休憩室の片隅で、ミユがこっそりと立っている。
よぅ来てくれたなぁ、やっちゃん
はう……あの、ミユさん、こんなところに呼び出して、なにか用事でしょうか……?
楓ちゃんもな? ずいぶん待っとったで。ふふふー
ミユさん、なんだかわるそうです
今日は自分、めっちゃ悪いで! まぁまぁ、楓ちゃんらには何も悪いことはせんから、こっち来て?
楓、八葉を手招きするミユ。
そうして三人でうずくまって、こそこそと顔を寄せあった。
今日来てもらったのはな、ちょっと二人に内緒の相談があったんや
自分らの共通点って、なんやと思う?
な、なんでしょう……中学生ですか?
自分高校生やし
ちゃうねん、自分ら三人の共通点と言えば……
貧乳
やん?
はうっ、ひどいですっ……! が、頑張ればおっきくなるはずです
私もこれから成長するよていですが
まぁまぁ。というわけで、三人で貧乳組を結成しようと思うわけや、どうかな?
む、胸を大きくするために頑張る集まりですか……?
私はそんなに小さいでしょうか……
自分の胸に手をあてて、胸を確認する楓と八葉。
ミユはそんな二人に構わず、さらに顔を寄せる。
貧乳だって結束すれば強くなれる気がする。自分らの絆はもっともっと確かなものになるで……!
それは、きずのなめあいというものでは
そや、積極的に傷をなめあってくで
そして悲しい運命をみんなで乗り越えていくんや
えっと、えっと、それで、何をする組なんですか……?
ひたすら巨乳を羨む
まったく救われないですぅ……!
ミユがうぅーんと唸り始めた。
そうやなぁ……せっかく貧乳組結成したんやし、何か活動せんとなぁ
えっ、いや、べつに活動しなくても全然いいです……!
そもそも結成におっけーしていませんが
よーし、分かった!
ミユがぽんと、手を打つ。
それならこうしよ。二人とももっと近う来て?
さらに頭を寄せ合って、ごにょごにょごにょ、と内緒の相談がはじまった。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
後日のことである。
みんな、おっはよー!
元気よく事務所に入ってきたのは、ひかりだった。
ひかりさん。おはようございます
既に事務所にきていた楓が頭を下げる。
ひかりさん、おはよぅ。今日もいい調子やな?
ミユもとろけるような、満面の笑顔だ。
えへへっ、まあね! 元気モリモリだよぉ~!
ラジオ体操とかしちゃお! いっち、にー、さん、しっ
溌剌なひかりの体操を、楓、ミユの二人がじっと見守る。
あまりに黙って見守ってくる二人に、さすがにひかりは動きを止めた。
あ、あれ? どうしちゃったの、かえちゃんも、ミユちゃんも
かんさつです
観察……?
どうしたらその具合にしあがるのか、じっくりと研究中。あんま気にせんといてな?
そしてまた、黙ってひかりを見つめる楓とミユ。
やっ、な、なんか気になるよ~!
……楓ちゃん、ほな、作戦コードQいこか
ミユが目で合図をして、楓がこくりとうなずく。
しょうちしました
な、なになになに!? なんでかえちゃんとミユちゃん、二人で結束してるの!?
ずるいずるーい、私も仲間に入れてよー!
ひかりさんにはざんねんながら、わたしたちのあいだに入る資格がありません
むしろ、敵みたいなやつです、かなしいさだめですね……
ええーっ! そ、そんなぁ!
衝撃でよろめくひかり。
リーダーはミユさんです
ごめんな?
な、な、なんで仲間に入れてくれないの……? どうしてもだめ?
んー、じゃあ、試してみよか。試験があるから、それをクリアしたらオッケーってことで!
私なんでもするっ、なんでもするよ!?
言うたな? 後悔しても知らんで?
――えいっ
はにゃぁっ!
ミユが、おもむろにひかりの胸を揉んだ。
ふわぁああ、マシュマロみたいやん! すっごいやわらかくておっきい! なのに張りがある
やはり敵でしたか
敵!? なんで!?
そら、楓ちゃん逃げるで~!
なんで逃げるの!? ぜんぜん分かんないよぅー!
じたばたするひかりを放って、ミユと楓は逃げ出した。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
さらに後日のことである。
何を臆してるんや、やっちゃん。そろそろラスボスに挑む頃合いやと思わん?
はうぅ、でも、でも……
八葉がチラチラと視線を送る先には。
――ソファーに座って携帯ゲームをやっているつかさがいた。
うちらの絆は強い。何も怖がることはないんよ?
滔々とミユが語り出す。
貧乳組が結成して数日。日々、自分らは乳の観察を続けてきた
巨乳を敵とし、敵わなくとも挑むことが活動目標
傷を負い、時には倒れ伏し、しょげかえりながらも続けてきた……そんな今の自分らには敵なしや!
むっ、難しいことは分かりませんが、頑張ってみます……!
八葉が覚悟を決めたのか、つかさへと歩み寄っていく。
あ、あの、つかささんっ
はいっ! なんでしょうか、八葉さん!
つかささんの……お、お、おっぱいをさわらせてくださいぃ!
八葉が真っ赤になって叫んだ。
つかさがきょとん、と目を丸くしている。
ようやったで、やっちゃん……!
その場の全員が少しは恥じらうことを予想していたが、
はいっ! 構いませんよ、どうぞ!
胸は一切のためらいなくさしだされる。
あ、ありがとうございますぅぅ!
八葉は、つかさの胸をおそるおそる触った。
あ、あ、あ……
ふあぁ、さわっているだけで幸せな気分になります……! 素晴らしいです!
ふふふ、そんな褒められると、照れてしまいます
つかささん、感動をありがとうございましたっ
八葉は頭を下げて、ミユの元へと戻ってくる。
それっ、逃げるでやっちゃん!
はいぃ……!
逃げていくミユと八葉に、つかさがぽかんとしてしまっている。
一体、なんだったのでしょう……?
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
休憩室で、ミユ、楓、八葉は再び集合していた。
あ~おもろかったなぁ? 無事にラスボスも攻略できたし!
三人で頭を寄せ合い、ミユは満面の笑みである。
……まんぞく、といえるのでしょうか
つかささんの胸、すっごいすっごい大きくて……っ
ますます悲しくなりましたぁ……
きずのなめあいは、やはり、むなしさをうむだけなのでは
にこにこしていたミユの瞳から、不意に光が消える。
……そうやね。その通りやった
自分、なんでこんなアホなこと思いついてしまったんやろう……
そうして――
その日、貧乳組は解散となったのであった。
あれ…ミユって何年生だったっけ……?(錯覚)