魔物が刻弾の存在を知っているのかどうかは分からない。だが、バイススカルソードは具現化された刻弾を注視した。
刻弾を具現化したのはユフィだった。
刻弾に注意が移った瞬間を逃さなかったハル。劣勢だった状況から、初めて攻勢に出る為、バイスの懐に踏み込む。
魔物が刻弾の存在を知っているのかどうかは分からない。だが、バイススカルソードは具現化された刻弾を注視した。
刻弾を具現化したのはユフィだった。
刻弾に注意が移った瞬間を逃さなかったハル。劣勢だった状況から、初めて攻勢に出る為、バイスの懐に踏み込む。
今っす!!
当たって!
外れた……
しかも隙を突いたハルの攻撃を
弾いた挙句に躱すなんて……
強い……
なんて強い魔物なんすか。
ぅっ…………
ユフィが両手を震わせダガーを落とした。すぐに脚にも震えが広がり、立っていられなくなる。刻弾の副作用で両手両足が痺れているのだ。
だだ大丈夫っすか!?
……ば……か、
来る、わよ……
はっ!?
っく!
ロ、ココ……
まだっすか。
鍔迫り合いになったハルとバイスの視線が合った。正確に言うと骸骨故に目はないバイスだが、骨の空洞部分の闇から、ハルをとらえる何かは確かに感じた。
そして視界の端に、ロココが見える。
大きく肩で呼吸をして、涙目になっているのが分かる。昨日と変わらず、刻弾を具現化出来ないでいたのだ。
出ないんです。
ハルさん、ハルさん!
ああぁぁ……
…………ぅ
ジュピターもぶっ飛ばされ、ダナンも切られ、アデルはその応急処置に追われている。ユフィは刻弾の副作用で痺れ動けず、頼みの綱のロココも刻弾が使えない。
強敵を前に一人、八方塞がりになったハルは何も考えられなくなっていた。
本当に死ぬ。このままこの闇の中で切り捨てられて終わる。死の実感が内側から溢れてきた。
あなたは信頼するあまり、
仲間に頼りすぎです。
!
後方にいるコフィンの声が、無心だったハルに聞こえてきた。
恐怖を感じるのは
自己防衛の一種と言えますが
仕方なく湧いてくるその感情で
本来の能力が
発揮されないのも確かです。
よく見ろ。
弱点だらけだぞ。
ハル、その敵を倒さなけば
いけないのはあなたです。
恐怖を乗り越える
勇気を示してください。
鍔迫り合いを強引に外し、間合いをあける。
――仲間を信頼するあまり頼りすぎていた。
確かにそうだったと気付かされるハル。少し歯が立たない相手だったので、自分一人では切り開けないと思い込んでいた。だがもはや自分の力で切り開くしかない状況。さもなければ全滅の可能性だってある。
『よく見ろ』と言ったアリス。必ず弱点はある。
あ!
あぐ!!
バイスの連撃を浅く左胸に受けながらも後退するハル。
だが、隙を発見した。連撃の合間にある隙。癖のような動きで、今思い起こせば最初から特徴的だった。簡単ではない。が、やらねばならない。
『勇気を示す』後はそれだけ。
ハ……ル……
……ハル
ハル、ダナンさんは
必ず助けます!
だから……
勝ってください。
仲間の声は、ハルの心の内から恐怖を取り払って勇気を奮い立たせた。
ここっす!!
すごい……
ハルの一撃はバイスの胴体に大きくダメージを与えた。
まだだ……
終って……ない。
だが、バイスはまだ長剣を振り下ろそうとしていた。しかもよく見ると、ハルも左腕を大きく切られている。鬼義理を持つ腕に力が入っていない。