ハルのうめき声が響いたのは二階層に落ちた時。
トリックスライムのどろりとした感覚は、落下の衝撃を殆ど失わせていた。不思議なほどするりと身体から離れる粘液で、二階層の地面に放り出されたハル達。運悪くハルの頭の上にダナンが落ちてきたのだ。
うげぇっ!!
ハルのうめき声が響いたのは二階層に落ちた時。
トリックスライムのどろりとした感覚は、落下の衝撃を殆ど失わせていた。不思議なほどするりと身体から離れる粘液で、二階層の地面に放り出されたハル達。運悪くハルの頭の上にダナンが落ちてきたのだ。
ふぅ~、
まいったなこりゃ。
まぁ、
これはお約束だな。
マジで良かった……。
ハルじゃなかったら、
死人が出てたかも……。
いつもの調子のやりとりの中で、辺りを見渡す。迷宮内の風景は、一階層と大して変わらなかった。
どこでしょうか……
ここは。
…………
まずいわ。
ユフィの言葉は危機感を内包していた。
帰り道が…………
そうよ。
確か、二階層の魔物は
一階層と大して変わらないと
聞いているけど、
帰り道が分からないのは
致命的すぎるわ。
ユフィさんの仰るとおりです。
稀に出る強敵以外は
一階層と変わりありません。
それよりも深刻なのは
一階層の階段が
どこかわかるまで
彷徨う羽目になることです。
それはやべぇな。
全部切りまくれば
いいんじゃねーの?
いっぱしな事
言うじゃないか。
そうだ全部ぶっ潰せばいい。
自分も斬りまくるっす。
ハル達の軽いのりを横目に、ユフィは額に汗を滲ませていた。確かに戦力は増している。だが、帰路が分からぬこの状況は、体力的にも精神的にも負担が大きすぎるのだ。
で、どっちから進むんだ?
迷ってるならどっちでも
いいんじゃないっすか?
駄目よ!
落ちた場所の方角を推測して
より入口に近い方向に進むわ。
落ち着けってユフィさんよ。
確かに危険だし、
言ってる事は正しいけど
焦っちまったら
判断を誤るぜ。
焦ってなんか……
ただ笑ってられる
状況じゃないのよ。
あいつらの楽観的なとこは
俺は嫌いじゃねぇけどな。
僕も少し気持ちが
和らぎました。
そうですね。
知らず知らずの内に
助けられているかもしれません。
まぁ、本当は
馬鹿なだけなんだけどな。
…………
そうかもしれないわね。
それ、
馬鹿を肯定してるのか?
ご想像にお任せするわ。
危機的状況は何も変わらないが、ユフィにも少しの心の余裕が生まれたようだった。
良い意味での心の余裕。責任感からくるユフィの焦りは、僅かとは言え、大きな意味を持つ余裕に助けられた。
二階層の探索が慎重に進められた。
予測した最短ルートに帰路はなく、踵を返すユフィ達。反対側を探索するが、分帰路が沢山あり、なかなか階段に辿り着けなかった。
その間、魔物に幾たびも遭遇したが、前衛の三人とユフィの援護で難なく乗り越える事が出来た。皆が驚いたのは、あれほど苦戦したウェルキアに遭遇した時、本当にジュピターが圧巻の強さを見せ瞬殺した事だ。
オイラが言った通りだろ?
おどけてみせた小さなジュピターが、頼もしく見えたのは言うまでもないだろう。
だが、二階層での階段探しは続く。
おそらくはこの通路の先に、
一階で見付けて降りなかった
あの階段に繋がるはずです。
マッピングをするアデルは、一階層との位置関係を把握していた。アデルのマッピングは迅速・正確・丁寧で非常に精密なものだった。
今までにない感じ……。
これは……?
新手の魔物!?
通路の先の闇から姿を現したのは、一振りの長剣を持つ骸骨だった。
アンデッドであるにも関わらず、気品すら感じるその風格。達人を思わせるリラックスした構え。背景の闇よりも深い眼球部分の暗黒は、ハル達の胸の底にある恐怖心を掻きまわした。