翌日、俺はこの週末のうちに地元へ戻って来られるよう
早馬便(=車)で王都へ赴いた。

これから先の生活を考えればこの出費はかなり
痛手だったが致し方ない。
格安な馬車ではどう急いでも3日は掛かってしまう
から。
ま、俺が王都へ行ったという事は遅かれ早かれ
エディ、そしてゲイブの耳に入ってしまう。
そして俺のした事がバレてしまったら……。

コトは急を要する。

出逢いの記念にと、エディから貰った懐中時計で
時間を確認しながら先を急ぐ。

目的の場所は宮廷の尚書部。

王の命令・王と諸侯の契約書・賢人会議の議事録などの
重要書類を作成保管している部署です。
その特質上、王族の最高機密とも言われる
該当王族の家族構成・家長の正室及び側室、
その候補者の氏名・略歴などもここに保管されて
います。

俺からの申し出を聞いた尚書官は、
たまたまその時見ていた書類から目を上げ、
驚きの表情で俺を見返した。

あ、あの ―― 失礼ですが、今、何と申されたのでしょう?

和葉

はい。フォン・ランカスター卿エドワード公爵の正室候補者名簿から私(わたくし)の名前及び略歴等を抹消して頂きたいと

手っ取り早く言えば ――
候補者の座を自ら退くという事。
  
この尚書官の後方で執務中だった同僚達も
俺の声が聞こえたらしく、大いに狼狽え始めた。

……そりゃそうだ。

貴族の中でも最高位・公爵の正室候補になる、
という事はその貴族にとって大変栄誉な事なのだ。
たとえ正室になれなかったとしても、そのまま後宮に
入り側室又は上級女官になるという選択肢も拓かれる。
それに、宮廷より支給される準備金or慰労金の額も
相当なモノで。

ステフ曰く ―― 死ぬまで左うちわの優雅な生活が
約束されているほど。

すると狼狽えていた尚書官の中の2人が慌てて何処かへ
出て行った。

おそらく宰相・ゲイブの元だろう。

そのうちバレる事は覚悟しているとは言え、
”今では”マズい。

和葉

では、今の申し出万事良きにお計らい下さるよう、お願い致します

と、自分の要件だけさっさと述べ、踵を返し、
足早に尚書部を後にした。

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