Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

17.守りと思惑の連鎖

  

  

  

 自室のカーテンの隙間からこっそりと窺っていた。


 
 門兵と、メガネの青年、旅人のような少年、それともう一人……

  布を被った少女。





 直感が働いた。



 何かが起こる……














 四隅と扉の左右に、計6人の兵が構えた広い部屋。

 だだっ広いがそれだけで、テーブルセットも何も用意されていない。

 フリーフォールなのだろうか、よく磨かれたフロアだった。




 普段はここまで物々しくはないのだが、ケルトのために急遽兵が配備され、緊張感が漂っていた。




 ここで王を待つように言われ、とりあえず窓側に立つ。




 いつもの身勝手さは身を潜め、ケルトは落ち着きを払っていた。

 フラウも押し黙ったままじっとしている。

 なんだか居づらいラムダは、窓から庭を眺めていた。

 広い庭は葉緑が一望できるが、誰もいないから無機質にも思える。

 静かだ。

 不意に、両開きの硬いドアがノックされた。


 ラムダは驚いたように振り返り、ケルトは穏やかに顔を向け、フラウはドアを一瞥した。




 兵士達は直立不動でピクリとも動かない。

 部屋の外に構える兵士たちによって扉がゆっくりと開かれると、まだ10歳くらいのお付の少年の後ろから、白と金糸の法衣を纏ったセアト王が現れた。

 細く長い髪はさらさらとしていて、腰の辺りでくくられている。

 王からは、長年国を束ねていた貫禄と威厳が全身から放たれていた。

セアト

よく戻ってきたな。ケルト

ケルト

はい。約束ですから

 穏やかに微笑みあう二人。


 異様な光景に、何か違うとラムダは少し慌てた。

ラムダ

待てよ!

ラムダ

あ、いや、待ってください! 約束って何ですか!

 普段の口調から、あわてて敬語に戻して、セアト王に問う。

 言ってから不躾なことに気付いたが、だからといっても黙っていられない。

 短い間だが、ケルトは仲間だった。

セアト

おや。連れの者なのに知らんのか

 セアト王が、優しい顔つきで、だけどさりげなく見下した言い方をする。

 
 少しムッとしたラムダが何かを言う前に、ケルトが口を挟んだ。

ケルト

僕の変わりにレダがここにいるって言ったよね
僕が戻ってきたから、レダはもう開放されるんだよ

 すると、ラムダは難しい顔になる。

ラムダ

……ケルトはどうなるんだ?

 レダに会いたい。

 だからといって、ケルトがどうなってもいいというわけではない。



 もう少し、ケルトの事情を知っておくべきだった。

 今になって、ラムダは後悔する。

 真っ直ぐに進みすぎた。




 レダに会いたいだけなら、ケルトなしでも城へ来ることは出来たのではないか。

ケルト

地下に閉じ込められて終身刑

ラムダ

終身刑!? 何でだよっ!

 あまりにもあっさり言ってしまうケルトに、ラムダはやりようのない気持ちを抱えた。



 まるで、こうなることが最初から分かっていたようだ。

 教えてくれればよかった。

 そうしたら、こんなところに一緒に来たりしなかったのに。




 そんなラムダを、ケルトは宥める。

ケルト

いいんだよ、ラムダ
そのためにこれ採ってきたんだから

 ケルトは、エメラルドで採掘した(正確にはラムダのを横取りした)鉱石を取り出した。


 星に似ているこの石が、自分の心を癒してくれると思った。

いけませんっ! そんなものっ!

 何かを感じたお付の少年が甲高い声で口を挟めば、セアト王がそれを制した。

セアト

まぁ、それくらいはいいだろう

 鉱石のひとつやふたつ、どうってことはない。




 そういう問題ではないと思ったが、お付の少年はセアト王に反発できなかった。


 セアト王がパンパンと両手を打つ。

それを合図に、縄を持った兵士が2人、ケルトを囲んだ。

そして両手を縛ろうとする。

ラムダ

ちょっと待てよっ!

 もやは言葉遣いなんて構っていられない。

セアト

邪魔をするなら、そなたも同刑ぞ

 兵士の肩に手を掛けたラムダに、セアト王が穏やかに忠告する。



 するとラムダは力なく手を下ろし、唇を噛んだ。

 これでは、ケルトを差し出しに来たようなものだ。こんなこと、望んでいなかったのに。




 自分は、何のために旅に出ているんだろう。

 世界は、もっと平和で明るいものではないのか。


 なんだか納得がいかなかった。




 同刑でもいいとケルトを助け出そうとしたとき、ずっと黙っていたフラウがすっと前へ進み出た。

待ちなさって!

 突然響いた、澄んで凛とした声に、居合わせた者たちが皆振り返った。


 フラウは、被っていた布をゆっくりと剥ぎ、素顔を見せる。


 引き締まった表情で、真っ直ぐにセアト王を見つめていた。

フラウ

彼の身代わり、今度はわたくしがなりましょう

 ただでさえフラウには高貴さがあったが、口調が変わればそれが倍増した。




 セアト王には及ばないが、小さな身体からはそれなりの威厳を放っていた。














    

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