――迷宮一階層某所。

ハル

隙だらけっすよ!

 ハル達は昨日と見違えるほど成長していた。


 アンデッドアクスにとどめの一撃を放ったハルは、額に汗を滲ませながら言った。

ハル

やったっす。
自分にも倒せたっすよ。

ダナン

俺やユフィのアシストも
忘れるなよ。

アデル

あっという間でしたね。

ユフィ

ダナンの新しい武器が
意外に合っているみたいね。

 その言葉にダナンは、鉄棍を肩に担ぎ得意げな顔を見せた。ユフィの鞭もそうだが、近接攻撃の要であるダナンの武器がある今、パーティの戦力は充実していた。初陣の必要以上の緊張感もほぐれてきているのも一因だろう。

ジュピター

オイラ今なら、
ウェルキアと遭遇しても
瞬殺出来る気がするぞ。

ダナン

おいおい
それは油断しすぎじゃねーか?

コフィン

私が察するに、
彼の言葉はそれほど
油断がある風に思えません。
自信の現れですね。

ロココ

凄いです、
ジュピターさん。

ジュピター

まぁそれほどでも
ないけどな。

ハル

ぃよ~っし!
自分もジュピターに
負けないように
張り切っていくっすよ!

 両腕をグルグル回し張り切るハル。まだまだ元気が有り余っている様子で、ユフィに次の行先を聞いてみた。

ユフィ

油断をするわけじゃないけど
この調子なら
まだ奥に行けそうね。
私達にとって未踏の地だから
慎重に進みましょう。

 ユフィの言うように、慎重に、ロココの感覚も頼りにして、ゆっくり進むハル達。すると一番後方にいるアリスが、コフィンに何か尋ねていた。

アリス

本当にいいんだな?

コフィン

初めから決めていた事です。

アリス

まったく強情なやつだ。

コフィン

そう言われる自分が
嫌いではないです。

 何の話をしているか分からない。未踏の地を進んでいる現状に問題はなさそうだ。だが、それ故に不穏な気配を感じた。

ロココ

え!?
ち、近い!?

ユフィ

皆っ!
構えて!

 ロココの反応にいち早くユフィが声を上げる。そして武器を構え、周囲への警戒を強め索敵の為、視線を四方に走らせた。

ユフィ

ロココ、魔物ね?
私には見えないけど
前方かしら?

ロココ

大きな魔気の反応です。
しかもどこからか
分からないですが、
と、とても近い反応です!

ダナン

近いだと!?
どこにも何も
居やしねーぞ!!

ジュピター

どっからでもオイラが
返り討ちにしてやる。

ハル

な、何も見えないっすよ。
本当っすか?

アデル

皆さん、
落ち着きましょう。
きっと何かを
見落としているはずです。

ユフィ

アデルの言う通り。
ロココ、反応は確かなの?

ロココ

ああ……

 ロココの青ざめる表情に緊張感が走る。そしてロココの視線は足元に落ちていった。

 足下に意識を向ける前に、地面がグニャリと揺れる。自らの身体を支えていた地面が形を崩し、次の瞬間には膝上までグニャグニャした地面に飲み込まれていた。

コフィン

トリックスライムです。
本来空間である場所で
床に化ける魔物ですね。
身体に害はありませんが……

 全員の身体は、もう胸から上ほどしか見えていない。抵抗するも、支えになるものが何一つとしてないのだ。

コフィン

この状況に至れば
もう落ちるしかありません。
アドバイスするなら
受け身を取ってください。
ぐらいでしょうか。

 コフィンの声は遠ざかり、身体はトリックスライムに引きずり込まれる。ハル達はなすすべもないまま、息を止める事しか出来なかった。

 ~航章~     74、成長の実感

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