――迷宮一階層某所。
――迷宮一階層某所。
隙だらけっすよ!
ハル達は昨日と見違えるほど成長していた。
アンデッドアクスにとどめの一撃を放ったハルは、額に汗を滲ませながら言った。
やったっす。
自分にも倒せたっすよ。
俺やユフィのアシストも
忘れるなよ。
あっという間でしたね。
ダナンの新しい武器が
意外に合っているみたいね。
その言葉にダナンは、鉄棍を肩に担ぎ得意げな顔を見せた。ユフィの鞭もそうだが、近接攻撃の要であるダナンの武器がある今、パーティの戦力は充実していた。初陣の必要以上の緊張感もほぐれてきているのも一因だろう。
オイラ今なら、
ウェルキアと遭遇しても
瞬殺出来る気がするぞ。
おいおい
それは油断しすぎじゃねーか?
私が察するに、
彼の言葉はそれほど
油断がある風に思えません。
自信の現れですね。
凄いです、
ジュピターさん。
まぁそれほどでも
ないけどな。
ぃよ~っし!
自分もジュピターに
負けないように
張り切っていくっすよ!
両腕をグルグル回し張り切るハル。まだまだ元気が有り余っている様子で、ユフィに次の行先を聞いてみた。
油断をするわけじゃないけど
この調子なら
まだ奥に行けそうね。
私達にとって未踏の地だから
慎重に進みましょう。
ユフィの言うように、慎重に、ロココの感覚も頼りにして、ゆっくり進むハル達。すると一番後方にいるアリスが、コフィンに何か尋ねていた。
本当にいいんだな?
初めから決めていた事です。
まったく強情なやつだ。
そう言われる自分が
嫌いではないです。
何の話をしているか分からない。未踏の地を進んでいる現状に問題はなさそうだ。だが、それ故に不穏な気配を感じた。
え!?
ち、近い!?
皆っ!
構えて!
ロココの反応にいち早くユフィが声を上げる。そして武器を構え、周囲への警戒を強め索敵の為、視線を四方に走らせた。
ロココ、魔物ね?
私には見えないけど
前方かしら?
大きな魔気の反応です。
しかもどこからか
分からないですが、
と、とても近い反応です!
近いだと!?
どこにも何も
居やしねーぞ!!
どっからでもオイラが
返り討ちにしてやる。
な、何も見えないっすよ。
本当っすか?
皆さん、
落ち着きましょう。
きっと何かを
見落としているはずです。
アデルの言う通り。
ロココ、反応は確かなの?
ああ……
ロココの青ざめる表情に緊張感が走る。そしてロココの視線は足元に落ちていった。
足下に意識を向ける前に、地面がグニャリと揺れる。自らの身体を支えていた地面が形を崩し、次の瞬間には膝上までグニャグニャした地面に飲み込まれていた。
トリックスライムです。
本来空間である場所で
床に化ける魔物ですね。
身体に害はありませんが……
全員の身体は、もう胸から上ほどしか見えていない。抵抗するも、支えになるものが何一つとしてないのだ。
この状況に至れば
もう落ちるしかありません。
アドバイスするなら
受け身を取ってください。
ぐらいでしょうか。
コフィンの声は遠ざかり、身体はトリックスライムに引きずり込まれる。ハル達はなすすべもないまま、息を止める事しか出来なかった。