ヴィルヘルムに指示され、魔法陣の上に立つ。何故かアルモニーも横にいた。
それじゃ、今からちょっと行ってくる。
一瞬でそこまで運んであげようか?
いいのか?
君の言う新しい物語が気になるし、見逃したくないから。
それじゃあ頼む。
ヴィルヘルムに指示され、魔法陣の上に立つ。何故かアルモニーも横にいた。
なんでお前がいるんだ?
帰りは僕が魔法でやるからね。
ヴィルヘルム・グリム。転送陣起動。狼の拠点に転移。……実行!
目の前が、真っ白になる。軽い浮遊感。まるで、湖に落っこちた時のよう。
本当に着いた……。
さ、行ってきな。僕はこの辺りに隠れているから。
お、おう。
――ついに、来てしまった。
もう帰ることはないと思っていた家の前。何度か手が上がり、ノックしようとするが直前で止まってしまう。
……っ
意を決し、扉を叩いた。ガチャっと扉が開く。
はーい。
――っ!
よ、よぉ。
……
……
おかえり
……っ!
ただいまっ!
――彼は、待っていてくれた。迎えてくれた。なにか温かいものが込み上げてくる。だが、まだ早い。
腹、へってないか?
あ、ああ、一応は。
俺も、料理できるようになったんだよな。
そうか。
ほんっと、大変だったんだからな。
ああ。
今まで俺は、こいつとどんな風に喋っていたんだ?
あ
お?
今まで家にはいなかったはずの女が花の入った花瓶片手にこっちを見ている。。まさかヴォルヴァインが女を入れたのか? いやいや、まさかあいつに限ってそんなことはないだろう。
えっと
ちょっと用事が思いついたから行ってくる!
わかった。気を付けて行って来いよ。とくに、猟師にはな。
うん!
今のは?
料理の先生だ。
そ。
……
飯でも作ってやるよ。
――まだ、話したくない。この空気を壊したくない。……自分で物語を紡ぐ勇気をください。
黙々と料理を食べる。弾む会話などなく、何かを忌避するように、食事は進む。
……
……
突然、ヴォルヴァインが立ち上がる。
……ごめん。
え
あの時、お前に何も言えなくってごめん。お前の死にたくない思いをわからないでごめん。追いかけられなくてごめん。……力になれなくって、支えてやれなくって、ごめん
――っ!
――あの、ヴォルヴァインが謝っている。あの仕事しかできない、人の心もわからないような奴が。
俺も、死になくないって思ってしまったんだ。猟師に殺されるという、復活できる状況なのに。
ヴォルヴァイン……
あの子さ、赤ずきんなんだよ。偶然再会して、死んで、また見かけて、だめって思っていたけれど、あの子が泣いていて……
――やめろ。
――自分が、嫌になる。
やめてくれ!
ヴォルツヴァイ?
お前って本当に人の気持ちわかんねぇよな? 悪いのは俺だってのによ。勝手に出て、苦労させて、心配かけて。
全部俺が悪い!
俺は創造者……グリムのためにここに来たんだよ。そういう理由がねぇと、戻ってこれない奴なんだよ。
――ああ、言いたいことはこんなことではないのに。
おら、何か言えよ。
……
失望したか? おりこうちゃん。
……責任とれ。
あ?
それもそうだな。元はと言えばお前が赤ずきんを投げて七匹の子山羊に行ったのが始まりだ。俺が赤ずきんをやるのも久しぶりだったし、赤ずきんは慎重だし、前使った花畑は消えているしでマニュアル以上に熱心にやった。
そう言うヴォルヴァインの顔は笑っているが、目が据わっていた。正座をしなければいけない気がして、ヴォルツヴァイは床に座る。
マニュアル以上にやったかもしれねぇが……
彼女、俺に惚れちゃったぞ!
は?
女の子の初恋相手を自分の手で殺させやがって!
い、いや、それ俺よりもグリム
更に!
はいっ!
お前が引っ掻き回した七匹の子山羊だが、あれ末っ子だけ記憶が残ってて兄弟を殺たぞ。俺も殺されかけた。
そうだったのか……俺のせいで……。
そして逃げている最中赤ずきんに会った。狼の姿でな。そしたらローティア、俺の手当てのため花畑まで連れてって、俺に惚れたって言ったんだぜ。そいつとは知らないで。
そしてもふもふされて薬取ってくるまで待って、猟師と出くわして死んだ! ローティアの前で! あいつを泣かせたのはお前のせいだ!
あ……はい。すいませんでした。
それと
ヴォルヴァインはぜえぜえと息を整え、言い加える。しかしその目は、いつも通りの彼に戻っていた。
早く帰って来いよ。
……おう。
やはり、彼はこいつは俺の相棒だ。
ごめんな、面倒かけて。
そしてここは、俺の帰る家だ!
帰ったら一発ずつ殴らせてもらおう。
お前のグーはやばいだろ!
覚悟してろよ。
ドアノブに、手をかける。
行ってきます。
行ってらっしゃい。
家を出た。あぁ、すぐに帰ってくる。あいつらを仲直りさせて、ランケの嫁連れて。
……。
ずっと外で待っていたのだろう。とてとてと赤ずきんが寄ってくる。
狼さん。
あ?
ヴォルヴァイン、ずっと心配していた。野営できてるか、とか。クマに襲われていないか、とか。
……。
早く、安心させてあげてね?
……。
子供にするように、ぐしゃぐしゃとローティアの頭をなでる。
当たり前だ!
手を振って森の中へ。退屈そうにアルモニーが欠伸をしていた。
あ、終わった?
おう。
それじゃあ、帰ろっか。
ちちんぷいぷい~。
間の抜けた呪文とともに、景色が変わる。