それより出かけるんだろう?
例の……

ああ



時計を見る。

1時5分。
ただし、昼の。












でも本当に来るのか?
面識もないのに







今日は木下女史の告別式。

もう何ヵ月も前のことのようなのに
実際には彼女が殺されてから
まだ2日も経っていない。





うん。今回のは俺も行かないといけない気がするから

……

















脳裏に



あの「犯人」の姿が浮かぶ。

1度だけ見た彼の顔は
間違えようもなく灯里だった。




あの過去は真実なのか。
灯里は何故木下女史の告別式に
出席する気になったのか。



彼女を殺したのは
本当は――

……





























何か言いたそうな顔だ

あ、いや
そんなことはないよ







言いたいことは
何も言えない。



























事件も解決してないのにな


俺だけが知っている。

次の殺人事件が起きることはない。
そして
犯人が捕まることもない。






この一連の事件は
迷宮入りとして

ファイルの新たな1ページになって
終わるだろう。


























ここで私が話したことも、外に出てしまえばきみの妄想でしかなくなる



西園寺侯爵に
縄をかけることはできない。
証拠は何ひとつ残ってはいない。








過去を見れば
全てが解決すると思っていた。



でも実際にはどうだ。

木下女史は
他の娘たちは

こんな結果で浮かばれるのか。

世間もきみの仲間も……いや、きみの上層部がまず黙ってはいまい




そうだろうか。

そうかもしれない。




























……灯里

なに



西園寺侯爵は駄目でも
灯里ならどうだ?


もし灯里が木下女史を――

人間の手足を人形のパーツにするってこと、お前はどう思う

その話、まだ覚えてたんだ








『ピアノを嗜む娘の手は、

やはり上手に弾くのだろうか』





そう言ったのは灯里だ。

その言葉が
きっかけになったのも事実だ。





そして侯爵は
『より良いパーツ』を求めた。




お前が直接手を下したかどうかはともかく、侯爵にも同じことを言ったんじゃないのか?

侯爵があんな荒唐無稽なことを思いついたのは、そのせいじゃないのか?

だから。
その罪悪感で、今日来る気になったんじゃないのか?













……そうだね。でも、

ん?



不自然に止まった声に
晴紘は灯里を
そしてその視線の先を見る。




西園寺侯爵、





もう2度と会うことはないと
思っていた老人が

そこに立っていた。











pagetop