自分の状況が理解できなかった。






目を覚ますとそこは、最後に見た外の景色からガラリと変わっていたのだ。






身体に感じる、軽いが確かに温かみのある重み。
どこか落ち着く昔ながらの香り。
そして、昔から見慣れた白いカーテンとその室内の壁。

和田 守男

ここは……保健室……

そうだ。ここは学校の保健室だ。






けど、なぜ僕はここにいるのだ。






目覚めたての頭をフルに使い、記憶を振り返ってみた。






僕は今日もめげずに、桜さんと下校をするために声をかけて……それから……僕は……。






あぁ、僕はやってしまったのだ。






自分の意志が暴走して、人を傷つけてしまう「僕」が……。






あの時の僕は、どうなったっけ……。






完全に隔離された記憶の片隅を、覗きこむなんて、初めてな気がした。






それほど、思い出したくなかった事だったからだ。






あぁ、そうだ。
思い出した。

伊村延彦

おうおう、やっと目を覚ましやがったな

和田 守男

えっと……あなたは?

横を向くと、そこには桜先輩の他に可愛い先輩が一人に邪魔な先輩が一人。






それと、先ほどまでいなかった眼鏡をかけた先輩が立っていた。

伊村延彦

はぁ!? 俺を覚えてないのか……ってそうか。お前、俺が蹴り抜いたと同時に意識失ったんだもんな

和田 守男

あぁ、先輩だったんですね……

あの、狂った「僕」を止めてくらたのは先輩だったのか……。






ベッドから立ち上がり、身体を先輩に向けた僕は、流れる様にこう言った。

和田 守男

あの、助けてくれてありがとうございますは

伊村延彦

はぁ? お前、むしろ襲いかかって来てただろうが!!

和田 守男

まあ、そうなんですが。先輩が居なければ、僕はきっと昔の様なあやまちを……

伊村延彦

……? 昔ってなんだ?

やはり、そのワードに食いついて来た。






想定内だ。
状況を把握した瞬間から、話す覚悟は決めていた。

和田 守男

あの、桜さん

羽島桜

は、はい?

突然名前を呼ばれた事に驚いたのか、返事を返す前に身体を一瞬震わせた。






そこも可愛い桜先輩が好きだ。

和田 守男

聞いてほしい事があるんです

和田 守男

昔の僕の事を…………

室内に生まれた沈黙を感じながら、僕はそっと語りを開始した。

第20話 見上げてごらん、上の天井を

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