Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

15.ケルトの妹

  

  

  

 今まで訪れたどこよりも大きな街だった。

 見たこともない種族の人たちもたくさん歩いている。

 人の姿はかなり多く、リバーストーン以上だった。

 しかし、物流に関してはリバーストーンのほうが多いかもしれない。



 人々の間を、ケルトは堂々と、フラウはこそこそと、ラムダはふたりを気にしながら歩いていた。

 ふたりがそんなだから、ゆっくり街を見学する余裕もない。



 ラムダは、こっそりため息をついた。



 前を歩くケルトに自然とついていく形になる。

 あまりに迷いなく歩くから、ラムダもフラウもどこへ行くのかと疑問を持ちながら問うことはなく、大人しくついていく。




 大通りから2つ外れた道に入り、住宅街に入ったのか急に閑静になった。


 辿り着いた赤い屋根の1軒屋、中流家庭のような家の前で呼び鈴を鳴らす。

 そのためらいのない行動に、さすがにラムダは不安になった。

 しかし、疑問をぶつける前に中から女の子が一人出てくる。



 そして、ケルトを見ると目を見開いて驚いた。

アーチェ

お兄ちゃんっ!!

 その言葉に、ラムダもずっと黙っていたフラウも驚いた。

ラムダ

お兄ちゃん!?

フラウ

お兄ちゃん!?

 ラムダとフラウは同時にケルトを見る。



 ケルトは、いつもの笑顔のまま片手を挙げた。

ケルト

久しぶり
 今帰ったよ、アーチェ








  

 上から下まで分厚い本に埋もれた部屋、書斎。


 銀の髪を持つ若い男――ダイオスが顔を上げた。

ダイオス

見つけた

手には、一冊の古書。

ダイオス

そろそろ行かねーと
魔女さん、しびれきらしてまた暴れちまうぜ

 静かな部屋で、ひとり焦りの色を浮かべた。
 














  

 暖かな、家庭的な家だった。



 女性趣味で配置された家具や小物が、フラウには落ち着いた。

 ずっと旅をしていたのだから無理もない。


 そして、自分は旅が苦手だということを薄々気付き始めた。

フラウ

レダに会ったら旅は終わらせよう

 心の中でひとり誓う。


 テーブルの上にお茶を4つ並べてから、アーチェは席についた。

アーチェ

お兄ちゃんに友達、ねぇ

 自己紹介はもうすんでいる。

 アーチェは明るい茶色の瞳をキラキラとさせ、向かいに座るラムダとフラウを眺めた。

アーチェ

ラムダさんってカッコいいね!
しっかりしてそうだし
ねぇ、彼女いるの?

 大きな瞳で見つめられ、ラムダは困惑した。



 そういうことを考えたことはないし、これからも考えたくない。




 自分は旅を続ける身であれば、恋人が不憫なだけだろう。




 何か言わなければならないと思うが、気の聞いた言葉が思い浮かばない。

ケルト

隣にフラウがいるじゃん

フラウ

違う

アーチェ

じゃあ、彼女いないんだ
あたしなんてどう?

ケルト

アーチェ

 身を乗り出したアーチェを、ケルトがたしなめる。

フラウ

もてるのね

 フラウがこっそりと耳打ちすれば、ラムダは反応に困りきっていた。












 

レダ

一緒に行きましょう

アスター

…………

 目の前の少女に、必死に呼びかける。

 出来るだけ穏やかに、出来るだけやさしく。




 心を閉ざし、無口な少女。

 彼女の心を開くのは、自分ではどうしても無理かもしれない。



 そう気付いてはいたが、自分が見放したら、この少女は孤独になってしまう気がしていた。



 そうはさせまいと、手を伸ばし、呼びかける。




 目の前の誰かがひとりぼっちになること。

 レダは、それが一番怖かった。



                














    
  

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