いつものように、学校が終わったその日。
唯が事務所に行くと――

ひかり

じゃあね、じゃあね! 空子ちゃん!
今度の休みに私とデートしよっか!

空子

ふぇぇっ!?

(ぶはっ……!)

空子

ひ、ひかりちゃんと、デート、ですか……?

デート。慣れない単語に対して、空子だけでなく、唯も思わず驚いてしまった。

ひかり

え? そんなにビックリすることかな……?

ちょ、ちょっと待ってひかり……
言い方……言い方がね……?

ひかり

あ、唯ちゃんも来てたんだー
おつかれさまぁっ!

う、うん。色々してたら学校出るの遅くなっちゃって……

そ、それよりも

ひかり

うん?

ひかり、今度の休みに、空子とデートするの……? それともじゃれてるだけ……?

ひかり

ほんとのデートだよ?

(ぶはっ……!!)

ひかり

だって、深い深いお付き合いをしたいんだもん。これはもう遊ぶっていうより、デートかなって

そ、そういうものなのかな……

空子

そ、そういうものなんですね……

空子

私、ひかりちゃんとデートするの楽しみです!

でも、なんでデートになんて誘うの……?

ひかり

あーそれはね……

ひかり

空子ちゃん、あんまり放課後に友達と遊んだことがないっていうから……

空子

あ、はい、私、家のことや、商店街のお手伝いなんかもあるし、ついついそっちを優先しちゃって……

空子

それに、中学生のころまでは、夕方からは外に出ちゃだめって言われてたので……外には出ないようにしてたんです

良い子すぎる……

ひかり

でも、せっかく学生なんだもんね。この機会にさ、たまには、ぱーっと遊んだっていいんじゃないかな!?

空子

えへへ……その、遊ぶっていうのが、何するのかいまいちよく分からないのもあるんですよね

空子

あ、鬼ごっことか? それとも、かくれんぼ?

ひかり

……こーいう空子ちゃんだから誘ったんだぁ。分かるでしょ? 唯ちゃん

う、うん。なんとなく分かった……。空子はそういうとこあるよね……

ひかり

鬼ごっこもかくれんぼも楽しいし、大好きだけど……

ひかり

もっとこう、街での遊び方っていうのを経験してみるのも、悪くないと思うんだぁ

うーん……私は、空子はそのままでもいいと思うけどなぁ……

ひかり

もー、唯ちゃんってば過保護なんだからー

ち、違うから、妙な笑い方しないで……

ひかり

でも唯ちゃんだって、学校終わってから友達と遊びに行ったりするでしょ?

……まあ

ひかり

……え? もしかして、唯ちゃんも未経験?

……

ひかり

……

……その、あんまり声かけてくる子もいないし

一人で本屋さんに寄ったりはするけど……

ひかり

唯ちゃん、一見クールっぽい迫力美人だもんね

ひかり

うかつにカラオケとか誘って……

アナタ達、そんな低俗な遊びしてる時間があったら勉強でもしたら?

ひかり

みたいな冷たい目で見られたらどうしようって思っちゃうのかも……?

? ひかり、何か言った?

ひかり

ううんわたしべつになんにもいってないよー

ひかりはニッコリ笑ってごまかすが、妙に棒読みっぽい声に、唯は怪訝な表情だ。

ひかり

じゃあさ、唯ちゃんも私とデートしよ!

は?

ひかり

私とー空子ちゃんとー唯ちゃんでー三人でデート!

空子

わぁ……! 唯ちゃんも一緒なら、私ももっと楽しみです!

え? え?


唯が混乱しているうちに、デートは決定事項になっていた。






……。
…………。




そして、次の休日の午後。

空子と唯とひかりの三人は、駅近くの繁華街に集まった。

ひかり

色々プラン考えてみたんだけどね

ひかり

空子ちゃんと唯ちゃんは初心者だし、今日はオーソドックスな放課後の遊び方でいってみようと思うんだ

ひかり

ほら、いきなりマニアックなことしても、戸惑っちゃって楽しめないでしょ?

そ、そうだよね

マニアックな遊び方ってどんな遊び方なんだろう……


唯は思うが、口に出すのはやめておいた。

ひかり

そういうわけで、まずは鉄板のゲーセンから!

