人っ子一人いない暗闇で、馬の鳴き声だけが響く。


天女の力によって生き返った煌炎とその一行は、讃岐うどんを家主にごちそうになった後、作戦を実行に移していた。

家の中を介して、表口に馬を急いで移し縄で柱に固定した後、煌炎は家主に許可をもらい、表口の扉の下の部分に除き穴を開けた。

そこでじっと外の様子を伺っているところだった。

煌炎

そう簡単に姿は現さねぇか。

花蓮

やってきても私たちには姿が見えないんでしょ?

その問いに煌炎は答えることはなく、次の作戦の実行に取り掛かった。

煌炎

おっさんすまねぇ。
一瞬ドアを開けるぞ。

え!?
それはやめ・・・。

家主の返答を待たず、煌炎は勢いよく扉を開けて息を大きく吸い込んだかと思うと、今までにないぐらいの大声で叫んだ。

煌炎

俺はここにいるぞ!!!!!
友達になりたいんだったらでてこい!!

そう言い放つと、瞬時に扉を閉める。

花蓮

え、煌炎さん七人同行と友達になるなんて正気!!??

煌炎

・・・・死ぬ直前、聞こえた。
あぁ、また友達になれなかったって。


つまり、七人同行は友達になれる人を探してるってことですか?

煌炎

・・・たぶんな。

ったく、急に扉を開けるとか言うもんだから肝が冷えたぜ。

煌炎

しっ・・・。

全員の話声がぴたりとやむと、暗闇に馬の鳴き声と混じって足音が響き始めた。

その足音は煌炎たちの家の前で止まった。
すかさず、煌炎は扉の下に作った穴を覗く。

花蓮

だ、誰かいるの?

花蓮がひそひそ声で話しかけてくるので、煌炎は花蓮に穴を覗かせる。

するとそこには、花蓮と同じくらいの年の少年が立っていた。

・・・?

花蓮

あれ?
七人同行じゃないじゃん。

花蓮はほっとし、思わず声に出してしまう。

そ・・・そこにいるの?

煌炎

クソガキ、お前が声出すからばれちまったじゃねぇか。
・・・まぁいい。
どうせご対面しなきゃならねぇしな。

花蓮

え!?
だって、七人同行だったら見えないんじゃ。

煌炎

あぁ、【ふつうは】見えない。

そう言って煌炎は扉を開ける。

ひっ、あんた足音がしたってのになんで開けて・・・・って誰もいねぇじゃないか。

本当ですね・・・。
姿が見当たりません。

しん、

花蓮

・・・?
何言ってるのお兄さんたち、そこに男の子がいるよ?

え?
どこに?

そんなやり取りを花蓮達がしている間に、煌炎はその男の子に近づく。

煌炎

よお。

あれ・・・?
ぼ、僕が見えて・・・?
あ、そうか、そういうことか。

その男児は入り口に繋がれた馬を見て納得した。

煌炎

ちびガキ、答え合わせだ。

花蓮

へっ?

煌炎

こいつの姿は俺とお前しか見えていない。
馬の股の下から覗いた俺とお前しかな。

どういうことだ?

煌炎

七人同行は普段は誰の目にも入らない。
だが、伝記には容姿は人の姿をしていたとある。
つまり見た奴がいるってことだ。

・・・その見る方法が馬を使うってことですか?

煌炎

あぁ、馬の股の下から見たら七人同行の姿は見える。

・・・僕の兄弟たちもその方法で見つかった。

煌炎

・・・兄弟たち?
おたくのほかにまだいるのかい?

煌炎が警戒する。

・・・・居ないよ。
僕の兄弟6人は・・・みんな殺されちゃった・・・。
僕だけ生き延びて、青藍に見初められ今この立場にいる。

煌炎

・・・・。

憎い・・・あいつらが憎い。
僕を独りぼっちにして、兄弟たちを殺したあいつらが・・・。

煌炎

・・・殺したのは幕府の奴らかい?

・・・・そうだよ。

煌炎

・・・悪かった。

ど、どうして君が謝るの?

花蓮

煌炎さん言っちゃだめ!!

先ほど、兄弟を殺した者たちの話を殺気を漂わせながら話していた彼の様子から考えて、
煌炎が幕府で政権をふるっている一家の血筋だとばれるのは非常にまずいと考えた花蓮はとっさに止める。

が、

煌炎

征夷大将軍の青藍は俺の兄だからだ。

君の・・・兄弟?

先ほどまで弱弱しく細められていた七人同行の瞳が見開かれる。

・・・なんて幸運なんだろう。
神様は僕に報復する機会を与えてくれた。

煌炎

・・・。

これでようやく兄弟の無念を晴らすことができる。
憎き青藍の兄弟を殺してあいつも僕と同じ目にあわせてやる・・・!

すっと、懐から短刀を取り出す。

ねぇ、最後に答えてよ。
どうして僕たちはこんな目に合わなきゃいけなかったの!?

煌炎

・・・それは。

初めて人を死なせてしまった時から気づいてた!!
僕達は化け物なんだって。
だから・・・、誰にも迷惑かけないように兄弟だけで協力して生きてたのに。

煌炎

・・・。

・・・答えてもくれないんだね。
・・・なら。

花蓮

煌炎さん!!

