Wild Worldシリーズ
Wild Worldシリーズ
セアト暦40年
英雄の輝石
12.絡み合う運命
探しましたよ
振り向けば、金髪の青年。
さぁ、いきましょう
王が心配しておられます
やさしい言葉。だけど、頷けなかった。
嘘だと思ったから。
自分を守るためだとしても、嘘の言葉なんかいらない。
わたしは、誰にも必要とされていない。
そんなことはとうの昔に思い知っている。
知っているんだよ。
今更やさしさに励まされるつもりはないんだ。
これ以上、傷つきたくはないの。
やさしさで、傷つけないで。
ひとりが嫌なら、手を繋いでいきましょう
さし伸ばされる手。
その手は取らず、ひとりで歩き出した。
元々手先が器用なラムダは、ひとつひとつの作業が早かった。
飲み込みも早いから、ジャルミも感心するほどに次々と鉱石を発掘していく。
あたふたするケルトを横目に、黙々と作業を続ける。
あんた、ここで働かねぇか?
旅してるから無理
ジャルミの誘いをあっさり断った。
旅の目的は世界を見ること。
だからひとつの場所にはいられない。
ひとつの場所に落ち着けない性分なんだと、ラムダはうすうす気付き始めていた。
好奇心故か、いろいろなものが見たい。
それはきっと、間違いじゃない。
君、すごいねぇ。うらやましいよ
ケルトにも褒められるが、集中していたラムダには聞こえてなくて反応がなかった。
そんなラムダにしゅんとしたケルトだったが、見かねたジャルミに励まされて作業に戻る。
やっと疲れ始めて手を止めると、目の前には赤、青、碧の鉱石が山のように輝いていた。
いつの間にこんなにやっていたんだと自分で驚いていると、潮時だとジャルミが声をかけた。
ほら、約束だ
好きなの持っていけ
笑みを浮かべ、ラムダの肩を抱く。
あーいいなー
ケルトが子供のような声を出す。
これだけ発掘してくれりゃ俺らも大助かりよ
遠慮はするな
満足そうなジャルミ。横でケルトが指をくわえて見ていた。
ケルトは鉱石をなかなか発掘できず、出来たとしても作業が下手でせっかくのものに傷をつけたりして使い物にならなかった。
がんばったのに……と肩をおろす。
ラムダは鉱石が欲しくてやっていたわけではないが、この際なのでどれかもらっておくことにした。
えーと、じゃあ……
どれがいいのだろうか。
どれも綺麗で、何がいいのか素人の目では判別できない。
そんなこと分かっているくせに、ジャルミは含み笑いをして口を挟まない。
あくまでラムダがいいと思ったものを選ばせるつもりなのだ。
ラムダが迷っている様をひどく楽しそうに見ている。
ラムダは、旅を決めた時以上に迷っていた。
どうでもいい(と言ってしまうとジャルミに失礼だが)ことほど、迷ってしまうのだ。
せっかくだからフラウにでもプレゼントしようか。
喜んでくれるだろうか。
これ! これがいい!
うわっ! お前じゃねぇよ!
ラムダが迷っている間に、鉱石のひとつをケルトが素早く掲げ上げた。
すると、教え係の男があわてて奪い返そうとする。
あー、いいんじゃね?
今回だけ特別だ
機嫌のいいジャルミが口を挟むと、男は仕方ないという風に肩をすくめ、ケルトは本当に嬉しそうな顔をした。
やった! ありがとう!
大切そうに、鉱石を抱きしめる。
迷いながら、ラムダはそんな様子をただ眺めていた。
外はもうすっかり暗くなっていた。
洞窟の中で長い時間人工灯に照らされていたから、時間間隔がなくなっていた。
そう思えば、お腹がすいた。
空は分厚い雲で覆われていて、星が見えない。
道すがら、足元を照らす小さなランプだけが頼りだった。
上機嫌のケルトはラムダと同じ宿に泊まっていたらしく、一緒に帰る。
ケルト、だっけ
あんた、どうして旅してるんだ?
研究者なんだろ?
不思議に思っていたことを聞いてみた。
ラムダが初めて自分に興味を持ってくれたから、ケルトは嬉しかった。
うん。ちょっと息抜きに鉱石取りに来たんだよ
前から欲しかったし
ほら、鉱石って星みたいにキレイじゃない?
あぁ、そうだな
でしょう!
どうしてあんなに輝けるんだろう
僕、星に憧れているの
星か……
砂漠の星は大きくてキラキラしていたな
砂漠の日々を思い返す
大して時間は経ってないはずなのに、ひどく懐かしい。
砂漠!?
いいな、そうなんだよね、砂漠は星の見え方違うんだよね
砂漠だけじゃなくてね、場所によって星の見え方全部違うんだよ
僕にもっと体力があれば、全部の場所に行きたいんだけどなぁ
うらやましそうに、夢を見ているように、ケルトが目を輝かせてひとり言のように呟く。
行きたいなら行けよ
根性あれば行ける
自分が旅をしている身分というのもあり軽い気持ちで言ってしまったら、一瞬だけケルトの表情が曇り、すぐさま元に戻った。
まずい方向に話を持っていってしまったかと自分を叱咤する。
人にはそれぞれの事情があるもの。
ちゃんとそれを分かってあげられるようになりたい。
うん。いくよ
いつかね
なんとなく、ケルトの言葉は嘘だと思った。口だけだと思った。
ケルトの言葉は遠くを見ている感じだった。
叶わない夢を見ているような……
子供っぽい物言いをするくせに、どこか冷めた現実を知っている。
これでもラムダより大人なのだ。
かける言葉を探して、だけど見つからなくて、ラムダは黙り込んだ。
ケルトの身上を知らないのに、これ以上無責任なことは言えなかった。
ね、ラムダ
君はどうして旅をしているの?
ケルトが自分に話題を持ってきたから、出来るだけ明るく振舞う。
眼鏡の奥のケルトの瞳は、明るい黒だった。
俺?
俺はね、連れの女の子とレダって言う人追っているんだ
え?
レダって、あの金髪碧眼の人?
ケルトが少し驚いていた。
レダを知っているようなケルトに、ラムダのほうが驚いて彼をまじまじと見つめた。