僕は死を覚悟した。
でもアーシャさんは会話の出来る位置まで
近寄ったところで足を止めて
口を開く。
僕は死を覚悟した。
でもアーシャさんは会話の出来る位置まで
近寄ったところで足を止めて
口を開く。
……私はトーヤさんに
危害を加えたくありまん。
先ほどのエネルギー波も
結界魔法が見えたので、
それが耐えられるように
調整したものですし。
えっ?
以前、あなたは私を
治療してくれました。
だからそのお礼に
今回はあなたを
見なかったことにします。
見逃してくれる
ということ?
見逃すもなにも、
見ていないものを
見逃すことは
そもそも出来ません。
アーシャさんらしい答えだ。
でもつまりは僕を見逃してくれるという
意味に捉えていい。
……僕はアポロやエルムの
治療をするよ?
ご自由にどうぞ。
私はもう
この場を去りますので。
私の任務は魔動城を
無力化することと
指揮官を殲滅すること。
その目的は果たしました。
でも、僕はマイルさんを
治療しちゃったけど?
私は瀕死の重傷を
彼に負わせました。
放っておけば死にます。
それで目的達成です。
その後、何らかの理由で
回復したとしても
それは知らないことです。
指揮官の殲滅が
目的なんだよね?
指揮官と言えば、
考えようによっては
僕だって……。
トーヤさんの姿は
見ていません。
見ていない人を
殲滅することは
不可能です。
アーシャさん……。
頑なな彼女らしい言い分だ。
僕は確信した。
アーシャさんは優しい心の持ち主だ。
無表情だけど、
それはうまく感情を
表現できないだけなんだ。
アポロたちを傷付けたのは許せないけど、
アーシャさん自身はなぜか憎めない。
ほかに
聞きたいことは?
これからどこへ行くの?
トイトイ砦です。
その地下に
アジトがあります。
そこが敵の
本拠地なんだね?
はい。
アンデッドやモンスターは
そこにある魔方陣で
召喚しているのです。
本当なの?
どうしてそれを
教えてくれるの?
訊かれたから答えた。
それだけのことです。
トーヤさんは
私の敵ではないから。
でも僕はここには
いないんじゃないの?
あ……。
では、今のは全て
私の独り言ということに
しておいてください。
アーシャさんは照れくさそうに笑った。
そしてそのまま艦橋から飛び降りて、
どこかへ行ってしまったのだった。
かなりの高さがあるけど、
きっと彼女なら問題ないんだろうな。
その後、
僕はアポロやエルムの治療をした。
そしてモンスターたちを一掃したみんなも
戻ってくる。
艦橋の状況を見て
驚いていたようだったけど
それは当然だよね……。
それからしばらく経って
落ち着いたところで
何があったのかをみんなに説明する。
信じられませんね、
その話……。
ワナなんじゃないの?
信憑性のある情報だとは
思うけどね。
私の情報収集と
重なる部分が
たくさんあるから。
ただ、彼女の真意が
分からないわ。
その点はクロードたちと
意見が同じよ。
私はアーシャさんなら
そういう話をするのも
あり得るような気がします。
ライカさん……。
彼女と接した時、
悪意は
感じなかったんですよ。
いえ、悪意というか
感情そのものが
希薄というか……。
ライカさんは僕の話を信じてくれたけど、
アーシャさんに対する印象は
少し違っていたんだなと分かった。
だって僕にはきちんと
アーシャさんの感情が感じられたから。
言い方は悪いですが、
命令に従っているだけの
人形のように感じました。
だが、確実なことはある。
それはアイツが
トーヤに攻撃をしなかった
ということだ。
あの場でトーヤを
殺さないでいる
メリットはない。
だがそれをしなかった。
確かに。
それにワナを承知で
乗り込んでみるのも一興。
今回は目的となる場所が
明確なのだからな。
戦力が分断されることも
ないわけですしね。
それに地下なら
通路だって狭いはずだ。
つまり少ない戦力でも
個々の能力が高い我々は
各個撃破できる。
1体1なら不老不死の俺は
ほぼ負けんぞ。
よし!
敵が態勢を整え直す前に
打って出よう!
僕たちは少し休憩をしたり、
回復薬で治療したりしてから
トイトイ砦の地下へ攻め込むことにした。
でもマイルさんやアポロ、エルムは
本調子じゃないから
救護班の皆さんにお任せをして
その場に残す。
絶対に今回の戦いでケリをつけてやる。
次回へ続く!