Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
13.持ち寄る情報
夜、お互いの報告会としてラムダの部屋に集まった。
それ、誰よ
当たり前のようにここにいるケルトに、フラウが怪訝な顔をする。
ケルトはにこにこと部屋を物色していた。
自分の世界に入っている彼は入ってきたばかりのフラウに気付かなかった。
ケルトを呼ぶと、彼はすぐに振り向いた。
うわー、可愛い人!
すぐさまフラウが視界に入り、ベッドに置いてあった大きめの枕の抱き心地が気に入ったケルトがそれを抱きしめたまま率直な感想を述べると、意外にもフラウは照れていた。
強気な彼女しか見てこなかったラムダは内心驚いたが黙っていた。
この人がラムダと一緒に旅している人なの?
メガネを押し上げてケルトが問う。
ラムダはベッドの下で胡坐をかき、フラウにイスを勧めて頷いた。
あぁ。フラウっていうんだ
フラウ、こっちはケルト
レダを知っているみたいだから連れてきた
ケルトです。よろしく
人懐っこい笑顔で手を差し出すケルトに、フラウは戸惑った。
こういうタイプは苦手のようだ。
しばらくケルトの手が空で孤独になって、見かねたラムダが動いた。
フラウの手をとり、半ば強引に握手させた。
よろしく
フラウはラムダを少し睨みながら低めの声を出す。
で、レダを知っているって?
手を離すと、早速本題に入った。
その遠慮のない単刀直入っぷりにラムダは苦笑する。
目的に一直線なのはいいけど、もう少し配慮してほしいなあ
俺もまだ聞いていないんだ
フラウと聞こうと思って
レダはねー
ベッドの上に座り枕を抱えてケルトは話し出した。
いい人!
それは分かっているわよ!
具体的なことを知りたいのよ!
単純かつ簡潔に述べたケルトに、直後フラウの鋭いつっこみが入る。
子供のような顔をしてケルトが怖がったから、フラウはすぐさま身を引いた。
少しイラついたようだが、それを必死に押し殺して続きを促す。
ケルトが一番年上のはずなんだけどなぁ……
どうしたらこんな風になるのだろうと疑問に思う。
もう少ししっかりしてほしい。
ケルトにはケルトのペースがあり、フラウにはフラウのペースがあって、初対面では合わせづらい。
それが何となく分かるから、少しずつ譲歩する。
譲歩してほしい。
えーとね、ダイオスって人とセアト王の近くにいるんだよ
僕の内緒の星の研究が見つかっちゃって……
僕の身代わりで城にいるの
だけど、レダもそれを望んでいたんだって
なんとかって人の敵討ちの資料が城にしかないみたいで、ずっと城の中に入りたかったんだって
資料見つけて、ついでに星の研究が認められるようにがんばるって言ってたよ
思い出しながら懸命に話すケルトの言葉は支離滅裂で整っていなかった。
本当に研究者なんだろうかと疑ってしまう。
研究者という人たちは頭がいいのではなかろうか。
だけど、ケルトが間違いなくレダと接触していたんだと分かる。
レダが、何かの目的を持っていることも。
まさか城なんて場所にいるなんて思っていなかったけれど。
ラムダが考え付かなかったような大きな場所にいる。
追いかけても追いかけても追いつけない。
まだセアト城にいるんじゃないかな
僕も会いたいな
ねぇ、一緒にいかない?
ケルトが目を輝かせて誘う。
疑問に思うことはまだあった。
ひとつずつ丁寧に聞いていけばとても一晩じゃ足りないだろう。
だけど急ぐことはない。
だから頷いた。
これも何かの縁。
一緒に行くのは構わないけど……
やった! じゃあ決まりっ!
人の話を聞けっ!
両手を挙げて喜ぶケルトにラムダが怒鳴る。
それって本当なんだろうな
僕、嘘は言わないよー
言い合うふたりの声が聞こえてしまったのか、1階からおかみさんが上がってきて一言注意された。
だから今度は気をつけて声を落とす。
まだ話は終わっていない。
フラウは何かいい情報あった?
ラムダが聞くと、フラウは何だか疲れたように話した。
レダがここエメラルドの出身だったこと。
レダの身に起こったこと。
ラムダは身を乗り出して真剣に聞いた。
とにかく、次は城下町ね……
遠くのほうを見てフラウが言う。
その横顔は暗くてよく分からなかった。
城下町はねぇ、いろんな人がいて楽しいよ!
ケルトは城下町出身なんだ?
うん。生まれたのはね
今は違うところに住んでいるけど、よく行くんだー
生まれ育った街の話は盛り上がる。
雑談するふたりを横目に、フラウの表情は沈んでいた。