――冒険者区、中央通り。

 冒険者区のメインストリートである中央通りを、ハルとジュピターは歩いていた。自主練後の小腹を満たす為、訓練場から酒場に向かっている途中だ。

ハル

さぁ、メシっすよぉ。

ジュピター

よく食うやつだな。

ハル

ジュピターや
ジュピター爺ちゃんみたいに
強くなるためっす。

ジュピター

あんまりウチのジッチャンを
過大評価してたら
現物見た時ガッカリするぞ。

ハル

そうなんすか?

 苦笑いで返すハルは、ゴッツ爺を思い出していた。確かにゴッツ爺も凄腕の鍛冶屋だったらしいが、寝る前いつも飲んだくれてダラダラした姿を見せていたからだ。










 そして――――、まだ見ぬ両親の事も頭に過った。

 酒場にはもうユフィやリュウ達は居なかった。

 目についたのは、モロゾフやデメル達のテーブルだった。

モロゾフ

おう、てめぇら
酒、注ぎにきたのか?
良い心掛けじゃねぇか。

デメル

おうハルか、こっちだ。
朝まで飲もうぜ。

ヴィタメール

やぁ、ハル。
初陣の話、聞かせてよ。

 大して腹も減っていないのに、嫌な予感の走るフィールドに来てしまった……。そんな顔を見せているのはジュピターだったが、ハルはお構いなしにそのテーブルに飛び込んだ。

ハル

いやぁ~
聞いてくれるっすか。
長くなるっすよ。

 おいおいおいおい、何、自ら長居する発言をするんだ!? と聞こえてきそうなジュピターの顔は歪み、引きつっている。

キャロウェイ

…………。

 教官のキャロウェイだ。今はリュウのパーティの引率をモロゾフと一緒にしているベテランで、ハルとの接触はこれが初めてになる。

 騒がしいデメル達と違い、物静かな雰囲気のキャロウェイ。歯に衣を着せない毒舌とは知っているが、おしゃべりではない大人の男性というイメージが強い。

モロゾフ

おうおう、チビスケ。
久し振りじゃねぇか。
おぅ、ぃよぉ~。

ジュピター

そそそ、そぅ……

ヴィタメール

あの時はまだ
訓練生になる前だったもんね。

デメル

相変わらずモジャモジャだな。
おー、よしよしよしよし。

ジュピター

ちょ、やめろって。
オイラの髪で遊ぶなって。
ぅわー!
セットが台無しにぃっ!

モロゾフ

セ、セットだと。
それセットしてやがったのか!?
って、ぅお!!
何だそれ!?

ハル

ジュピター、
モジャモジャが
デカくなってるっす。

ヴィタメール

身長伸びて良い感じだね。

デメル

そりゃぁ良い!
どこまでデカくなるか
ためしてやる。

ジュピター

ちょ、やめ、
やめてくれぇー!

ハル

はひぃ~、
やっぱりジュピターは
飽きさせない男っすね。
多分ロココくらいなら
中に隠れられるっす。

キャロウェイ

…………。

 騒ぎまくるテーブルを横目に、キャロウェイは樽酒をグラスの中で遊ばせる。爆笑していたハルと目が合っても、何も言葉を発さなかった。

ハル

あ……、自分ハルっす。
リュウとは一緒に
ディープスに来た仲間っす。

キャロウェイ

…………

ハル

明日もリュウ達のこと
よろしくっす。

キャロウェイ

…………

 全く反応しないキャロウェイだが、ハルはお構いなしに話し続ける。

ハル

でも自分、教官が
迷宮に入る冒険者だったとは
知らなかったっすよ。

モロゾフ

何言ってやがる。
教官みたいな仕事ぁよぉ
片手間なんだよ。

ハル

おおおー!
それじゃあやっぱり
聞いとかなくちゃ
いけないっすよ。

ハル

自分、両親を探してるっす。
サクラって
冒険者知らないっすか?
もう17年も前の話っすけど。

デメル

前言ってた母ちゃんか。
俺達は全く知らねぇけど、
キャロウェイの兄貴は
そういや、世代は一緒だよな。

 デメルの視線もキャロウェイに向き、気になる一言を投げかけた。

 それを受けざるを得ないキャロウェイは、初めて口を開いた。

キャロウェイ

知らねぇぜ、
んな奴ぁよ。

 その答えは、ハルが今迄聞いてきた他の冒険者達と一緒だった。

 ~航章~     73、黙する眼差し

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