Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

11.出会いの交錯

  

  

  

 ジャルミにしたがって、旅人(に見えない)の彼の近くまで向かった。



 作業場は簡素で、四方から専用のライトに照らされていた。

木製のテーブルに木製のイス。

軽くて動きやすいから、足元に砂袋を置いて固定してあった。

それでも、男が少し身を乗り出しただけで動いてしまう。


ジャルミ

おう。やってっか?

 様子を見ながらジャルミが声をかけると、教えていた男がホッとしたように顔をあげた。

ジャルミさんじゃないっすかぁ
ちょっと聞いてくださいよぉ
こいつ、何度言っても同じミスばっかりするんでさぁ

ジャルミ

情けねぇ声出すんじゃねぇ
そいつ旅行者だろ? 
ある程度仕方ねぇだろう

そんなレベルじゃないんスよぉ

 泣きつかれたジャルミは、やれやれといった感じで、例の彼の手元を覗き込む。

そして苦笑いになった。



 近くで交わされる自分の会話に気付いているのかいないのか、旅人の彼は必死に作業している。

ジャルミ

よう。旅人か? 
俺はジャルミ。ここで働いているんだ
あんたは?

 ジャルミが尋ねると、彼は顔を上げて穏やかな表情をした。

ケルト

僕はケルトって言います
研究者やってます

ジャルミ

何の研究?

ケルト

星です

ジャルミ

星? それって違法なんじゃねぇの?

 ジャルミが驚くと、気のせいかケルトは一瞬だけ哀しそうな顔をした。

それは本当に一瞬のことで、すぐに元の表情になるところから、言われ慣れていることなんだと分かる。

しかし、ラムダには分からない分野だったから、どうにも声をかけることが出来なかった。

ケルト

今、学会で認めさせるようにがんばっているんだよ

ジャルミ

ふーん

 興味がないのかこれ以上関わるのはまずいと思ったのか、一度話を切るとラムダを呼んだ。

ジャルミ

あんたもやってみるか?

ラムダ

何を?

ジャルミ

これ、見てみろよ

 ジャルミが指し示したのは、ちょうど今別の男がレールで轢いてきた土入りの箱だった。

ジャルミ

こん中からそれっぽい石を探し出して磨いていくんだ
見事鉱石を探し当てたら、1つだけ、1番気に入ったヤツを持って行っていい

ラムダ

へー。面白そうだな

ジャルミ

バクチみたいだろ

 興味を持ったラムダに、ジャルミは楽しそうにニヤッと笑った。













レダ? レダってあの金髪のか?

 フラウが声を掛けたのは井戸から水を汲んでいた女性だった。


ダメもとで声を掛け、反応を期待していなかったフラウは驚いて頷いた。

あたしが知っているのはヤツが8歳の時までだけどさ
あいつ、この街の出身でさ

フラウ

えーっ!?

 フラウがさらに驚くと、水汲みの女性は大きな目をまん丸にした。

あんた、レダがこの町の出身だって知ってて来たんじゃないのかい?

フラウ

知らなかった

まぁいいさ
レダはね、結構裕福な家庭で育ったんだ
子供の頃からいい教育は受けてたから、育ちはいいはずだよ

だけど8歳の時にレダの家は何者かに襲われて、両親は殺され、妹は行方不明
家も燃やされて、何とか逃がれたレダはその前で呆然とつっ立っていたよ

たまたま街に来ていた旅人に引き取られて、レダは旅立って行った

それ以来、ヤツはここには戻ってきてないよ
当時かなりの事件になったから、来れば分かるからね

 フラウは黙って聞いていた。

 宿帳にはレダの名前があったはずだが、来ていないとはどういうことだろう。

 同じ名前の別人か。

もう何年前になるのかね
今何しているのかなって時々思い返すんだけど、アイツ、生きているのかい?

フラウ

生きているはずよ
あたしが会ったのは1年前だから

そうか。生きてんのか

 女性は安心したように息を吐いた。


 水がたくさん入った桶を抱えて、フラウに笑いかける。

だけどいいもんだね、男を追っかけて大冒険に出る女って

フラウ

そんなんじゃないです

 きっぱり言い切った言葉の奥には、懺悔に似た気持ちがあった。









    

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