花火を見た。







パッと光る火の玉が破裂し、綺麗な花が咲き誇る。







屋台を回った。







様々な出店は見ているだけでも楽しいが、食べ物の臭いは自然と鼻につき、食欲を加速させる。







金魚すくいなんかも、すぐに紙を切ってしまう下手くそなくせに、なぜだか場の雰囲気に釣られてやってしまう。

白百合涼香

あぁぁぁもぉぉぉ~~~

伊村延彦

うっわ、へったクソだなぁ

白百合涼香

むぅ!!

しゃがみこむ彼女の細い手が、俺の太もも辺りをポコポコ叩くが全く痛くない。

白百合涼香

じゃあ、延もやってよやってやってやってぇ~!

伊村延彦

わかった、わかったから騒ぐな

駄々っ子のために仕方なく金魚すくいをやるも、あえなく撃沈。

白百合涼香

ププゥゥ~、人のこと言えないでやんのぉぉぉ~

伊村延彦

うっせ

俺は立ち上がり、その場を後にする。







そして、彼女も俺の後を追いかける。







普段見ない浴衣姿の彼女……白百合涼香(しろゆりすずか)に目を奪われた。







可愛かった。







いつまでも、側にいてくれたら俺はそれだけで幸せになれる……そう思った。

あの日からもう3ヶ月……。

屋上での一幕以降、俺は彼女と絡むようになった。







……いや、むしろ彼女以外とは関わりはなかった。







この学校に来て初めての友達。







心から嬉しかった。







屋上にいけば、いつも彼女がいた。







そして、くだらない会話を繰り広げる。







それはまるでただ駄弁るだけの部活だった。







彼女も彼女で、かなり頭がアレ過ぎて、周りにはそれほど親しげな人はいなかった。







だからだろうか。







俺と彼女の関係はかなり深くなっていった。







これはもう親友とでも言うべきなのだろうか……。

いや、違う。







日に日に俺の気持ちは、確かにそんな甘いものでは無くなってきていた。







コレが恋なのだ。







お初の感情に俺は戸惑った。







そんな俺が辿り着いた結論。







…………夏祭りに彼女を誘おう。

放課後の屋上。







俺は彼女とこうして、ここで会うのが日課になっていた。

伊村延彦

あ、あのさ

白百合涼香

うん……ってなにその顔!? いつも以上に極悪極まりない表情してるじゃない!!

伊村延彦

うるせーな!
生まれつきなんだからほっとけよ

伊村延彦

んな事がしたいんじゃねー。
明日から夏休み始まるだろ……

白百合涼香

うん……

伊村延彦

それでさ、よかったら……祭り、一緒に行かないか?

白百合涼香

……うん、行く

伊村延彦の運命の機転はここだった。

人影のない所で二人になった。







誰もいなければ光もない。








そんな静かな場所まで金魚すくいで失敗した勢いそのままに来てしまった。

白百合涼香

ねぇ延、こんな所まで来てどうしたの?

……いや、金魚すくいなんて当て付けだ。







ここに来る理由なんて1つしかない……。

伊村延彦

あのさ、涼香

白百合涼香

うん?
どうしたの、そんな怖そうな顔して……

伊村延彦

…………俺さ、お前の事好きなんだよ

白百合涼香

…………えっ…………

言ってしまえば一瞬だった。







あれだけ考え続けて費やした数日間が、ほんの一瞬で終わってしまった。







あぁ、なんてあっさりなんだ……。

伊村延彦

お前の事が好きだ

あっさり過ぎて、2度目を投入。







顔に熱が集まる感覚が自分で分かる。







鏡だけは、今絶対に見たくなかった。







自分の顔なんて想像するだけ十分だ……。

白百合涼香

…………そっか

伊村延彦

お、おう……

心臓の高鳴りがやばい。







呼吸が苦しい。







頭がぼーっとする。







目眩も……。







足がユラユラ揺れているのも分かるが、自分でも制御不能だ。







告白ってやべぇ。







そして返事。

白百合涼香

ごめん…………

それもまた、あっさりだった。







自分の頭が一気に冷めていくのがわかる。







こんなもの、日常会話のほんの一幕よりも短い。







けれども、それ以上に俺の頭は回りまくった。







そして、それもようやくクールダウンし始めたのだ。







フラれた。

伊村延彦

……そか

白百合涼香

うん……もう少し、早く言って欲しかった……

伊村延彦

え? なんて?

白百合涼香

なんでもないよ、じゃあ私はもう帰るね。バイバイ…………

告白の後だと言うのに、本当に全てがあっさりだった。







だけど……。

伊村延彦

おい! 最後なんて……!?

確かに、彼女は何かを言った。







暗闇に消えていく彼女に声をかけるが、最後まで彼女は振り替えってくれなかった。







そして、夏休みが開けたらまたいつも通りに戻るのかな…………。

…………そんな事はなかった。







夏休みが開けて最初の登校日に、俺は言葉を失った。







彼女が死んだ。







持病だったらしい。







彼女は誰にも何も言わなかった。







それ以上、クラスの奴も何も言わなかった。







あぁ、本当に全てがあっさり進む………………。

そんなわけ……ない。







そんなわけないんだよ!!

俺の世界はまた黒く閉ざされた。







前は何も見えない。







俺の光は消えたのだ……。







ああ、こんな世界でも……俺はまだ生きなければ行けないのか……。







死ぬか…………。







俺はまた同じ事を繰り返す。







屋上の南京錠を開き、緑のネットに手をかける。







すぐに向かうよ……。







今回は止めるものが何もない。

…………そう思っていたのに、
毎回裏切られるな…………。

ここは彼女との思い出の場所……。







そんな所でしねるわけがない……。







チキショウ……。

白百合涼香

バイバイ……私も好きだったよ

あぁ、チキショウ、チキショウ、チキショウ!!







俺はあの時聞き取っていた。







彼女が残した最後の言葉を。







あぁ、本当に……チキショウ……。







彼女は俺から、死ぬ勇気すらも奪っていった。

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