――ハル達がベインスニクを旅立った頃。
(伏章16話~)

フードを深く被った旅人

はぁ、はぁ……
あ!?
ごめんなさい。

 ここはレイマール城下の路地。


 フードを深く被った旅人が、足早に路地を進んでいた。小柄な身体をマントに包み、フードの端からは金髪が外に流れている。

軽装な中年

気を付けなよ、ねぇちゃん。

フードを深く被った旅人

はい、気を付けます。

 すれ違う通行人と身体がぶつかったが、素直に頭を下げると問題にはならなかった。

フードを深く被った旅人

失礼します。

 もう一度深く頭を下げ、その場を立ち去る。

 ちなみにこの路地の先を出ると教会があり、更に少し行けば、城下町沿いの街道に辿り着く。

軽装な中年

えらく急いでやがるな。

色黒の中年

なんだかどこかで
見たような顔だったな?

軽装な中年

まぁ最近の若い奴なんて
同じ顔してるように
見えるからなぁ。

色黒の中年

そうだな。
わははははは。

 男達は自分達の言葉を楽しく笑い飛ばした。

フードを深く被った旅人

はぁ、はぁ。
あそこを抜ければ確か、
聖ユデア教会だったはず。

 路地を抜けると、レイマール王城に次ぐ大きさの聖ユデア教会が、視界を占領する。

 フードを被った旅人は、足早に街道の方向に急ぎながら誰にも聞こえない声で呟いた。

フードを深く被った旅人

聖ユデア様……。
必ずデュランが
見付かりますように。

 ――レイマール王城内。

 汗を滲ませ王城内を駆け回っている者がいる。

 その者が法衣を着た男に駆け寄り、慌ただしく何かを尋ねた。

法衣を着た男

姫はこちらに
おいでになられて
おりませんが。

 その男は、歳は40前。着衣や立ち居振る舞いから見れば、位は高そうだ。

 そしてどうやら、姫の居場所が分からないらしい。

法衣を着た男

まさか、また城下に
外出されたのでしょうか?

 汗を滲ませやってきた者は、姫の世話役だった。そして申し訳なさそうな顔をしながらも、法衣の男の意見を認めるしかない目配せをしてきた。


 法衣の男は、手に多くの書物と書類をどっさりと抱えている。どうやら外交官らしく、そういった関係の書類が多い。

法衣を着た男

やれやれ。
私がお世話をしている頃より
活動的になっておられるようで。
あなたも大変ですね。
今度私から
お話ししておきましょう。

 その世話役は、ありがたいと言った表情を見せる。そして視線を床のあちこちに走らせる。実に何かを胸の内に隠している挙動だと、法衣の男はすぐに感じ取った。


 そのまま沈黙を続ける法衣の男。






 沈黙に耐え切れず、法衣の男の視線が気になる世話役。そして目が合う。目が合ったら最後。その胸の内をさらけ出さずにいれなくなった。



「『ロッヅステッキ』も一緒に無くなっているのです」



 法衣の男は目を丸くさせた後、嘆息を漏らす。そして棒術の得意な姫が、国宝である『ロッヅステッキ』を試しに振り回していた光景を思い出していた。

 ――レイマールからディープスに向かう街道。

フードを深く被った旅人

ふ~、
ここまでくれば
もう大丈夫かな。

 フードを捲し上げて、陽光の光を受けて光る金髪を風に流した。ツインテールにした髪は長く、解放感からか、表情ははつらつとしていた。

フードを深く被った旅人

ぃよ~っし。
それじゃあちょっと
走っちゃおっかな。
ちょっとでも早くディープスに
着きたいしね。

 青空の下、一人で口にしたセリフは走ってディープスに向かうということだった。



 駆け出す元気な背中には、レイマールの国宝が背負われていた。

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