エマが微笑む。
ごめんね、ルーシー
え?
ルーシーをこの世界に呼んだのはアールグレイの魂を呼び寄せるため
その為の餌だったのよ
エマが微笑む。
………
ごめんなさい
君の人形たちは君を恨んでなんかいない
火葬されたことを受け入れているよ
大好きだよ
ルーシー
みんな………
人形たちは微笑んでいた。
優しい笑顔で、私を包み込む。
その真ん中には歪な木彫りの人形の姿もある。
私は、彼の元に歩み寄った。
あなたの事、覚えている
………
私がパパとママに作ったお人形
幼い私の手作りの人形だ。
彼も、あの日火葬されてしまったのだ。
木だから、よく燃えたのを覚えている。
あの時、奥様は衝動的に家中の人形を火葬した
その中に娘からのプレゼントがあったことに気付いたのは、燃え盛る炎の中で儂を見つけたとき
………
酷く悲しそうに儂を見ていた
私はパパとママに嫌われたって思ったの。
これ以上嫌われたくなくて、私は人形たちのことを忘れたの
君の両親は君を嫌ってなどいない
……じゃあ、どうして貴方まで火葬したの?
納得できないだろうが、間違えて火葬してしまったのだ
…………
彼らはそれを後悔していた。
ルーシーがどれだけ悲しかったかを理解した。あのタイミングで全ての人形を火葬するべきではなかったのだと気が付いた。だから
ルーシーの誕生日に新しい人形を買おうとしたんだ。
その時に事故にあった
それって、あなたが火葬された後の話だよね。どうして知っているの?
君の父親……旦那様の魂がここに来たのだ。これは奇跡だな
パパが……
旦那様はそれまでのことを儂に伝えた。
もしも、ルーシーがここを訪れるときが来たら、伝えてくれと
………
お誕生日おめでとう、ルーシー
………っ
それは、私が聞くことの出来なかった言葉だった。
そして、今日聞きたかった言葉。
私の誕生日は、両親たちの命日となった。
だから、私は自分の誕生日を祝うことが出来なくなった。
思い出してしまうから。
誕生日パーティーの準備をして、エルヴィンと二人で大人たちの帰りを待っていたあの日。いつまでたっても彼らは帰ってこなかった。
チャイムの音に玄関先に駆けだしていた。
何だかすごいサプライズが待っている気がして、ドキドキしながら声をかける。
おかえりなさい!
帰って来たのは両親の声ではなかった。
近くの教会に住む神父の声。
嫌な予感がした。
この扉を開きたくなかった。
開いた先には真っ青な顔色の神父さまがいて、私とエルヴィンを交互に見て、
両親の死を告げたのだ。
とても悲しかった
でも、今は元気だし幸せだよ
見れば分かる。ルーシーに必要なのは、エルヴィンだということもね
え?
アールグレイはエルヴィンを連れ込むと無理矢理身体を奪って、この世界から脱走した
エルヴィンが抵抗しなかったのは、罪の意識があったのだろう
エルヴィンったら、自分の所為だと思っていたのね
私は気絶したままのエルヴィンを見下ろす。
優しいから、ルーシーがやったことも全部自分の所為にしてしまう困った人だ。
ルーシーの側にいるべきはエルヴィンであって、アールグレイではない。だからアールグレイを再びここに呼び寄せる方法を考えた
それが、私
そうだ。ルーシーと一緒にいるためにエルヴィンの身体を奪ったのに、ルーシーがこちらの世界にいては意味がないだろ?
まんまと、アールグレイは戻って来たわね
囮にして申し訳なかったわ
ちょっと、びっくりしたけど。怒ってないよ
ルーシー
だって、お蔭でみんなと再会できたから
会えないはずの友達とも会うことが出来た
ここにいるみんなが大好き
ルーシーのように人形を愛し、人形に愛される子と出会えたこと……私たちは幸せに思うよ
チップはどうなったの?
大丈夫、再生するから
良かった
ルーシー、そろそろお別れよ
お別れしないといけないの?
ええ、ここは人形の国。人間が長居してはいけないわ
もう一度、俺たちとの別れを乗り越えるんだ。大人になるために
………私、絶対に忘れないから。貴方たちとの思い出を子どもたちに伝えるわ
………さよなら、ルーシー
さよなら、みんな
エルヴィンと仲良くね