“……”

……?

今の放送は、夜暮……

……

!!!

五日町

夜暮!

はーい、夜暮です♪
五日町さんと数奇さんは無事ですか?

さっきの放送聞いてくれれば分かる通り、僕は元気ですよ

知っている。
今、放送機器の前か?

え?
まだいますけど……

電話を切ったら、すぐに付近の機器の写真を極力鮮明に送れ。そしてそのままそこで待て

……もし機器類の中に、「からくり屋敷」の仕掛けを動かすものがあれば……

……

……五日町だ。今、手が空いているか? 力を借りたい

……

僕が急に必要なんて珍しいですね

……今日はただの捜査じゃありませんでしたっけ?

「だから」手を借りたい

珍しい緊急事態、ですか?

急いでいる。やるか?

……「できるか」じゃなく「やるか」って五日町警部に聞かれたら、やるしかないですよね

分かりました、やります。
後でぜひ事情を教えてください

……では、指示を

今から数枚の写真を送る

ほとんどは放送機器だが、異なる目的の操作盤が紛れている。
機器の操作法を示し、その動作を推定しろ

……早急に

承知

……う

うぅ……

……

どんな気分かしら?

もう効き始めているはずね。数分ではっきりと効果が表れるはずよ

海似、さん…… 

人間の感情は脳のただの電気信号。肉体と切り離せない生理反応。
ほんのわずかの薬品に左右されることを恥じることはないわ

麻薬の依存性には誰も、抗えない

……僕は

僕は、恐れています

恐れることは何もないのよ

……違います

僕が恐れているのは、あなたの誤解について

誤解?

海似さん、僕は言いました

僕が安全な場所にいるだけでは、何も助けられない、と

僕は、苦痛も快楽も、その全てを受けることを、恐れません

あの日から

全てを受けとめなければいけないことを、もう、恐れません

だから、恐れているんです

……どういう、意味かしら

海似さん

あなたが過小評価してしまっているのは、僕の状態について

僕は、あなたが思うよりも、「進んで」います

あなたの評価は、

輝夜樹 照

間接的にあの人を過小評価してしまっているんです

そ、それは……

怖いんです

あの人は、「彼女」を他者に、不必要に傷つけられるのをひどく嫌っていました

もしあなたが、さじ加減を「間違えて」しまったら、あの人はきっと、「子供」でも、あなたを――

……どうして

……時間切れ、のようですね

……

そうね

透!!!

五日町、さん

すみません、海似さんを引き留めることができませんでし――

何をされた?

あ、の

な、何も

ならばここに転がっている注射器は何だ?

……

……栄養剤です

栄養剤?

簡単なトリックです

密室で精神的にも追い詰められた状態で、毒や危険な薬品と言われて投与されれば、どんな無害な薬品でも「効果」をもたらします

拍動数が上がる。息が苦しくなる。身体が、感情がコントロールされているような気がする。……どれも、自然に起きうることです

だが……

大丈夫です、五日町さん

もし危険な薬品が使われたなら、その証拠となる注射器をここに残しておくとは考えられません

それに、「あの人たち」が、積極的に僕を害する策を取ってくるとは思えなかったんです

輝夜――いえ、芳賀さんは、そういう方でしたから

ですから、安心して下さ……

安心、など。
すると思ったのか?

それが、安心などできると、本気で思っているのか?

……五日町さん

勝手に行動してしまって

……ごめんなさい

ご心配、おかけしました

……帰るぞ

……はい

夜暮

いやあ、やっぱり良いですよね、外って

夜暮

あ、五日町さんも数奇さんも、お疲れ様です♪
僕が役立ったんですよね、数奇さん知ってます?

ああ、その後未成年を喫茶店に連れ込んだことも知っている

夜暮

あはは……奢っただけですって

数奇

……

夜暮

だから、離れていかないでください数奇さん!

夜暮

そういえば、五日町さん僕以外にも誰かに連絡とってましたよね、機械いじるとき。誰だったんですか?

五日町

……そのうち会う機会がある

夜暮

今知りたいんですけど

五日町

今の必要はないだろう

夜暮

ありますよ♪

だってこの学園、叩けば埃だらけっぽいじゃないですか?
まだあの人何したかったのか分かりませんし、その人も呼んで調べましょうよ

……

五日町

潜入はしない。今後必要になるまで公的にここを調べることはしない

帰るぞ

えー? こんな中途半端なのに?
明日には工事のついでに色々証拠隠滅されちゃうかもしれないですよ

ここでやめるなんて、五日町さんらしくないです。環さんらしくないですよ

「らしくない」……か

そうですよ!!

僕の知ってる五日町さんは、どんな小さな悪にも大きな事件にも徹底的に立ち向かっていって、隅から隅まで探って暴いて手を抜かなくって……完璧に解決するじゃないですか

そうか、気づくか


だから、てっきりここを糸口にもっともっと調べるのかと……

そうか。
ならば、分かるだろう? 何故ここで退くのか

……もしかして、どこかから圧力でもかかってるんですかー? それにしたって……

……

それらしくないように、している

えっ

――我慢、してるんだよ。全力で

帰るぞ

はい

……

夜暮が初めて見た彼女の笑顔は

 とても美しく、

 鮮明に脳裏に焼き付く。



それなのに



夜暮はその表情に

 恐怖していた。

環さん……

今の笑顔、いったいどういう意味なんですか?

 その問いに答える者は居ない。

‡4 β―エンドルフィンに溺れて 了

‡4 β-エンドルフィンに溺れて ―ⅺ

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