二人がそれぞれ屋上に向かっている頃––––––––。
二人がそれぞれ屋上に向かっている頃––––––––。
透子は、自分の席で“失恋”の二文字とその苦い感情を噛みしめていた。
自分が悪いんだよ、気持ちを伝えなかったから
藍人も馬鹿じゃないんだから、あんな綺麗な子の告白なんか断らないよね
透子は、自分を責め立てていた。
––––––––後悔していた。
彼女は想いを伝えるタイミングを完全に見失ったまま、気づけば高校生になっていた、なんて。
タイミングなんて、自分で作れ、と。
言い訳しかできない自分が、ひどく情けなく思えた。
馬鹿みたい……
呟いてみても、なにかが変わるわけでもない。
わたし、理衣なら嫉妬もしないで祝ってあげられる
藍人はもう古くてぼろぼろの椅子に浅く腰掛け、理衣は鉄柵に腕を置いて空を眺める。
藍人が屋上にたどり着いて理衣に声をかけて以来、重い沈黙が続いていた。
秋野、話ってなんだ?
耐えられなくなったのか、藍人は推測をする、ということもせずに直球で問いかけた。
それぐらい鈍すぎた彼の性格が、透子を苦しめた一因でもある。
……今日は、私の好きな空だな
それに答えず理衣は言った。
確かに、今日は曇った空だけど。でも、そんなこと言いたいんじゃないんだろ?
そうだね、ごめんごめん
それから深呼吸をして覚悟を決め、理衣は告げた。
私、石井君のこと好きなんだ
……?
僕も、秋野のこと好きだよ
その返答に理衣はがっくりと肩を落とす。
違う、そうじゃなくて!
友達として、とかクラスメートとして、とかじゃないの
恋愛の、好き
……恋愛の、好き
藍人は理衣の言葉を繰り返す。
ううん……。よく、わからないんだ
石井君って、そんなに鈍いの? 好きな人とか、いたことないの?
そうだね。まったく興味がなくて……
そっか……。
いきなり付き合って、とは言わない。一緒に出掛けたりとか、してくれないかな……?
理衣は、もう諦めかけた気持ちで、それでも最後の抵抗を見せる。
それは、全然いいよ
伝わってないんだろうなあ。でも、これからが勝負だよね
あのさ、私も藍人って呼んでいい?
え、別にいいよ? じゃあ僕も理衣って呼ぼうかな
恋愛感情を意識しないからこその言葉だ。
藍人はそういう風に意識しないだけに、普通の男子高生なら言えないような恥ずかしいことをさらっと言ってのけた。
うん、そうしてくれていいよ。それじゃ、よろしくね!
満面の笑みで応えた理衣。
––––––––儚い
藍人はその笑顔を見たとき、なぜか『儚い』と感じた。
なぜこの二文字が浮かんだのか、彼にはまったく分からなかった。
なんだ、儚いって。……消えそう? ……どうして?
とりあえず、考えるのをやめて、藍人は言葉を発した。
改めて言うのもなんか変だけど。よろしく、理衣
儚いと感じた笑みを浮かべる理衣に、なんとか笑みを作って、そう言ったのだった。
第八話へ、続く。