今日も暑い。



教室の心もとない冷房からの空気に息を吐きつつ、藍人が自分の席で本を読んでいると、理衣が声をかけてきた。

秋野 理衣

おはよう、石井君

石井 藍人

おはよう

秋野 理衣

昨日は、付き合ってくれてありがとう

石井 藍人

こちらこそ、いい場所を教えてもらった

秋野 理衣

…………

秋野 理衣

あの場所のこと、誰にも言わないでね?

石井 藍人

え、なんで?

理衣の小声に、藍人もつい小声で返す。

秋野 理衣

だって、あんないいところがあるなんて知ったら、人が集まって、台無しになるじゃない?

石井 藍人

え、それはそうかもだけど……

秋野 理衣

あんまりにも人が多すぎると、いい景色なんて味わえないと思わない?

石井 藍人

あぁ、それもそうだね。
わかった、秘密にする

秋野 理衣

うん、そういうことで!

そう言うと、理衣は女子の集まる透子の席へ駆けていった。

一人になった藍人はまた本に視線を戻そうとするが、そこへニヤニヤ顔の笹倉裕哉が現れた。

笹倉 裕哉

なぁ、秋野と何話してたんだよ~

これはめんどうなパターンだと思いながら、藍人はそっけなく返した。

石井 藍人

別に

笹倉 裕哉

うわ、なんだよ、なんでそんな冷静なんだよー

石井 藍人

冷静でいるほか、どうしろって言うの……

笹倉 裕哉

とぼけやがって!
まあ、藍人らしいといえば、そうなんだけどさ

石井 藍人

そういうことにしといていいからさ、ね

笹倉 裕哉

まったく、惚れた腫れたの恋バナ、藍人の口から聴いてみたいもんだけどなあ

石井 藍人

そういう裕哉は恋愛経験なんてあるの?

笹倉 裕哉

……ないねぇ

石井 藍人

ぶっ

笹倉 裕哉

うわ、笑うなよ!!

呑気に会話を続けていると、チャイムが鳴り響く。

石井 藍人

起立!

担任が入ってきたので、藍人が声を上げ、挨拶を済ませる。

おはよう。今日も一日、しっかり勉強するように。さて、もうすぐ夏休みだが……

夏休み、か……。

藍人は窓の外をぼうっと眺めながら、もうすぐやってくる夏休みのことを考えた。

部活などはしていないが、来年が受験であることを考えると、好きに遊べるのは今年までということになる。

石井 藍人

夏休み、か……

担任の話なんてそっちのけで、藍人は憂鬱さと夏のけだるさを振り払う方法などに、ぼんやり思いを馳せていた。

第六話へ、続く。

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