和葉

……あの、ここで下ろして貰えませんか?

店先から乗った馬車で城まで向かっていたんだけど

途中 ……、今日 ―― ってか、
もう日付は変わってるから昨日だ ―― 
学校近くの駅を通りかかって思わず御者さんへ
声をかけた。

週末だという事もあって、
けっこう遅い時間でも人通りがあって。

こっちの世界へ飛ばされたばかりの頃はエディと2人、
よくココを歩いたなぁ……なんて。

懐かしささえ感じる道を、ふらふら、
宛もなく歩いてみた。

今は、気持ちをただ落ち着けて、
切り替える事に集中しよう。

エディの事が好き……って、自覚しても、
公にしなければ……誰にもバレなきゃ、
今まで通りの関係が続けられると思ってた。

それは、エディに特定の彼女や
正式な奥さんができても、
何も変わらないと思ってた。

でもそうじゃない。

彼にはっきりした大人の恋愛感情を持ってしまった時
から

もう……【単なる候補のまま】ではいられなくなって
たんだ。

彼女、っていう存在に嫉妬して

【ただの候補】としての存在じゃ、満足できない。

でも、彼にしてみたら俺はただの……。

【どないしたら、ええの……?】

 

和葉

俺もアホやなぁ……

鼻の奥がツン ―― として思わず空を見上げた。

もう……前に進まなきゃ。

気になってるのはポケットの中にある紙……。

デュークから貰ったアドレス……、

電話、してみよっかなぁ……

プルルル~ ―― プルルル~ ――

耳に響く携帯の音がやけに長く感じる

『……もしもし?』

和葉

あ……えっと……せんぱい?


『……和葉?』

和葉

は、はい……あの ―― っ


『お前今、どこ?
 外 ―― 騒がしいみたいだけど』

和葉

学校の近くの……駅の……雑貨屋さんの近くを
曲がった……


『……どこだよ……』

和葉

「……だって、なんて説明したらいいか……」

『まさかお前、また1人でいるんじゃねーだろーなっ』

和葉

……1人、ですけど。


『はぁ~っ……お前は、ったく……これから行くから
 待ってろ!!
 絶対そこから動くんじゃねーぞ!』

プツッ……ツーツー……

『―― えっ、ええっ……?!』

ちょっ、これから来るって……っ

どうしよ……

デュークに言われた通りそのまま動かずに
じっとしていた

めちゃくちゃ怒られるんだろうな……

今更、言い訳なんて思い付かないし

そんなことを考えながら20分程たった時

向こうから猛スピードで来た車が俺の前で
横付けされた

中から出てきたのがデュークだとわかって
立ち上がると

デューク

和葉

和葉

―― すいませ……んっ

ポフ、スポ……ッ

………??

頭から被せられたフワフワのマフラー

デューク

こんな時間に……っ。風邪、引くだろっ

和葉

ども、ありがと……

こんなの……フェイントだ。

デューク

で……こんなに早く連絡してくれるとは思わなかったんだけど……何かあったのか?

和葉

―― えっ ―― あ……え……っと

……なんて言おう。

正直、何にも考えてなかった

ただ、強いて言うなら……

和葉

せんぱいに、癒されたかった、から?

デューク

最後が、疑問形なのはちょっと気になるけど、それって、俺の告白に対しての返事だと思っていいの?

あぁ……
この人は、俺を想っていてくれる。

俺もきっと、好きになれる。
エディを……忘れられる。

和葉

せんぱい……?

デューク

なに?

和葉

俺を……恋人にしてくれますか?

デューク

……エディは?

和葉

……っ……

彼はきっと気づいてる……俺の本当の気持ちを。

何も答えられない俺の頭に温かい手の温もり ――、

そして指がゆっくり……髪を滑る。

ふ ―― っと、デュークが薄く微笑んだ。

…………?

デューク

オッケー。俺が……忘れさせてやる

グイッ ―― と引き寄せられた身体が
しっかり抱き締められた。

同時に、初めてエディに抱き締められた
あの日の温もりを思い出してしまう。

……お願い、どうか忘れさせて……。

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