Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

19.ひとつの真実

  

  

  

 響いた声に、居合わせた者たちは皆、声の主を探した。

 兵士たちは、フラウかセアト王のどちらかに付き添っていったので誰もいない。




 ラムダとケルトは顔を見合わせた後、扉付近に立っていた10にも満たない少女を見つめた。

伏し目がちな目元、きゅっと噤んだ口元。

幼いのに、薄幸感が漂っていた。



 レダは、少女の声をはじめて聞いた。

あれだけ話しかけておいて、一度たりとも話してくれたことはない。

だから、驚いて彼女を思わず凝視した。

しかも、自分から言葉を発した……

ケルト

レダ……?

 内心ガックリするレダに気付いたケルトが気弱な声をかけると、レダは薄く微笑み返した。


 そして、次にラムダに目を向ける。胸に下がったオカリナに見覚えがあった。

レダ

どこかで会ったことがある……

 だがしかし、すぐに名前を思い出せなかった。

 それに、今は再会を喜んでいる場合ではない。




 ラムダもケルトの声でレダに気付いたが、この状況では声をかけられなかった。




 聞きたいことはたくさんあるのだが、そんな場合ではない。



 やりようのない気持ちをもてあまして、全てを知りたいと、誰もが懇願するように少女を見つめた。


 そんな視線を受け流し、少女は淡々と言葉を発する。

アスター

あの方の存在が公になれば、セアト王はきっと君臨できなくなる

 何かにとりつかれたような虚ろな瞳。

 心配したレダがその小さな肩にそっと手を置き、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

レダ

アスター様?

アスター

あの方はセアト王の隠し子

 レダの問いかけに、少女は反応しない。


 そして、その感情のない少女の言葉に、ラムダは目を見開き、ケルトは凍りついた。

アスター

本当なら、セアト国第一王子として存在するはずだった
けれど、生まれたのは女の子
……あの方の存在は、国に認められなかった

ラムダ

……そんな

アスター

かといって、愛し合った女性との間に生まれた人
だから、セアト王はとても可愛がった
城下町の中に、母親と一緒に隠した

 少女が息継ぎをすると、小さな沈黙が落ちる。

 構わず、みな、黙って少女の言葉を待っていた。


 独壇場のように少女だけが喋る。

アスター

王の跡継ぎが生まれなければならない
焦った家臣たちは男系の家系の女性を連れてきて、子供を作らせた
そして生まれたのが、私

 怖いくらいに声音には何の感情もこもっていなかった。


 諦めたのか受け入れたのか。

 どちらにしても、聞いていたラムダやケルトのほうが寂しくなった。




 レダは、その辺の事情は知っているから、アスターの肩に置いた手に少しだけ力を込めた。



 彼女の境遇を思って。


 自分がいると、暗に告げた。




 伝わったかどうかは、謎であるが。

アスター

あれだけ待ち望んだ男の子が生まれなかった
城の者は落胆した
だけど、私の存在は黙認された。それはなぜか

 こんなに幼い少女が、こんなふうにしっかりと話せることが、ラムダは不思議に思った。

ラムダ

この子、国の事情を知りすぎている

 アスターは大人の複雑な事情の中で育ち、逆らうこと、歯向かうこと、疑問に思うことを許されなかった。

 過酷な中で生きてきたのだ。



 彼女の背景をぼんやりと感じとって、ラムダはただ少女を見つめた。

アスター

セアト王はもう歳だ
もう、子供を作ることは難しい
ならば養子をとればいいと、愚かなことを考えた
それならば、最初からあの方に対してそうしていればよかったのに……

 アスターはそっと目を閉じた。


 フラウのことを想っているわけではない。



 それならば、どんな感情が働いているのか。

 それは自分では分からなかった。



 ただ、分かっていることは……

アスター

私は人形。この国の飾り
それ以上のこと、それ以下のこと、求められていないことをしてはいけない

 あんまりにもはっきりと断定する。

 だから、うっかりするとそれが正しいことのように感じてしまいかねない。



 だがしかし、少女の言っていることは何かが違うのだ。


 何か言わなければならないと思った。


 だけど、誰も言葉が出てこない。

アスター

あの方は愛されている
そして、内外多くの人に狙われている












   

pagetop