――食後の訓練場、中庭。

 ハルとジュピターが木剣を激しく打ち合わせていた。

ハル

速いっす。
何でそんなに速く
振れるっすか?

ジュピター

身体を速く動かすのも
重要だけど、
もっと重要なのは
心を早く動かすことって
オイラは習ったね。

ハル

心をっすか。

ジュピター

先を予測して
今の動きと同時に、
相手の裏をかくには
どうすればいいか考える。

ハル

難しそうっす。

ジュピター

言葉にするほど
ややこしくないって。
要は慣れだな。

ハル

そうっすね。
ジュピター、
もう一本っす。

 今迄と同じく、ハルはジュピターから一本も取る事が出来ないでいた。

 今日の探索ではっきりと分かった事だが、やはりジュピターは強かった。コフィンにあの後聞いた話では、ウェルキアは一階層の中で一番強い魔物と言って差し支えないようだ。ルーキーが出会えば死者が出る確率8割越えと言うのもうなずける。

 しかしそのウェルキアを一人で討伐したジュピター。その剣技がいかに鋭いかは言うまでもない。

ハル

うげぇぇぇっす!

ジュピター

さっきより遅いぞ。

ジュピター

で、もう一本だろ。

ハル

もちろんっすよ。

 何度も木剣を交える二人。考える事が苦手なハルは、ぎこちないながらも少しづつ身体が動くようになってきた。

ハル

ぷぴゅ~っす。
この心を早く動かすってのも
ジュピターの爺ちゃんから
習ったんすか?

ジュピター

そうだぞ。

ハル

おおー!
それなら自分も
その爺ちゃんから
習ってるようなもんすね。

ジュピター

まぁ、これは
正伝剣術でも教えられてる
ことだけどな。

ハル

そうなんすね。

ハル

……って、
ジュピターの爺ちゃんは
正伝剣術を使うわけじゃ
ないんすか?

ジュピター

もちろん正伝剣術も使うぞ。
ただ独自の奥義みたいな
ものがあって、それは
ジッチャンオリジナルだな。

ハル

おおおおおおおー!
奥義って凄いっす。
ジュピターもそれ
使えるっすか?

ジュピター

どっこいまだまだ早いらしい。
まったくむかつく話だけどな。

ハル

こんなに強いジュピターが
まだまだっすか……。
凄い技なんすね。

ジュピター

『見えないものを信じろ』
これが分からぬうちは
青二才らしい。

ハル

見えないものっすか……。
何っすかね?

ジュピター

オイラがジッチャンに
言われたのは、
「お前はこの世界からみれば
塵に等しい存在だが、
塵であることは確か」
だと。
何言ってるか分かんねーだろ。

ハル

意味不明っす。

ジュピター

しかも、見えないものと
何が関係してるか
さっぱりだしな。

ハル

分からなさ過ぎて
笑うしかないっすね。

ジュピター

だけど、刻弾を出せた時に
思ったんだけど、
刻弾や魔気の存在も
信じないと出せなかったんじゃ
ないかなってな。

ハル

自分も信じてるんすけど
出せないんす。

ジュピター

まぁ、それは過程であって
信じるところからしか
始まらないんじゃないかってな。

ハル

おおー、そーっすね。
それなら、
自分もジュピターも
必ず強くなれる。
そう信じるところから
始めるっす。

ジュピター

そーだな。

 ハルの満点の笑顔を受け入れたジュピター。そして直ぐに木剣を構える二人は、練習を再開させた。

 ~航章~     72、見えないもの

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