今日も暑い。
教室の心もとない冷房からの空気に息を吐きつつ、藍人が自分の席で本を読んでいると、理衣が声をかけてきた。
今日も暑い。
教室の心もとない冷房からの空気に息を吐きつつ、藍人が自分の席で本を読んでいると、理衣が声をかけてきた。
おはよう、石井君
おはよう
昨日は、付き合ってくれてありがとう
こちらこそ、いい場所を教えてもらった
…………
あの場所のこと、誰にも言わないでね?
え、なんで?
理衣の小声に、藍人もつい小声で返す。
だって、あんないいところがあるなんて知ったら、人が集まって、台無しになるじゃない?
え、それはそうかもだけど……
あんまりにも人が多すぎると、いい景色なんて味わえないと思わない?
あぁ、それもそうだね。
わかった、秘密にする
うん、そういうことで!
そう言うと、理衣は女子の集まる透子の席へ駆けていった。
一人になった藍人はまた本に視線を戻そうとするが、そこへニヤニヤ顔の笹倉裕哉が現れた。
なぁ、秋野と何話してたんだよ~
これはめんどうなパターンだと思いながら、藍人はそっけなく返した。
別に
うわ、なんだよ、なんでそんな冷静なんだよー
冷静でいるほか、どうしろって言うの……
とぼけやがって!
まあ、藍人らしいといえば、そうなんだけどさ
そういうことにしといていいからさ、ね
まったく、惚れた腫れたの恋バナ、藍人の口から聴いてみたいもんだけどなあ
そういう裕哉は恋愛経験なんてあるの?
……ないねぇ
ぶっ
うわ、笑うなよ!!
呑気に会話を続けていると、チャイムが鳴り響く。
起立!
担任が入ってきたので、藍人が声を上げ、挨拶を済ませる。
おはよう。今日も一日、しっかり勉強するように。さて、もうすぐ夏休みだが……
夏休み、か……。
藍人は窓の外をぼうっと眺めながら、もうすぐやってくる夏休みのことを考えた。
部活などはしていないが、来年が受験であることを考えると、好きに遊べるのは今年までということになる。
夏休み、か……
担任の話なんてそっちのけで、藍人は憂鬱さと夏のけだるさを振り払う方法などに、ぼんやり思いを馳せていた。
第六話へ、続く。