…………

……まったく、癪に障る空じゃ

真狸

や、柳の旦那ー、薪運び終わりましたよぉー

うん、ありがとう

柳さん、真狸さん、ここでの暮らしは慣れましたか?

はい、おかげさまで。皆さんが良くしてくださるのでとても助かってます

随分と精が出ておるようじゃのぅ、小童

…………え?

轟鬼

よぅ

真狸

轟鬼の爺さん!? 生きてたんすか!?

轟鬼

業腹ながらな。柳……じゃったか、上がってもいいか?

は、はい。どうぞ

それで、轟鬼殿は無事に逃げられたのですか?

轟鬼

これが無事に見えるか? 胸糞悪い生き残り方をしたわ……貴様らも無事だったとはのぅ。何の噂も聞かなんだから死んだと思っておったぞ

真狸

爺さんは今までどこにいたんすか? 戦が終わって1年くらい経つっすけど

轟鬼

角がなければ人間社会にもなんとか馴染めると分かったのでな、人里に寄ったり離れたりを繰り返しながら放浪しておった。結局儂らは目の前に集中しすぎて戦が最終的にどうなったのかは知らんかったからな

真狸

確かに、それはあっし達も気になってたところっす

轟鬼

ところで先に聞くが……貴様らはあの時どこにおった? 柳は楓譲と逃げろと命じられてたはずだが?

大筒の爆発に巻き込まれてはぐれてしまいました。痛みで動けないところを真狸さんに助けてもらったんです

真狸

覚の旦那からの主命っすからね、そりゃ必死こきますよ。楓譲だけ見つけられなかったのは今でも心残りっすけど

轟鬼

苦労したようじゃのぅ。さて、儂が聞いてきたことをまとめてみるが……

轟鬼

正直なところ、あの戦に勝者などおらんかったじゃろぅ。儂らも本拠である山を失ったが、人間側も指揮官である竹内秀政を討たれた。それに、消火された山から久道らしき遺体も発見されたらしい

真狸

久道って、松尾家の跡取りっすよね? 確か正室も子供もいなかったって……じゃあ松尾家は

轟鬼

あぁ、没落したろうな。ただでさえ弾正の牽引力で勢力を伸ばしておったからな、家臣を大勢失い跡取りまで死んだとあってはもはや持ち直す術はあるまい

…………そうですか

真狸

ところで、轟鬼の爺さんが生きてるってことは、他の鬼の皆さんは無事なんすか? 覚の旦那も?

轟鬼

……何も知らんのか?

どういうことですか?

轟鬼

覚は死んだ。配下共々人間に突っ込んでな

真狸

ちょ、ちょっと待ってください。旦那が人間軍に突っ込んだ……? 実戦は苦手だってあんなに言ってたのに

轟鬼

勝てないと分かったんじゃろぅ。柳や楓譲の逃げる時間を稼ぐために自爆したんじゃろぅて

真狸

…………旦那

轟鬼

鬼共もみんな玉砕した。秀政と相討ちになって倒れた儂を置いて、餓鬼共は我先にと突っ込みおった。この老体残して死におってからに…………本当に困った糞餓鬼共じゃった

壮絶……だったのですね

轟鬼

あぁ……たくさんじゃ

轟鬼

おかしいのぅ……こんなに虚しさが残るものじゃったろうか。どんなに酒を煽っても酔えんのよ

轟鬼さん、今でも人間を殺したいと……思いますか?

轟鬼

いいや、もう疲れたわ。今となっては何故戦争にうつつを抜かしていたのか分からぬ。貴様らが生きていると知れたし、東に行って隠居でもするかのぅ

轟鬼

人間の間で聞いた話じゃが、この地の情勢は一気に崩れた。すぐにでも尾張の何とかという軍がここを攻めてくるらしい。妖怪が完全に人前から消えた以上無いとは思うが、また戦禍に巻き込まれるやもしれん。なるべく早急に山奥に引き込むがよい

……分かりました。ご忠告感謝します

それで轟鬼さん、あの……楓のこと、何か聞いてませんか?

轟鬼

楓譲か?

もうどこにも行かないって、離れないって約束したんです。だけど、またすぐに離れ離れになってしまって……

もし死んでしまったのならしっかり弔ってあげたい。ですが、もし生きてるのならば……また必ず会えると思えるから

轟鬼

……ふっ、そうか。それなら――――

轟鬼

邪魔をしたのぅ

真狸

いえいえ。道中お気をつけて。何かあったらいつでも来てくれていいっすから

轟鬼

……のぅ狸、何故柳と一緒に暮らしておるのだ?

真狸

種族違うのにって? 野暮なこと言いますねー爺さん! まぁ確かに柳の旦那には想い鬼がいるのは重々承知っすけど――――

轟鬼

奴が千狸の仇だということ、気づいておろう?

真狸

…………それを言っちゃうんすね

轟鬼

実は失敗していたか? それとも情が移ってしまったか? もし入用なら儂が手を貸すが

真狸

心配ご無用っすよ爺さん! これはあくまで覚の旦那の主命っすから

轟鬼

主命とな?

真狸

二人を守ってくれ……それが覚の旦那の最後の命令でした。だから柳を助けてるんす。楓譲は見つけられなかったけど、柳を傍でお支えする

真狸

そして老いて死にゆく柳にあっしがとどめを刺すんす! これで旦那の最後の命令も守れて師匠の仇も討てる! まさに一石二鳥っす!!

轟鬼

それはまた……気の遠くなりそうな長い道のりじゃのぅ

真狸

師匠の仇は絶対に許せません。ですが主の命令を無視して仇討ちを優先すれば、師匠は絶対許してくれないっす

真狸

覚様も死んじゃって、心細さもありますよ? 泣きたくなる時もありますよ? でも、無事に柳を討てたら、あの世で師匠が認めてくれる気がするんす

真狸

だから、柳の旦那はあっしがそれまで全力で守ります!! あっし以外の理由で死なせるわけにはいかないんす!!

轟鬼

ふん……まったく素直じゃないからに

轟鬼

なら、儂は寧ろ邪魔になるのぅ。若造が大見得を切ったんじゃ。冷やかすのは無粋じゃろうて

真狸

はいっ! 爺様もどうぞお達者で!

…………楓

轟鬼

楓譲の噂は何も耳にしておらん。久道と戦っていたと聞いたことはあったが、憶測の域を出んからのぅ

轟鬼

だが、死んだという噂も聞いておらん。事実がどうかは分からんが、どうじゃ? 少しは希望が持てよう?

楓……君は3年前に僕らが離れ離れになった時も僕が生きてることを信じてくれてたんだよね

僕も信じる。きっと、また君に会える。頑張って僕のところまで歩いてきてる気がするんだ

だからもう、どこにも行かないで?

…………っ

……もちろん

楓、僕は待ってるよ。

ずっとずっと、君と再会できる日を

刀を収めて もうひとつの未来へ

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