空子

ふわ……私、あんまりゲームセンターって入ったことないんですけど……

空子

ピカピカしてて、チカチカしてて、すっごく賑やかですね……

落ち着かないよね……

ひかり

ほらほら二人ともこっちこっち! 何にも怖いことなんかないから!

ひかり

私がついてるんだから大丈夫!

空子

そ、そうですね。ひかりちゃんについていけばいいんですね!

ひかり

そうそう、ぜーんぶ私にまかせておっけー!

ひかり

ヒマさえあれば友達と遊んでるからね、ベテランだよっ!

ゲーセンのベテランって一体……

空子

さあ、唯ちゃんも一緒に行きましょう!

空子

ひかりちゃんについていけば、何にも心配ないです。きっと

う、うん

ひかり

えへへー。二人とも、今日はいっぱい楽しもうね!

空子

はいっ! よろしくお願いしますっ!

空子

……ふふっ

空子、何笑ってるの?

空子

ひかりちゃんがすっごく楽しそうで、私まで楽しくなってきちゃったんです

……そうだね

ひかり

さーどれから行ってみよっか。あ、音ゲーとかどうかな?

空子

おとげ?

ひかり

こーいうのは説明するよりやってみた方が早いよ! はい二人ともこっちに来てー

張り切っているひかりに導かれながら、空子と唯は、ゲームセンターの奥へと足を踏み入れていった。






……。
…………。




……結論から言えば。

三人は、一時間もしないうちにゲームセンターから脱出する羽目になった。

空子

ご、ごめんなさい、ひかりちゃん……

わ、私達が慣れてないばっかりに……

ひかり

ううぅん空子ちゃん達が謝ることじゃないよ! 大丈夫大丈夫だから!

ひかり

ほ、ほら、慣れてないと、あーいうところっているだけで疲れちゃうもんねっ


容赦なく押し寄せる音と光の洪水に、空子と唯があっという間に目を回してしまった結果である。

空子

音も光もライブの時とそんなに変わらないのに、何がいけなかったんでしょうか……?

うーん……ライブするぞーっていう……気合いとか?

ひかり

あはは。ゲーセンは基本ゲームするところだし、ライブするぞーっていう気持ちにはなれないよねぇ

ひかり

そういう点では、ここは私達が楽しく遊ぶのには向いてるのかも

なるほど


ひかりが次に、空子と唯を連れて来たのは、この場所。

ひかり

じゃーん! 放課後遊びの鉄板第二弾! カラオケでーす!

空子

私、カラオケ屋さんって初めて入るんですけど、何だかすごいです!

うちの事務所のMRライブルームとそんなに変わらないよね……

ひかり

今は事務所とかに入らずに、こーいうところで動画撮って、ネットに上げる人も多いんだよね

ひかり

下手すると、個人でもテレビとか出てるアイドルより有名な人とかもいるし……

空子

わ、そんな風に活動してる人もいるんですか……!

ひかり

そうそう。私達もさ、アイドルとして負けてられないよねっ!

ひかり

でも今日はお休みだから、楽しいことだけするんだー♪

ひかり

じゃあ時間制限もあるし、さっそく歌ってこー!

ひかり

誰から行く? 誰も行かなかったら私が歌っちゃうよ?

空子

あ、あの、ひかりちゃん。この機械の使い方がよく分からないんですけど……

ひかり

あ、そっか。初めてだと分かんないよね

わ、私も曲の選び方が……

ひかり

唯ちゃんそれちょっと貸して。これはね、こうやってー……






……。
…………。




……やっぱり結論から言えば。

三人は、時間制限の二時間も経たないうちに、カラオケ店を後にしたのだった。

空子

ご、ごめんなさいひかりちゃん……あの、大丈夫ですか……?

ひかり

だ、大丈夫大丈夫! 私はぜーんぜん平気だよっ!

