魔物が刻弾の存在を知っているのかどうかは分からない。だが、バイススカルソードは具現化された刻弾を注視した。


 刻弾を具現化したのはユフィだった。


 刻弾に注意が移った瞬間を逃さなかったハル。劣勢だった状況から、初めて攻勢に出る為、バイスの懐に踏み込む。

ハル

今っす!!

ユフィ

当たって!

ユフィ

外れた……
しかも隙を突いたハルの攻撃を
弾いた挙句に躱すなんて……

ハル

強い……
なんて強い魔物なんすか。

ユフィ

ぅっ…………

 ユフィが両手を震わせダガーを落とした。すぐに脚にも震えが広がり、立っていられなくなる。刻弾の副作用で両手両足が痺れているのだ。

ハル

だだ大丈夫っすか!?

ユフィ

……ば……か、
来る、わよ……

ハル

はっ!?

ハル

っく!
ロ、ココ……
まだっすか。

 鍔迫り合いになったハルとバイスの視線が合った。正確に言うと骸骨故に目はないバイスだが、骨の空洞部分の闇から、ハルをとらえる何かは確かに感じた。


 そして視界の端に、ロココが見える。


 大きく肩で呼吸をして、涙目になっているのが分かる。昨日と変わらず、刻弾を具現化出来ないでいたのだ。

ロココ

出ないんです。
ハルさん、ハルさん!
ああぁぁ……

ハル

…………ぅ

 ジュピターもぶっ飛ばされ、ダナンも切られ、アデルはその応急処置に追われている。ユフィは刻弾の副作用で痺れ動けず、頼みの綱のロココも刻弾が使えない。


 強敵を前に一人、八方塞がりになったハルは何も考えられなくなっていた。


 本当に死ぬ。このままこの闇の中で切り捨てられて終わる。死の実感が内側から溢れてきた。

コフィン

あなたは信頼するあまり、
仲間に頼りすぎです。

ハル

 後方にいるコフィンの声が、無心だったハルに聞こえてきた。

コフィン

恐怖を感じるのは
自己防衛の一種と言えますが
仕方なく湧いてくるその感情で
本来の能力が
発揮されないのも確かです。

アリス

よく見ろ。
弱点だらけだぞ。

コフィン

ハル、その敵を倒さなけば
いけないのはあなたです。
恐怖を乗り越える
勇気を示してください。

 鍔迫り合いを強引に外し、間合いをあける。



 ――仲間を信頼するあまり頼りすぎていた。

 確かにそうだったと気付かされるハル。少し歯が立たない相手だったので、自分一人では切り開けないと思い込んでいた。だがもはや自分の力で切り開くしかない状況。さもなければ全滅の可能性だってある。

 『よく見ろ』と言ったアリス。必ず弱点はある。

ハル

あ!

ハル

あぐ!!

 バイスの連撃を浅く左胸に受けながらも後退するハル。



 だが、隙を発見した。連撃の合間にある隙。癖のような動きで、今思い起こせば最初から特徴的だった。簡単ではない。が、やらねばならない。


 『勇気を示す』後はそれだけ。

ジュピター

ハ……ル……

ユフィ

……ハル

アデル

ハル、ダナンさんは
必ず助けます!
だから……
勝ってください。

 仲間の声は、ハルの心の内から恐怖を取り払って勇気を奮い立たせた。

ハル

ここっす!!

アデル

すごい……

 ハルの一撃はバイスの胴体に大きくダメージを与えた。

ジュピター

まだだ……
終って……ない。

 だが、バイスはまだ長剣を振り下ろそうとしていた。しかもよく見ると、ハルも左腕を大きく切られている。鬼義理を持つ腕に力が入っていない。

 ~航章~     77、ブレイクスルー

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