笹倉 裕哉

なぁなぁ、夏休みなにするー?

いつも通り四限目まで授業をやり過ごし、昼休みを迎えた。

暑さでけだるそうな様子をみせつつも、裕哉が会話を切り出す。

麻山 雄介

俺は部活だなぁ

サッカー部の麻山雄介(あさやま ゆうすけ)が言う。

久山 恵太

俺も。遊べるのはせいぜいお盆休みぐらいかな

バスケ部の久山恵太(くやま けいた)も言った。

笹倉 裕哉

そっか、部活組は忙しいんだな

笹倉 裕哉

俺と藍人は、遊べるな!

石井 藍人

そうだな、でもまあ、宿題があるからなあ

麻山 雄介

うわ、真面目くさったこと言うなよ藍人。部活ないだけマシマシ

久山 恵太

そうだぜ、まったく。夏休みの男バスの練習はほんと死ぬレベルだからな

笹倉 裕哉

ま、頑張ってくれたまえ

麻山 雄介

なんか腹立つ!!

笹倉 裕哉

そうか? 部活、楽しめよ~

麻山 雄介

ぶふっ!!

笹倉 裕哉

うわ、雄介汚ねーよ!!

ご飯粒を噴出した雄介から距離を取ろうと、場が騒がしくなる。

そんなところへ、呆れ顔の透子がやって来た。

笹倉 裕哉

お、友野じゃん。どうした?

一番最初に気付いた裕哉が尋ねる。

友野 透子

にぎやかなのはいいけど……さすがに、汚いよ、麻山君

麻山 雄介

うえ、傷ついた!!

友野 透子

藍人、理衣が呼んでるよ

石井 藍人

え、なんで?

友野 透子

さぁ? 屋上に行ってるってさ。じゃ、そういうことで

友野 透子

……あんまり、待たせないであげてね

ひらひらと手を振りながら集団を離れる透子の心境は複雑だ。

––––––––理衣がなぜ藍人を呼び出したのかを知っているから。

藍人たちがにぎやかに弁当を食べているその教室の廊下側、隅の席で、理衣と透子は話をしていた。

友野 透子

ね、話ってなぁに?

透子は理衣に尋ねる。

秋野 理衣

あのね……

秋野 理衣

石井君って、好きな人、いるかな?

言ってから、なんか中学生みたいだねと付け足して笑った。

友野 透子

藍人? 絶対いないと思うよ。恋愛に疎すぎて将来が心配なぐらいだから

女子がこんなことを訊く理由はよほどのことがない限り、ひとつ。

透子は心の準備をして、次の言葉を待った。

秋野 理衣

そっか……じゃあ、言ってみようかな

友野 透子

え、なにを?

その意味をわかっていながらも、彼女は問うしかない。

秋野 理衣

私ね、石井君が好きなの

友野 透子

そうなの!?

その言葉が出てくると、待っていたはずなのに、やはり驚いた声が出てしまった。

ひとつ呼吸をして、気になることを訊いてみる。

友野 透子

……でも、早いね? 転入してきてから、まだそんなに経ってないのに

秋野 理衣

……まあ、そうなんだけどね

秋野 理衣

好きだと思ったなら、気づいたなら、やっぱりはやく伝えるべきだ、と思ったから

その何気ないひとことが、透子の心に鈍く刺さった。

彼女は––––––––藍人への想いを、もう小学生の時から伝えられていない。

藍人の性格を知り尽くしているからこそ、告白なんて出来なかったのだ。

友野 透子

そっか……

友野 透子

うん、でも、いいと思う、理衣がそう思うなら、伝えてみたら?

いつか、こんな日が来るんじゃないかと思っていた。

––––––––これは、今まで自分の気持ちを誤魔化して、決定的な行動を取ることから逃げ続けてきた罰だ。

だからこそ、透子は自分の気持ちを殺すことを決めて、面倒見の良いいつもの友野透子を演じた。

転入してきたばかりだが、すごく気が合う親友と言える彼女と、ずっと想い続けてきた幼馴染の恋を応援すると––––––––反抗する気持ちを殺して、殺して、決意したのだ。

第七話へ、続く。

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