HRも終わり、あとは日直の雑用を済ませるだけとなる。
藍人と理衣は、さっそく仕事に取り掛かった。
HRも終わり、あとは日直の雑用を済ませるだけとなる。
藍人と理衣は、さっそく仕事に取り掛かった。
あのさ、石井君。仕事終わったら寄り道しない?
特に共通の話題もなく、黙々と作業をこなしていたふたりだったが、理衣が唐突に沈黙を破った。
藍人は驚いたが、特に断る理由はなかったから、いいよ、とだけ返した。
仕事が終わり、ふたりは人がほとんど通らない道をゆっくり歩いていた。
秋野、いったいどこ行くんだよ?
藍人は、いまだ行先を告げない理衣にもう何度目かになる問いを向ける。
もうすこしだから
この返答も、もう何度目になることやら。
三十分近く経つと、景色がすこしずつ変わり始めた。
なぁ、秋野……
藍人がまた問いを重ねようとした時だった。
さぁ、着いた着いた!
それまで細い道を通っていたのだが、急に視界が開けた。
うん、今日もいい景色!
そう言いながら伸びをして、座り込む理衣。
ここは……?
藍人は、そこからの景色に圧倒されながら、理衣に問う。
私が引っ越してきてから見つけた、お気に入りの場所
来たばっかりのところで、よくみつけられたな。僕、こんな所があるの初めて知った
道に迷った時に、たまたま見つけたんだ。綺麗な景色を見るの、好きなの
その言葉を受け、藍人は視線を移す。
『絶景』。まさに、その言葉がぴったり合う場所だった。
すこしずつ暮れはじめた空と、眼下に広がる街が重なって、とても綺麗だった。
ここ、いいな
でしょ? 私、ここから見える空が特に好き
でも、あんまり晴れてるのは嫌かな
そう言いながら、彼女はすこし顔をしかめてみせた。
え、なんで? 晴れてて、綺麗なのに
えっと……
晴れてるときはすごく青くて綺麗なんだけど、曇ってるときの、あの灰色。どんよりしてて、今にも雨が落ちてきそうっていう感じがいいの
なんか、空が必死に本心を隠しているみたいで面白いなー……とかね
……珍しいな
藍人は思ったが声には出さない。
ふふっ。変でしょ。私、たまにそういうことあるんだー
別に、いいんじゃない。人それぞれの好き嫌いってものがあるんだし
へぇ、石井君はそういう返し方をするんだぁ
え?
いや、他の人に同じことを言うとさ、変すぎって笑われるんだよね。だから、ちょっと嬉しいかも
そうなんだ……
この時、藍人はいつもと違う自分の感情に気付いた。
でも、周囲の人間がしきりに言う、“恋”とはまたすこし違うとも感じていた。
第五話へ、続く。