煌炎

どこだぁ?
ここは。

行き交う人々を眺めながら、煌炎は思い出したかのようにつぶやく。

しかし、いつもはうるさいぐらいである賽や花蓮からの返答は無い。

どうやら迷子になってしまったようなのだ。

煌炎

・・・めしの匂いにつられてからの記憶がない。
あれはニシンの匂いだったからにしんそばか・・・じゃなくて。

煌炎一行は四国地方での一件を終え、近畿地方に足を踏み入れていた。

ここは復古の勢いで本来の日本文化が返り咲いた花の京都である。

その勢いを示さんとばかりに周囲は美しい造形の木造建築に囲まれている。

煌炎

・・・・まぁそのうち見つかるだろ。
ったく、あいつら迷子になる年齢かよ。

どうやら自身が迷子になっていることは頭にないらしい。

ぶつぶつと文句を言いながら煌炎は一軒の居酒屋らしき建物で足を止める。

煌炎

・・・にしんそばの匂いがする。

幸い、以前武闘大会で稼いだ金が幾分か煌炎の手元にあった。

まぁ、その賞金のほとんどが『煌炎様は無駄遣いするので、金銭の管理は私が致します。』と言った賽の手に委ねられているのだが。

煌炎は匂いに操られるように店内に入っていった。

煌炎

おっさん、にしんそばくれ。

らっしゃい、兄ちゃん!
すまねぇな、今日はにしんそばは酒の飲み比べで勝ったやつだけに出すんだ。

煌炎

飲み比べだぁ?

おうよ!!
勝った奴にはにしんそば食べ放題なだけじゃなくて酒代もタダってわけだ!!
大盤振る舞いだぜ??

煌炎

やる。

おっ、兄ちゃんいいねぇ!!
あそこでもうおっぱじまってるから混ざってきな!
潰れたらそこまで、最後はグラスの数で勝敗を決めるぞ。

煌炎

おー。

も、もうらめらぁ・・・。
ギブっす。

ぐ・・・吐きそう・・・。
よく考えたら飲み過ぎてにしんそば食えねぇよ・・・。

酒呑童子

なんだ、お主ら。
他愛無い奴らよのぅ。

領主様がお酒に強すぎるんですよぉ・・・。

酒呑童子

お主らが弱すぎるのだ。
・・・ん?
そこの童、ここは子どもが入る所ではないぞ。

煌炎

あ?

酒呑童子

そうだ、お主だ。
両親はどうした、迷子か?

煌炎

子どもでもねーし、迷子でもねーよ。
酒の飲み比べをしにきた。

酒呑童子

ほ?
お主が・・・?

煌炎の言葉に領主と呼ばれた男は目を丸くする。

酒呑童子

はっはっは!!!
面白い童だ。
意気込んでる奴を止めるというのは野暮なものだな。
どれ、なにから飲もうか?

そう言って男は酒瓶をずらりと煌炎の前に並べる。

酒呑童子

左から順に
玉乃光、英勲、澪、桃の滴。
どれもわしの一押しの酒だ。

煌炎

・・・さすが領主様って呼ばれてるだけあるな。
京都のいい酒勧めてきやがる。

酒呑童子

お主、分かる口か?
まぁ、いずれにせよお主は澪あたりをいっておくか?

煌炎

英勲で。

酒呑童子

・・・新酒か?

煌炎

バーカ、熟成物に決まってんだろ。

酒呑童子

・・・後悔しないことだな。

煌炎

ぁんだよ、おたく空じゃねーか。
もっと飲め飲め。

酒呑童子

おっとっと。
童かと思いきや、軽い澪ではなく深い英勲を選んだ時はどうなるかと。
恐れ入った!!

煌炎

俺ぁまだ潰れねーぞ。

酒呑童子

わしもまだまだ。

煌炎と男の周りには瞬く間に空のグラスが積み重なっていく。

あ、あの二人は化け物か・・・。

見てるこっちが吐きそうになってきたぞ・・・。
ぐ・・・。

その勢いはまさに鬼の如く、店内にいた客はごくりと唾を飲み込んだ。

2人は何処吹く風と気にせず、店主が勘弁してくれと止めに入るまで飲み続けたのだった。

七雄酒呑童子・茨木童子の章【起】

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