自分は自由になったところで自由ではないが、ケルトには望みがある。希望がある。

違いますっ!

兵士はきっぱり否定した。

ケルトという者は、二度と星の研究をしないという約束で、追放という形です!
フラウ様、本当に自由になれたんですよ!

興奮しながら目を輝かせる兵士に、嘘は見られなかった。


 しかし、フラウは半信半疑で首をかしげる。

フラウ

そんなうまい話、あるはずないでしょう

それがあるんです!
アスター様の口添えがあったんですよ!

フラウ

アスター……?

フラウは、アスターの存在を知らなかった。













   

アスター

出すぎたことと承知ですが、発言させてください

真っ直ぐな瞳だった。

アスター

フラウ様は、悪いことなど一切しておりません
そんな人を捕らえたとなれば、王族の信用問題にも関わります
まして、フラウ様は王族です
内部でこんなことがあっては、国民の心はついてきません

アスター

お願いです、どうか、フラウ様を解放してください
このままでは、わたしの心も晴れません

驚く周りの者達をよそに、ラムダだけがアスターの頭を撫でた。










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