――ハル達がベインスニクを旅立った頃。
(伏章16話~)
――ハル達がベインスニクを旅立った頃。
(伏章16話~)
はぁ、はぁ……
あ!?
ごめんなさい。
ここはレイマール城下の路地。
フードを深く被った旅人が、足早に路地を進んでいた。小柄な身体をマントに包み、フードの端からは金髪が外に流れている。
気を付けなよ、ねぇちゃん。
はい、気を付けます。
すれ違う通行人と身体がぶつかったが、素直に頭を下げると問題にはならなかった。
失礼します。
もう一度深く頭を下げ、その場を立ち去る。
ちなみにこの路地の先を出ると教会があり、更に少し行けば、城下町沿いの街道に辿り着く。
えらく急いでやがるな。
なんだかどこかで
見たような顔だったな?
まぁ最近の若い奴なんて
同じ顔してるように
見えるからなぁ。
そうだな。
わははははは。
男達は自分達の言葉を楽しく笑い飛ばした。
はぁ、はぁ。
あそこを抜ければ確か、
聖ユデア教会だったはず。
路地を抜けると、レイマール王城に次ぐ大きさの聖ユデア教会が、視界を占領する。
フードを被った旅人は、足早に街道の方向に急ぎながら誰にも聞こえない声で呟いた。
聖ユデア様……。
必ずデュランが
見付かりますように。
――レイマール王城内。
汗を滲ませ王城内を駆け回っている者がいる。
その者が法衣を着た男に駆け寄り、慌ただしく何かを尋ねた。
姫はこちらに
おいでになられて
おりませんが。
その男は、歳は40前。着衣や立ち居振る舞いから見れば、位は高そうだ。
そしてどうやら、姫の居場所が分からないらしい。
まさか、また城下に
外出されたのでしょうか?
汗を滲ませやってきた者は、姫の世話役だった。そして申し訳なさそうな顔をしながらも、法衣の男の意見を認めるしかない目配せをしてきた。
法衣の男は、手に多くの書物と書類をどっさりと抱えている。どうやら外交官らしく、そういった関係の書類が多い。
やれやれ。
私がお世話をしている頃より
活動的になっておられるようで。
あなたも大変ですね。
今度私から
お話ししておきましょう。
その世話役は、ありがたいと言った表情を見せる。そして視線を床のあちこちに走らせる。実に何かを胸の内に隠している挙動だと、法衣の男はすぐに感じ取った。
そのまま沈黙を続ける法衣の男。
沈黙に耐え切れず、法衣の男の視線が気になる世話役。そして目が合う。目が合ったら最後。その胸の内をさらけ出さずにいれなくなった。
「『ロッヅステッキ』も一緒に無くなっているのです」
法衣の男は目を丸くさせた後、嘆息を漏らす。そして棒術の得意な姫が、国宝である『ロッヅステッキ』を試しに振り回していた光景を思い出していた。
――レイマールからディープスに向かう街道。
ふ~、
ここまでくれば
もう大丈夫かな。
フードを捲し上げて、陽光の光を受けて光る金髪を風に流した。ツインテールにした髪は長く、解放感からか、表情ははつらつとしていた。
ぃよ~っし。
それじゃあちょっと
走っちゃおっかな。
ちょっとでも早くディープスに
着きたいしね。
青空の下、一人で口にしたセリフは走ってディープスに向かうということだった。
駆け出す元気な背中には、レイマールの国宝が背負われていた。