地に足が着いてもどうしようもないほどに
溺れていたのは、いつか。
地に足が着いてもどうしようもないほどに
溺れていたのは、いつか。
助けの声が届くと信じて
苦しんでいたのは、いつだったか。
水底から抜け出せると信じていたのは、
いつまでだったか。
……思い出せないほど、遠い昔だ
だからさ
僕はしたいことを、僕ができるようにやってるだけだ
――だけど
企業が寄付や事業で社会貢献するようなものかな?
少しは、僕以外のことも考えるんだ
正確には、僕がこの世界をより良くするためにできること――
より「良く」
お前の「良い世界」
それが、「子供」なのか?
……
正解
一年前 某所
調査書「カルガモ」
この調査書は、
輝夜樹 照
(かぐやき てる)
こと
連続猟奇殺人犯 芳賀駿人
(ほうが すると)
のもたらした「見えざる影響」を
評価するためのものである。
「輝夜樹照 特別対策捜査本部」
通称
「カルガモ」
この存在は、規定により
「リミットシックス(情報限界第陸域)」
以外には
決して明かしてはいけない。
五日町環警部率いる「カルガモ」は
リミットシックス以外の外部においては
「警視庁刑事部 副捜査課」
と呼称するものとする。
ねえ環ちゃん
それ、いつ書き終わる?
……卵?
なぜかこの部屋に置かれてたんだ。不思議だよね
……
そんな怖い顔しないで?
それにしても「カルガモ」か♪
ふふふ、悪くない名前だと思うよ。
誰が決めたのかな
……
……確認する
芳賀駿人。
お前が「子供」と呼ぶのは
生物的な意味じゃないよ
知っている
生物的っていうよりは――
――社会的
養子のようなものだろう?
……あはは
いいね、「養子」
言い得て妙だよ
今度から僕もその表現を使おう
……
「義兄弟」とか「同志」とか、いろんな言葉を使ってみたんだけどさ。
やっぱり、「子供」ほどのニュアンスが出なかったんだ
この調査書は、
「子供」
を調査し
評価するためのものである。
うん、養子。
親が子を選ぶところが、合っていないようで、合ってる
「輝夜樹照」の事件、ならびに
その影響を受けたと思われる
あらゆる人
を調査し
評価するためのものである。
僕は、できる限り「子供」は精査したいとも思ってたしね
もちろん、湧いてくれた子は嬉しいけどさ
湧かせたのはお前だろう?
もちろん
だって他に誰ができる?
芳賀駿人は自らの犯行において
誘拐・監禁ならびに殺害対象を
性別・年齢問わず
「彼女」
と
呼称する。
そして
彼の事件の影響を受け
もしくは芳賀駿人本人から洗脳を受け
「輝夜樹照」を信仰して
犯罪を起こす者を
「子供」
と
呼称する。
ねえ環ちゃん
それ、いつ書き終わる?
何年かかるか推定もできん
あはは、そうじゃなくて、今
序文とやら、そろそろ書き終わらない?
君が書き終えて、話ができるの、さっきからずっと待ってるんだけどな
話なら、今している
それに、まだ重要な項が抜けている
調査結果
No.01――
そうじゃなくて。
本気の、話
どの話だ
例えば、数奇く――
却下だ
何故?
他の「彼女」の話はするのに?
却下だ、と言っただろう。
数奇透には直接話を聞けるが、他の被害者の話はお前から聞き出すほかない
……ってことは、数奇くんは壊れちゃったりしてないね
今日はそれで満足、ってことにしておこうかな
それはそうと……
……っ!
……環ちゃん、今度から、その服装は止めてくれないかな
何故だ?
分かってて言ってるね?
それは――その軽装は、毒だよ
「魅力的」か?
子を殺す鳥、カルガモをモチーフにするなんて
誰が決めたのかな