Wild Worldシリーズ

セアト暦40年
英雄の輝石

10.鉱山

 

 

 

 一晩中続いたラムダの語りにろくに睡眠もとれず、翌日ぐったりしてフラウは情報収集に向かった。

 せっかく訪ねたのだし、何もしないよりはダメもとでも当たってみようと、フラウは行動力があるので朝になると寝こけているラムダを放ってひとり外へ出た。




 ラムダがやっと起きたのは正午近かった。

 昨夜の夜更かしのせいで寝坊してしまったのだが、憧れのフェシスについて語れるだけ語れたので満足していた。

 サイドテーブルの上に冷めてしまったトースターとサラダの朝食が置かれている。

 ミルクビンの下にフラウからのメモがあり、少しイラついているような大きめの字で『情報集めてくる』とだけあった。



 
 暇をもてあましたラムダは、朝食を平らげると鉱山へ向かった。

 おかみさんの話では、この大陸にはここエメラルドにしか鉱山がないらしい。

 ちょうど今が採掘時で、何らかの縁で訪れたのならば行ってみるのもいいかもしれない。




 1本で伸びていく道を北へ向かう。

 鉱山はもうすでに見えているのだが、大きすぎてかえって見えない。

 街から鉱山の入り口へは低い柵で仕切られていた。

 そこから明らかに土の色が違う。


 柵は超えず、その場で観察してみた。

 白いタンクトップで首にタオルを捲いている男たちが作業している。

 日焼けした体は健康的で、若い男は華奢だがベテラン風の男はみな体格がよかった。

 むき出しの赤土に工具が散らばっている。

 作業用の簡素な小屋に寄りかかり、煙草を吸いながら休憩をしていたスキンヘッドの男がラムダに気付いた。

ジャルミ

んだ? あんた、旅人か?

 少し距離があるから、張った声。

 その声は太めで、男臭さがある。

 なんとなく頼りたくなる声質。



 まさか声を掛けられるとは思っていなかったラムダは、少し驚いたが素直に言葉を出した。

ラムダ

はい。ちょうど採掘期に来れたので

ジャルミ

んなら見てくか?
危ないから奥深くには入れねーけどな
さっきもあんたよりひ弱そうなのが来て、出来たら鉱石分けてくれ何つーから、仲間のひとりが案内していったとこよ

ラムダ

鉱石って分けてもらえるんですか?

 軽い口調で男が言うからうっかり聞き流しそうになる。

 知識欲が出てきたがどこから聞き返せばいいか分からず、考えるより前に思いついたまま疑問が出る。


 男は首を振った。

ジャルミ

自力で採れたらな
ってかさっきのはあんたの仲間か?

 聞かれて首を傾げた

 フラウがこんなところにくるだろうか。



 観光ならともかく、情報収集だったらどこかしらの店か、この街なら井戸端とかではないのだろうか。

ラムダ

違います。俺と旅しているの女の子なんで

ジャルミ

ケッ。女連れかよ

 短くなった煙草を缶の中へ捨てると、男は顎をしゃくった。

 ついてこいといっているのだ。



 向かってみて男の隣に並ぶと、身長の差にまず驚いた。

 ラムダよりも頭3つは大きいかもしれない。

ジャルミ

あんた、名前は?

ラムダ

ラムダ

ジャルミ

ラムダか。ふーん
俺はジャルミ。適当に呼べよ

ラムダ

分かった。ジャルミ、よろしく












    

 かなり広く、しっかりとした洞窟だった。


 人3人は並んで歩ける幅に、上から土が落ちてこないように木枠と網で補強がしてある。

 足元にはトロッコのレールが敷かれてあった。

 一定の間隔でランプが灯されており、洞窟内をオレンジ色に照らしている。

 入り口付近には誰も居らず、かなり中に入っていくと男達の汗と土が混ざった臭いがしてきた。

ジャルミ

鉱山だと分かってから随分掘り進めちまったからな
そのうち山の向こうに突き出ちまうかもな

 ジャルミはうそぶいた。


 進んでいくうちに白いタンクトップの男たちに遭遇する。

 場のせいだろうか、不思議な力がみなぎっていた。

ジャルミ

おーいっ! やってっかー!

おーっす

うぃー

 ジャルミの呼びかけに、作業している男たちは手を止めず背中でこたえた。

 
 彼らを通り越し進んでいくと、向こうにまぶしいくらいの光が待っていた。

 その中へ一歩足を踏み出すと、一瞬視界がフラッシュした後に広い空間に辿り着いた。

ジャルミ

ここが穴の中の休憩所よ
案内できんのはここまでな

 このだだっ広い先にはいくつもの穴があり、この先で採掘しているんだと知れた。

 外よりもたくさんの工具が落ちており、四方八方から照明に照らされているせいか影がいくつもあり、コントラストがすごかった。

 土が乾きすぎるのだろうか、水をまいている人もいる。



 新しいものを見ている興奮に、ラムダの目はキラキラしていた。

ケルト

あっれー? おっかしいなー

 男臭さの中、場違いな陽気な声が響いた。


 振り向いてみると、薄手のコートを着てメガネをかけた男が工具を持ちながら怪しい手つきをしていた。

 話し方といい声といい、一瞬同い年かそれよりも年下の人かと思ったが、明らかに大人の男である。

 彼は首をかしげていた。

そうじゃねぇよ! こう!

ケルト

こう?

だーっ! 違う!

 一緒にいるジャルミと同じにおいのする男が、工具の使い方を教えながら頭を抱えていた。
 
 彼らに視線を移して、ジャルミはラムダに耳打ちをした。

ジャルミ

あいつだよ。さっき言ってたひ弱そうなの






   

pagetop