Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
16.城へ
明日、行ってくるよ
妹と2人になると、ケルトは星空を見上げながら呟いた。
そう……
いつかこんな日が来るってわかっていたはずよ
ラムダたちもレダに会いたいって言うから連れて行くよ
でも、2人は帰れるから
……友達になりなよ
あたしのことはいいのよ。お兄ちゃんはどうするの?
この期に及んで自分よりも妹の心配をする兄に、アーチェは少し苛立った。
セアト王次第だよ
ほんの少しだけ希望を残した声でケルトが気弱そうな笑顔を見せるから、アーチェはそれ以上もう何も言えなかった。
次の日。
早速城へ行こうとケルトが呼びかけた。
宿はこのままここを使っていいと言うので荷物は置いていく。
いつもよりもかなり身軽になって、ラムダはレダに会う気満々だった。
友情の証のオカリナだけは忘れずにしっかりと首にかける。
ただひとつだけ、心に不安があった。
もしレダがオレを忘れていたらどうしよう……
でもそれも仕方ないか
12年も前に会っただけだし
そうだとしても、笑顔でいよう
フラウは、城へ行くか行くまいか大分迷った。
しかし、ラムダの「レダに会うためにここまできたんだろ」の一言で行くことを決めた。
しかし、レダには会いたいが、城へ行くとなると事情が変わってきてしまう……
いつか立ち向かわなければならないと思っていたし
ラムダとケルトが一緒ならきっと大丈夫
なぁ、だからそれ取れよ
放っといて
先日よりもしっかりと顔を隠すように布を被る。
隣を歩いているとなぜかラムダのほうが注目されてしまうから嫌なのだ。
ケルトは気にしない性質なのか何も疑問に思わず意気揚々としている。
本当はひとり心の中に大きな不安を抱えているのだが、それを表に見せないのは彼の強さだ。
アーチェに見送られて家を発つと、午前中の穏やかな日差しに包まれた。
人の出は多く、街は活気に溢れている。
大通りに出れば一本道で、いつものようにケルトが前、ラムダとフラウが後に続いた。
花売りの馬車が横を通り過ぎ、何気なしにフラウは眺めた。
そう言えば、自分の名前の意味は花の総称だと誰かに教えてもらった記憶がうっすらとある。
大きな城が段々と近づいてくる。
それにつれて、ラムダは緊張してきた。
誰も何も言わない。
それぞれの気持ちを抱えて、真っ直ぐに歩き続けた。
でっけぇ……
やがて目の前にやってきた王城の、二重の門を前に、ラムダが驚きの声を上げる。
そろそろ声を出さないと精神的に限界だった。
あっ! お前っ!
ケルトの姿を見止めると、ミスリルの高価な防具を纏った門兵が、いきなり槍を構えた。
それを見たラムダがあわてて前へ出る。
何するんだよっ!
フラウを後ろにやり、片手でケルトを庇う。
まさか急にこんなことになるとは思ってはおらず、ラムダは怒り出した。
黙れ!!
こいつは違法者だ!!
のこのこと戻ってきたからにはそれ相応の処分を受けてもらうことになる!!
ケルトを視線で示し、兵士はきっぱりと言い切った。
低い声でしっかりと言われた言葉に、ラムダは一瞬自分の耳を疑った。
ケルトが何かしたのは知っていたが、来た早々こんな仕打ちはないのではないか。
城の人間は、こんなにも固いものなのか。
まさかラムダが庇ってくれるとは思っていなかったケルトは、珍しく少し困った様子でラムダと兵士を見比べていた。
フラウは後ろで黙って成り行きを見守っている。
何言ってんだよ
こっちの事情も聞かないで!
問答無用だ
何だよそれはっ! おかしいだろっ!?
ホントにケルトが悪いことやっていたなら、こんな風に素直に戻るはずもないだろ!
そんなこと知るか。違法者は違法者だ!
話を聞けよっ!
黙れ!! 関係ないヤツは下がっていろ
さもなくば、同罪とみなし、処分を――
待ってよ2人ともっ!!
険悪な雰囲気に、当事者のケルトは黙っていられず間に割って入った。
ヒートアップしていたラムダはそれで少し落ち着きを取り戻す。
そしてケルトを心配そうに見つめた。
ラムダありがと
僕のことはいいから
レダに会いに来たんでしょ
ラムダが何かを言う前に、ケルトが先に出た。
出来るだけいつもの笑顔を向けた。
微妙に悲しみの混ざった表情だったが、激昂しているラムダは気付かなかった。
フラウは気付いたが、何も言えなかった。
でも……っ!
僕は逃げない
レダに……セアト王に会わせて
真っ直ぐに言い放ち強い眼差しで兵士を見た。
彼が動揺するほどだった。
そんなケルトが、初めて大人に見えた。