戦いが進むに従って個々の実力差が
明確に出るようになっていた。

事前の情報にあったように
敵は低位のアンデッドや
モンスターが中心でそんなに強くはない。

もちろん、
あの数が厄介なことには違いないけどね。


対して僕たちの側は
熟練した傭兵さんたちが中心だから
どんどん敵を駆逐していく。
 
 

エルム

良い感じですね。
敵は数こそ多いですが
個々の能力はそれほど
高くないようです。

アポロ

あぁ、この調子なら
余裕で殲滅させられるぜ。

トーヤ

油断は大敵だよ。

マイル

その通り。
勝負は終わってみるまで
分からん。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
その時、不意に艦橋のドアが開いた。
中に入ってきたのはアーシャさん。
戦いをしてきたあとなのか、
その手には血のついた大剣がある。

表情はいつものようにポーカーフェイスで
何を考えているのかは掴めない。



でも外で戦いはまだ続いているんだし、
どうしたのかな?
 
 

アーシャ

…………。

マイル

アーシャか。

トーヤ

どうしたんですか、
アーシャさん?

アーシャ

…………。

マイル

待てっ、トーヤくん!
様子がおかしいっ!

 
 
 

 
 

 
 
 
マイルさんは
アーシャさんに近寄ろうとした僕を制した。

するとアーシャさんは大剣を握り直し、
じっとマイルさんを見つめる。


ただ、相変わらず無表情のままだけど。
 
 

アーシャ

…………。

アポロ

てめぇ、
何を考えてやがるっ?

アーシャ

……皆さんを
倒しに来ました。

トーヤ

っ!?

アポロ

裏切るってのか?

アーシャ

魔族社会において裏切りは
当たり前のようにあると
学びました。
驚くことではないでしょう。

アーシャ

それに私はもともと
あちら側の所属です。
間者として送り込まれて
いたのですから。

トーヤ

そんな……っ……。

 
 
 

アポロ

下がれ、トーヤ!

エルム

兄ちゃんには
手出しさせないっ!

 
 
 
アポロとエルムが咄嗟に身構え、
僕を庇うように前へと身を乗り出した。


一方、それに対してアーシャさんは
視線だけを動かし、
ふたりの方をチラリと見る。

もちろんその程度じゃ
思考までは読めないけど……。
 
 

マイル

はっはっは。
見事な間者っぷりだ。
私もすっかり騙された。
感心したよ、アーシャ。

マイル

だが、私を倒せるか?

 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
マイルさんはポケットに手を突っ込むと、
何かを握って拳を取り出した。

そしてブツブツと何かを呟くと
その手には美しい彫刻が施された
手槍が現れる。


宝石のようなものも付いているし、
芸術品としての価値もありそうだ。
 
 

マイル

せいやぁっ!

 
 
 

 
 

 
 
 
 
 

 
 
マイルさんは瞬時に間合いを詰め、
アーシャさんに切っ先を突き出した。
その手数とスピードは目で追えないほど。

でもアーシャさんはその全ての攻撃を
あの大剣で全て受け止めている。


信じられないのは、
その一撃一撃を確実に対応していること。
まるで大剣に重さなんてないかのように
俊敏かつ自在に操っている。

やがてマイルさんが
後方に飛び退いて間を置き、対峙する。
 
 
 

マイル

…………。

アーシャ

…………。

 
 
 
 
 

トーヤ

ふ、ふたりとも
すごい……。

アポロ

マイルさんがこんなにも
接近戦に強いとは……。
ユリア以上かもしれねぇ。
驚いたぜ……。

 
 
 
 
 

アーシャ

……マイルさん、
お見事な腕前です。

マイル

これでも全力は
出せていないのだがね。
手槍はサブウエポンだから
扱い慣れていなくてね。

マイル

もっと広い場所なら
私の最も使い慣れた武器で
戦ってあげられるのだが。
本当に残念だよ。

アーシャ

では、
戦う場所を変えますか?

マイル

やめておくよ。
私にとってはここの方が
都合がいいからね。

マイル

この狭い場所で
キミの大剣は
扱いづらかろう。
動きに鈍さがあるのを
感じ取ったよ。

アーシャ

……否定はしません。

マイル

つまり現状では
武器を自在に使える
私が有利だということだ。
すぐにキミにトドメを
刺してあげるよ。

アーシャ

では、状況を変えて
しまいましょう。

マイル

っ!?
それはどういう――

 
 
 

アーシャ

……オォ……
オオオオォ……。

 
 
 

風もないのに、
アーシャさんの髪や服がなびきだした。
それとともに大剣の刀身も
徐々に黄金色に輝き出す。

――いったい何が起きているんだッ!?
 
 

アーシャ

はぁああああぁーっ!

マイル

くっ! マズイ!
あれはエネルギーの塊だ!

アーシャ

やぁああぁっ!

 
 
 

 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
次の瞬間、目の前は眩い光に包まれた。

つまりアーシャさんは
大剣に溜めたエネルギーを
一気に解き放ったんだろう。

周囲が轟音に包まれ、
そこに何かが破壊する音が混じる。

煙や埃の臭いも充満して息苦しい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
程なく光が収まり、
目の前には無残にも破壊された
艦橋の姿が広がっていた。

残っているのはフロアの床だけ。
今の攻撃のすさまじさがよく分かる。


……でもそれなら僕はなぜ助かったんだ?
 
 

トーヤ

あれ?

アポロ

ちっくしょ。
あんにゃろ、
無茶しやがって……。

エルム

けほ……けほ……。

 
 
 

 
 
 
 
よく見ると
隣にはアポロとエルムの姿があった。
そして僕たち三人を包み込むように
透明の光の壁がある。


――これは結界魔法だ。
そうか、そのおかげで助かったのか。

その壁は役目を果たして
力尽きたかのように
スッと目の前から消えていく。
 
 

アポロ

やむを得ずに
魔法を使っちまった。
これでしばらくは
別の魔法が使えねぇ。

トーヤ

結界魔法はアポロが
使ったんだね?

アポロ

まぁな。
咄嗟のことだったが
間に合って良かったぜ。

トーヤ

ありがとう、アポロ!

エルム

でもまた
攻撃をされたら……。

アポロ

安心しろ。
その時は俺自身が
トーヤの肉壁に
なってやるからよ。

アポロ

この命に代えて
トーヤは俺が守る。

エルム

僕がいることも
忘れないでください。
兄ちゃんは
守ってみせます。

トーヤ

ふたりとも……。

アポロ

それよりもマイルさんは
大丈夫なのか?

 
 
――そうだ、それが気になる。

僕たちはさっきまで
マイルさんのいた方向へ視線を向けた。


当然、アーシャさんはその場に佇んでいる。
そしてマイルさんは……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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