毎日がバラ色に変わった。







自分の存在意義を初めて形のある物で理解できた。







右手を見ると、そこには確かに繋がる二つの手。







その手はまるで、綿を掴んでいる様な感覚で軽く、柔らかく、けれども相手からの熱は確実に伝わって来ていた。







うれしかった。







いや……そんな生ぬるい物ではない。







彼女に依存していたのだ。







メールアプリの返信が帰って来るまでの時間、授業を受けている時間、帰りに彼女と別れてからの時間。







これら全ての時間、僕はハラハラしていた。







自分に自信がないのだ。







もしも、他の人に彼女を取られていたら……。







そんな物が、僕の思考を埋め尽くす。


そんな物が、僕の思考を埋め尽くす。







いつしか、束縛欲求すら芽生え始めた。







よくよく考えてみれば、自分の思考の飛び具合など一目瞭然で気づくことができる。






そして、自覚した。







普通じゃない、自分に。







こんな自分を表沙汰にしたいと思うわけがない。







自分を変えよう……。

そんな決意を胸に決めた時と同じくして、不幸は起きた。







不幸……これは不幸なのか……。







自分でも分からなくなった。







駅前の少し小道に入った所にある、小さな喫茶店。







僕は次のデートでお洒落で静かな場所を選び、ここを見つけた。







きっと、ここなら彼女も喜んでくれる。







彼女とのデート当日、それは彼女と付き合い始めて大切な一年記念日。







喫茶店に下見に向かう前に、少し高めのブレスレットを買った。







彼女に喜んでもらうため。

喫茶店の中は静かだった。







コーヒーの匂いが店の中を包み、少し上がり気味だった僕の気分を落ち着かせていく。







店の内部を見渡した時、完全に気分は落ちると共に血の気が引いた。

僕の彼女は、他の男と、キスをしていた。


























ああ、僕の束縛は………正しかった。

僕に気づいた彼女は必死に弁解の言葉を口にする。







相手の男はしれっと店を後にした。







けれど、目に入って来る状況、耳に入って来る状況を頭が受け付けなかった。







僕は彼女を……許した。







彼女は泣いて喜んだ。







彼女が喜んで僕も嬉しかった。








数日早いが、ブレスレットもプレゼントした。







それから、喫茶店を出た僕らは僕の家に向かった。







家に呼ぶのは初めてだったが、自然と緊張とか、そーゆー類の感情は沸かなかった。







初めて見せる僕の部屋。

………
この部屋に、
彼女を監禁できる
喜びが僕を満たした。

和田 守男

その後、すぐに監禁が親にバレて僕はこっ酷く怒られるわ、彼女にチクられて学校を退学させられるわで散々でした

大野信一

羽島桜

早川実

俺達はなにも発する言葉を思いつかなかった。







その重過ぎる一つ一つの言葉。







この件は、誰が悪い誰が正しいという理論が通用する簡単な話ではなかったのだ。







簡単になんか言葉は発せない……。

和田 守男

その時、初めて恋を学んだ気がします。やっぱり、誰にでも大切に思ってくれる人を確実に自分の物にした方がいいんです。じゃないと、また同じことを繰り返す……。もう、あんな思いは嫌なんです

和田守男が持つ恋愛の感性。






優しい子を好きになる……これは、別に可笑しくない感性だ。







けれど、どこか引っかかった。







和田守男の本当の気持は……。

伊村延彦

くだらねぇ、思い出話発表会は終わったか?

大野信一

……!!

それは唐突だった。







誰もが耳を疑うほどに。






その氷ついた雰囲気を延彦は一言のハンマーでかち割ったのだ。

和田 守男

な、なんだって……!!

伊村延彦

そんなの、お前の悲しい過去のお話だろ? それと桜はどんな関係で追いかけ回されなきゃいけねーんだよ

和田 守男

だから!! 僕はもう同じ失敗をしないために……!!

伊村延彦

しらねーよ。ただのストーカーじゃねーかよ。どんな理由だろうとストーカーだよ

和田 守男

……っ!!! 
お、お前に僕の何がわかる!!

和田守男は吠えた。







自分の心の底からの叫びだろう。






まるで、他人に理解をされない孤独の人物を物語っているかの様な………。

伊村延彦

ああッッ!!??

しかし、延彦はそれを遥かに上回る迫力で和田守男に迫ると、そのまま胸ぐらを掴み上げた。

伊村延彦

お前の事情なんざしらねーっつってんだろーによ!! 
お前の悲劇なんざ自業自得だろ!!
ああん!? 
そんなに未練たらたらで他人に迷惑かけるなら、異性に話かけるんじゃねええええええ!!

振り上げられた右拳は最後、和田守男の頬目掛けて振り下ろされた。







過激だった。







口から出た血しぶきは壁やベッドに飛び散り、殴られた本人は床に丸まってしまった。

伊村延彦

お前は桜の事なんざ、これっぽっちも好きじゃねー!! 
そんな恋も理解してねーアマが、恋を語ってんじゃねーよ

ああ、そういう事か……。







引っかかっていた物が綺麗に取れていく感覚があった。







和田守男の本当の気持ちは、ただの代償探しだったんだ。

伊村延彦

お前にはわからねーだろうよ。
恋ってもんは…

それだけ言い残し、延彦は保健室を後にした。







今までの延彦では想像もつかない、悲しそうな表情を浮かべて……。

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