その場にいた誰もが酒呑童子が腕を抜く瞬間、息をのんだ。
その場にいた誰もが酒呑童子が腕を抜く瞬間、息をのんだ。
!!
少し痛いが我慢してくれ!!
酒呑童子の拳の先端が抜ける瞬間、煌炎はすぐさま手をその傷口にかざす。
グワっ・・・!!!
煌炎はそのまま炎をピンポイントで放ち、傷口を火傷させ無理やり止血する。
傷口に触るぞ。
後ろに倒れそうになった茨木童子を支え、煌炎は更にその傷口に掌を当てた。
すると、眩い光が茨木童子を包んだ。
!?
お・・・弟よ、無事か・・・?
光は収まったが、まだ蹲ったままの弟に向けて酒呑童子は問いかける。
少しと言ったが・・・なかなか痛いではないか。
そこには汗が噴き出しながらも、笑顔を浮かべて煌炎を見上げる茨木童子の姿があった。
弟よ・・・!!
良かった!!
その光景を見ていた花蓮や一般客たちは何が起こったのかさっぱりわかっていない様子だった。
へ・・・・?
何が・・・・。
煌炎様の炎以外の特殊なお力です。
え?え?
どういうこと?
賽がすっと茨木童子の腹部を指さしたので目を向けてみると、その腹部の悲惨なまでの傷は綺麗さっぱり治っていた。
神のお力だ・・・。
それを見た客がつぶやく。
・・・・俺の力は万能じゃない。
立ち上がろうとした茨木童子はふらつく。
おっと。
傷口や骨折を治すことはできるが、無くなったものまでは治せない。
だから当分貧血になっちまうだろうな。
つまり、煌炎様は出血してしまった分の血を戻すことはできないし、ましてや亡くなってしまった方を生き返らせることはできないんですよ。
ほへー・・・煌炎さんって強いしそんなことまでできちゃうんだね・・・。
ちびガキは死者を生き返らせれるじゃねェか・・・。
狐王皇家の末弟。
んぁ?
先ほどは怒りに任せて殴りかかってしまいすまなかった・・・。
よくよく考えればお主の兄弟がしでかした事。
お主に当たるのは筋違いというものだった。
・・・あんたは間違っちゃいねーよ。
兄弟の不始末は俺の不始末、一発ぐらい受ける覚悟はあったが・・・・。
あれはさすがに一発で死ぬから避けた。
わりぃ。
はっ、綺麗ごとを並べるだけかと思ったがなかなか素直な奴だ!
お主と杯を交わしたのは間違ってはいなかったな。
ただ、あんたの弟にはホントにすまない真似をした。
危うく腹部に風穴を開けさせかけたしな。
・・・もうぶり返してくれるな。
あれはわしの不始末だ。
2人とも情けない顔をするでない。
わしはこうして生きているではないか。
過去は水に流そうぞ。
助かった、えーっと。
騒動で名乗り遅れたな。
酒呑童子の弟にして近畿地方の守護を司っておる茨木童子だ。
・・・予想はしてた。
兄者とのみ杯を交わすというのは聊か妬けるのぅ。
わしとも杯を交わそうではないか、狐王皇家の末弟。
あぁ、構わねぇぜ。
こうしてお互い注ぎ合って酒を組みした瞬間、ほぼ同時に酒呑の首飾りと茨木の耳飾りに亀裂が走る。
魔具が破壊されたか、これでわしらは自由だ。
あんたたちそれが魔具だって知ってたのかい?
あぁ、一度つけられてから外そうにも壊そうにもびくともしなかった。
要はこれでわしらは制御されていたというわけよ。
そしてようやく、わしらは青藍の奴に真の力を持って報復できるというわけだ。
りょ、領主様たちがいなくなったらこの地方はどうすればいいのですか?
も、もしや幕府に攻められるのでは!!??
・・・それは。
あんたたちはこのままここを統治してな。
しかしだな、このままでいても我が民が苦しめられる現状は変わらんのだよ。
だから幕府の更生は俺にまかせろ。
更生・・・?
狐王皇家のお主がか?
そのために俺は日本を旅してまわっている。
実の兄に一喝入れるためにな。
・・・ほう、お主の目、嘘は言っていないようだ。
信じるぞ、狐王皇家の末弟。
我らが民の未来を頼んだぞ。
任せとけ。
こうしてこの後、近畿地方の未来のためにと店主がストップしていたお酒をたらふく振る舞ってくれた。
ただでさえ、酔いかけていた酒呑と煌炎であったが、気にも留めず再び浴びるように飲み始める。
酒だ、まだまだ持って来いよテール。
ぬ?
よもや狐王皇家の末弟にわしが負けとるのではあるまいな?
このままでは酒豪の名が劣る、弟よ、酒をもっとよこすのだ。
煌炎様・・・。
兄者・・・。
煌炎さん!!
いい加減飲み過ぎだよ!!
そろそろやめないと!!
煌炎が持っていた酒のグラスを花蓮が奪った瞬間だった。
最後の最後に事件が起こったのである。
あー?
うるさいのはこの口かよ。
へ?
え?
ん?
お?
いきなり掴まれた花蓮の顎。
その先の唇に唇が重なる。
きっ・・・。
き?
きやあああああああああああぁああああぁああああぁぁぁぁ!!!!!!!!/////
花蓮のアッパーが煌炎にさく裂し、そのまま両者とも昇天する。
こ、煌炎様!!??
花蓮さん!!??
『嫌じゃないけど』などとごにょごにょ述べながら意識を手放した花蓮、反して華麗なるアッパーを食らって一言も述べる間もなく気絶した煌炎。
後々目を覚ました煌炎が発した『覚えてねぇ。』の一言に花蓮が激高したのは言うまでもなかった。