藍人は放課後、理衣に教えられた“秘密の場所”にいた。
藍人は放課後、理衣に教えられた“秘密の場所”にいた。
誰もいないひとりの空間で、昼休みの理衣の言葉を思い返す。
私、石井君のこと好きなんだ
恋愛感情ってなんなんだろうなぁ……
––––あれは告白、なんだろうか?
藍人には理衣の“好き”が伝わっていなかった。
好き、ってどういう感情なんだろう……
友達としての好きではない、と理衣は言った。
––––そんなこと、言われても
あれからなにも解決しないまま、三日後の七月十日、日曜日。
部活も何もない藍人は暇を持て余していた。
裕哉にメールを送ったのだが、返事は返ってこなかった。
暑いだけのなにも予定のない休日。
部屋にいてもなにもすることがなかった藍人は、当てもなく家を出た。
あの日から、理衣との距離感が変わった。
変わったことを藍人が自覚しているわけではなく、周りが変わったのだ。
と言っても金曜日だけだが、一日であんなに変わるものか、と驚くぐらいに変化したのだ。
裕哉やほかの友人たちには、ことの成り行きは一切伝えていない。
それでもしつこく藍人は質問攻めに遭った。
……無理もない、ふたりは名前で呼び合っているのだから。
付き合っているのか、という問いよりも、本当に秋野が好きなのか、という問いのほうが多いのは、藍人の性格で恋愛なんてどういう風の吹き回しなのかという男子たちの疑問が込められていた。
理衣はどうやったら藍人が恋心を理解してくれるのかを、毎日思案していた。
透子はといえば、藍人に恋愛感情を叩き込もうとし、両想いにさせて完全に自分に諦めと区切りをつけようと必死だった。
誰も彼もが、それぞれの感情の行き先を見失って、悩み続けていた。
行先を思いつかなかった藍人は、結局あの場所に足を向けた。
藍人がそこに行くと、座り込んで空を見上げる理衣の姿があった。
藍人……
第九話へ、続く。