ここで死んでもらうまでだよ!

そのまま構えると、一直線に煌炎をめがけて突っ込んできた。

わああああああああああああ!!!!

しかし、怒りに身を任せて何の策もなくただ突っ込んでいった七人同行。

たくさんの猛者と対峙してきた煌炎にとってはかわすのは容易だった。

そのまま
手首をつかんで止める。

・・・。

攻撃を止められた彼は特に驚く様子を見せない。


そう、わかっていたのだ。
自分の攻撃が当たるはずがないと。

そのまま彼の刃物を持った手が震え始めると、
彼の瞳からは涙が一つ、また一つと零れ落ちた。

僕は・・・兄弟の仇も打てない。
弟失格だね。

煌炎

・・・。
頼む、俺の兄弟は殺さないでくれねぇか?

断る、と言いたいとこだけどこの様さ。
殺したくても殺せないよ。

煌炎

自分の兄の尻ぬぐいは自分でする。

え?

煌炎

お前の仇、俺にうたせちゃぁくれねぇかい?

な、なに言ってるの!?
君の兄弟だよ、君ができるわけがない!!

煌炎

やるさ、やらなきゃならない。
それに俺はあんたと敵対するために姿を現したんじゃない。

・・・?

煌炎

俺と、友達になってくれ。

花蓮

煌炎さん、あれ本気だったの!!??

煌炎様らしいですね。

そういうと煌炎は七人同行を掴んでいた手をはなした。

すると、力が抜けた彼の手から短刀がするりと滑り落ちていく。

僕と・・・友達?

煌炎

あんたも、俺と友達になるためにここに来てくれたんだろ?

刃物が消えた彼の手のひらに、煌炎の手のひらが重ねられる。

煌炎

あんたの手はまだ真っ白だ。
それを憎しみなんかで汚しちゃならない。
汚れ仕事は、俺一人で十分だよ。

白くなんかない。
僕は既にすれ違うだけで何人も殺してしまってるよ。

煌炎

大丈夫、あんたは悪くない。

っ・・・!

煌炎

あんたは悪くないよ。
だからそんな泣きそうな顔すんな。

その言葉を切りに、
今度は違う感情からくる涙が
七人同行の頬を濡らす。

僕は・・・待っていたのかもしれない。
その言葉を言ってくれる人を・・・。友人を。

そして重ねられた手と手に視線を落とす。

こんなにも人のぬくもりって温かいんだね。

煌炎

・・・・。

そして
それは一瞬だった。

誰もが予測しない行動だった。


近くにいた煌炎すらも止められないほどに。

花蓮

え・・・?

煌炎

・・・あんた。

煌炎の頬にも血しぶきが飛ぶ。


それは
目の前の七人同行の首から流れ出るものだった。

花蓮

七人同行さんどうして・・・!!

僕は・・・すれ違うだけで人を殺してしまう。
だか・・ら四国では人が外にでないんだ・・・。

自らの手で、
地面に落ちた短刀を拾い上げ、
首元を引き裂いた七人同行は息も絶え絶えになりながら最期の言葉を紡ぎだす。

僕一人が死ねば・・・、みんな安心して生きてゆける。

煌炎

―・・・・。

そ、んな顔しないで。
最期に・・・友達ができて・・・・、人の温もりが知れて・・・・僕は幸せだったよ。

ありがとう。

その言葉と、
彼の首元の鎖が壊れるのは
ほぼ同時であった。

花蓮

・・・魔具が。

笑顔を浮かべ、
既にこと切れた友人を煌炎はしばらく見下ろした後、
置いてけぼりを食らっていた宿主に向き直る。

煌炎

・・・四国の連中に伝えな。
七人同行は死んだと。

へっ!!??
本当かい!!!
こ、これで毎日怯えずに済む!!
今日は宴だ!!!

煌炎の一言で男は嬉しさで飛び上がり、町中大声で喜びの知らせを広めに駆け回って行った。

残された一行にだけ、
重苦しい空気が漂う。

しかし、意外にもそれを打ち破ったのは間近で友人の死を目にした煌炎であった。

煌炎

ふぁ・・、とりあえず宿にいかないかい?
また腹が減っちまった。
んで、明日から次の場所目指すか。

花蓮

・・・煌炎さん、こんなことがあった後によくそんな・・・。

すぐに踵を返して、宿屋に向かおうとする煌炎に花蓮は物申そうとしたが、賽によってとめられる。

・・・花蓮さん、煌炎様の手を見てください。

花蓮

・・・?
!!

賽にうながされ、
その先を追うと―。



煌炎の拳は自身の爪が食い込むほどに強く握りしめられ、微かに震えていた。

花蓮

・・・煌炎さん。

私の主はああ見えて人一倍、人の痛みが分かっているのですよ。

だから、
ほおっておけないんです。


賽はそう言ってはにかむと、煌炎の後を追った。

花蓮は改めて煌炎が多くの想いを背負っていることに気づく。


その広く悲しい背中を見つめ、花蓮も煌炎の後を追っていったのだった。

七雄七人同行の章【結】

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