ひかり

私が勝手に一人で盛り上がっちゃっただけだからー……

ひかり

うぅ……

ムリした笑顔でそう言って、ひかりはテーブルにグッタリ倒れ伏した。

カラオケ店で、機器の使い方はひかりの丁寧で分かりやすい説明によってすぐにできるようになった空子と唯だったが。

空子も唯も、そもそも自分達以外の曲をあまり知らなかったのである。

ひかり

そ、そっかぁー……

ひかり

じゃ、私が知ってる曲どんどん入れるね! 空子ちゃんと唯ちゃんは、歌えそうだったら一緒に歌お!


そんな感じで、時間のほとんどをひかり一人が歌っていたのだった。

一人であれだけ歌ってたら、それは疲れて当然だよ……

空子

ご、ごめんなさいひかりちゃん。私があんまり流行りの曲を知らないせいで……

ひかり

ううぅんだーかーらー! 空子ちゃんが謝ることじゃないってばー!

ガバっと顔を上げたひかりがブンブン首を横に振る。

そうしてふと、ションボリとした表情になった。

ひかり

私が、空子ちゃんと唯ちゃんが楽しめる遊び方を考えなかったからだよ……

ひかり

二人とも、何だかごめんね……私一人ではしゃいじゃってて……

ひかり

今日、あんまり楽しくなかったでしょ……?

空子

そ……っ、そんなことないですよ!?


ションボリしてしまったひかりに、空子があわてた声を上げる。

空子

私、今日はひかりちゃんといっぱい遊べて楽しかったです!

空子

それに……

空子

ひかりちゃんが、私達を楽しませてくれようとしてたのがよく分かって、すごく嬉しかったです

ひかり

空子ちゃん……

うん。それは私も分かってるから、ひかりが謝ることじゃないよ

私こそ、ひかりの元気についていけなくてごめん……

ひかり

えっ!? だからそんな、唯ちゃんが謝ることでも……!

空子

あっ!

ど、どうしたの? 空子……

空子

今の唯ちゃんのごめんなさいで、私達みんな、一回ずつごめんなさいって言ったことになりますね!

ひかり

そ、そういえば、そうかな……?


唐突に空子が、ニコニコしながら言い出した。

空子

はい。だから……

空子

みんな一回ずつごめんなさいで、今日のごめんなさいは売り切れです!

ひかり

う、売り切れ……?

ふふ、そうだね……

こういうのって、言い出すとキリがなくなっちゃうから

ひかり

唯ちゃんも……

ひかりってさ、私から見ると、サービス精神がありすぎだと思う

私達はお客さんじゃないんだし、気を使って盛り上げようとして、一人でがんばらなくてもいいんだよ

ひかり

唯ちゃん……

空子

ひかりちゃん。ひかりちゃんさえよければ、また遊びに誘ってくださいね?

空子

私、次のからおけやさんの時までに、新しい曲を勉強しておきます!

ひかり

さ、誘ってもいいの……?

ひかり

私が誘っても、迷惑じゃない……?

全然迷惑じゃないし、楽しかったから、私もまた誘って欲しいな

次の機会までに、ゲームセンターの雰囲気に慣れておくから

ひかり、写真シール撮りたがってたのに、結局撮れずに出てきちゃったでしょ?

ひかり

あ……

ひかり

え、えへへー……バレちゃってた?

うん。チラチラ見てたし

空子

あ、私もひかりちゃんと唯ちゃんと、一緒に、写真シール撮りたいです!


空子と唯の言葉に、ひかりはやっと笑顔になった。

ひかり

そっか……うん、そうだよね。今日でおしまいってわけじゃないし……

ひかり

空子ちゃんも唯ちゃんも、また一緒に遊んでね!

空子

はい! もちろんです!

うん。また一緒に遊ぼう

ひかり

あ! これで今日はお開きー、みたいな雰囲気になっちゃってるけど

ひかり

せっかく集まったんだし、帰りまで一緒に楽しんでくれたら嬉しいなっ

ひかり

放課後遊びの最終兵器! ファミレスでおしゃべりー!

……やっぱりサービス精神多すぎだよね

空子

ふふ……でもひかりちゃん、また元気になってくれて良かったです

いつもの調子を取り戻したひかりに、空子と唯は思わず苦笑を漏らす。

でも、ひかりが嬉しそうだからいいよね、と。

そっと視線を交わし合いつつ、そんなことを思う二人だった。

高花ひかり:女子高生のあそび

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